門番Aこと勇者の自業自得。
勇者生活いつかめっ!
今日はオペレーションIの決行日だ。ほとんど悪役に落ちていると自覚している俺でさえ、やはり緊張と罪悪感にさいなまれてしまう。それでも、先に進むにはこれしかないのだ。まぁ、頑張りたまえよ、門番C。
「王様に粗相のないようにな!(おぅ、勇者! 今日こそはスライム、倒そうなっ!)」
……ただ、こんな前向きなこと言われると罪悪感が増す。どうやら、俺のハートはとんでもないチキンのようだ。
それでも、俺がこの作戦を決行しなければ、これからもずっと、スライムに負け続ける日々を送らなければならなくなるのだ。ゲームの世界では、経験値を得てレベルアップする以外に強くなる手はないのだからしょうがない。
さぁ、行こうか、門番C。俺たちは一途、町の外を目指した。
『アリ○ハンの町へようこそ!』しか言えない町人Aの横を通り過ぎ、俺たちは外に出る。外に出た途端に、大きく広がっていた森が小さくなるから不思議だ。町から見た感じでは、森を抜けるのに何日かかかりそうに見えるのだが、外に出ると数分で抜けられそうな大きさになるのだ。このゲームで有名な七不思議のうちの一つである。
実はこの森、魔物など隠れられるようなスペースなんてない。だが、出てくる。これも七不思議のうちの一つなんだが……これ、正直超怖ぇ。だって、いきなり魔物が目の前に出現するんだぜ? 一発で死にかねない俺たちからすれば、恐怖以外のなにものでもないのだ。誰か助けてっ! 神様とかその辺出てきてっ!!
『スライムA、B、Cが現れたっ!』
そんな願いが届くはずもなく。出てくるのは神様なんてもんじゃなく、魔物だ。BGMが、切羽詰ったものに変わる。これが、緊張を誘うのだ、まったく。だが、これで……。
―――――オペレーションI・始動だっ!
俺は、剣を構えた門番Cの後ろへサッと下がり、ヤツが気付いてこちらを向く前にその背中をドンッと押してやる。俺によって押し飛ばされた門番Cは、無情にもスライムの群れに突撃してしまった。
ふはは、これがオペレーションIの全貌……オペレーションイケニエの全貌だっ!
よし、今のうちにスライムをぶちのめしてやる! 門番Cに体当たりすることに夢中なスライムを倒すのは、今がチャンスだっ!! 俺は『ゆうしゃのけん』をすらっと抜き、中段に構えて突撃する。
はぁっ! ふっ! とぅっ! そんな掛け声と共に、ザシュっとスライムたちを三枚卸しにしてやる。さすがは“ゆうしゃのけん”で、攻撃が当たりさえすれば、スライムなんか目じゃない。一瞬でスライムを倒すことに成功した。
ててててってってってー! そんな音と共に、俺のレベルが上がるのが分かる。今の俺はレベル2。ちょっとは強くなったかもしれない。そんな優越感に浸りながら、俺は憔悴している門番Cの元へ歩き出す。調子はどうだ?
「い、いいわけねぇだろ…」
おっと、口に出してたか。
……ん? なんでお前、普通にしゃべってんだ? 『王様に粗相のないようにな!』っていう主音声が消えて、いつもなら副音声扱いの声だけが聞こえたぞ?
「お前は、とんでもない勇者だな。せっかく、お前の門番時代の夢を叶えてやったというのに、仲間を生け贄にするとは」
な、なんだよ、これ。門番Cが壊れた?! これもバグなのかよ?!
「……反省の色が見えんな。ならば、罰を与えねばなるまい」
最後に、フッと意味深な笑みを残し、門番Cは光となって散っていった。なぜに?
でも、まぁいい。これで俺はレベル2。次のイケニエさえ見つければ、だんだんと一人旅が出来る身体に成長していくことだろう。
と、そんな未来を考えて、悪役的笑みを浮かべていると、唐突に便利表示が現れた。
『魔王が現れた!』
は、え、ちょ、はぁぁぁ?! なぜっ!? おかしい、おかしいです、バグってレベルの話じゃ済みませんっ!!
「世界の半分を……」
「いいえ(どうでもいいわぁぁ! どっちにしろ俺を殺すつもりだろ?! あれですか、王様の『おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない』という言葉聞きたかったりするわけですかぁぁ?!)」
俺のそんな抗議など聞こえるわけもなく。真っ黒い竜の姿をした魔王は、その爪を俺の柔な『たびびとのふく』に向かって振り下ろした。
『門番Aはいきたえた…』
俺は勇者という名の悪役。悪役の中でも下っ端で、出すぎたマネをして罰を与えられた、愚かな門番Aさ。