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「どう・・して、なぜ!」
林を抜ければそこは畑、少し離れたところには何軒か並び立つ、人家が見える。
-そのはず、なのに・・・。
「なにが・・・なにがあったんだ・・!」
炎を放たれ、人靴と馬蹄により踏みにじられた畑を走り抜け、人家のある辺りへ、ぶすぶすと煙の上がっているそこへと男は向かった。足がもつれ、思うように前に進まず、転ぶことも何度か。しかし、何とか村へとたどり着く。
「どうしたんだ・・・」
焦げ臭い臭いの充満する村の中、男は立ちつくした。
『ナニカガオコッタ』そのことを認められず、男の思考は凍り付いていた。そして、よたよたとある方向へと向かう。
「ディラ、今帰ったぞ!」
ある家の前で、男は大声を上げた。だが答える声はなく、その声はむなしく宙に消える。 彼はそろそろと手を伸ばし、戸口に手をかけた。
―グギィィーッ
扉の軋む音だけが、その静まりかえった村に響いた。
中は、暗闇で覆われていた。
いや、男の陽光の下に慣れた目が、薄暗い部屋の中をよく見えなかっただけのこと。
よどんだ空気の中深呼吸をし、瞬きを数回。ようやく薄明かりになれた目で、男は辺りを見回した。知らず知らずのうちに、手が壁をまさぐる。
「ディラ、ディオラっ、どこだ、・・・どこに」
恐怖のため、であろうか。男の口からは、かすれたような声しか出てこない。それが、いつになく彼の気に障った。
「寝てる・・のか。・・・そうだよな」
震える声で気休めを呟く。だが男はその言葉にしがみつき、次の部屋へと足を進めた。
―ギィィッ
ゆっくり戸とを開いた男の足下に、ころころと、転がってくる物がある。
「何・・だ?」
子供のおもちゃであろうと思い、彼はそれを拾い上げた。そしてよく見ようと、目の高さまで持ち上げ--
「・・・!」
声にならない悲鳴を上げた。
「・・・ナディル、お前」
彼の手にあるのは、息子の変わり果てた姿。
虚ろな眼窩から、瞳孔の開ききった瞳が覗き、宙を凝視する。薄めの唇は血の気を失い、紫に染まっており、半分乾き、粘ついた血がその回りに彩りを添える。
血のこびりついた、頭部だけという、変わり果てた姿になった息子を、男は無言で抱きしめた。
「ナディル・・・!」
乾いた声が漏れた。そのまま、引かれるように男は足を前へ進め--
「ディラ、クリス・・・!」
惨劇が、目前にあった。