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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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お揃いのタキシードとドレスで結婚します! 男装令嬢とオネェ公爵の幸せな巡り合わせ

作者: のぞ
掲載日:2026/09/20

「……もう、疲れたわ」


王宮の夜会。


煌びやかな音楽と、貴族たちの笑い声が響く庭園の片隅で、公爵家嫡男アレク・フォン・ヴァルディアは噴水の陰に身を隠していた。


普段の彼は、非の打ち所がない。


公爵家の嫡男として領地経営にも長け、王宮では若くして重要な仕事を任され、書類を渡せば翌日には片付いている。


使用人たちからの評判もいい。


――ただし。


「アタシ、オネェなのよねぇ……」


夜空を見上げながら、アレクはため息をついた。


幼い頃から自分の好きな服を着て、好きな髪型をして、可愛いものを愛でてきた。


そして今では、完全に自分の性別に縛られず生きている。


もちろん、それを隠すつもりもない。


だが。


「公爵家の跡取りがこんなんじゃ、婚約者なんて見つかるわけないじゃない……」


婚約の話が出るたび、アレクは断ってきた。


自分の生き方を隠して誰かと結婚するつもりはない。


だからといって、


『オネェで女装もします』


と堂々と言って婚約してくれる令嬢が、そう簡単に現れるとも思えなかった。


「家督はどうするのよ……。仕事は山ほどあるし……。最近じゃお父様まで『そろそろ婚約を』って毎日言ってくるし……」


そのときだった。


「……ずいぶんと景気の悪い独り言だな」


「ひゃっ!?」


振り返ると、そこには一人の貴公子が立っていた。


整った顔立ち。


落ち着いた物腰。


上品な仕立ての礼服。


どこからどう見ても、育ちの良い青年だった。


「盗み聞きしてごめん。だが、俺も少し休みに来たんだ」


「そ、そう……」


「それにしても、公爵家の嫡男ともあろう人が、噴水の陰で『もう疲れた』か」


「ちょっと!」


アレクは頬を膨らませた。


「アタシだって疲れるのよ!」


「……アタシ?」


「そうよ!」


酒が入っていた。


いつもより、かなり入っていた。


そのせいもあって、アレクの口は止まらなかった。


「アタシはオネェなの!」


「……ほう」


「女装もするわ!」


「なるほど」


「可愛いドレスが大好きなの!」


「そうか」


「でも公爵家の嫡男だから、家督は継がなきゃいけないし、仕事は山ほどあるし、周りは勝手に『男らしく』とか『跡取りらしく』とか言ってくるし!」


「うん」


「婚約者なんて見つかるわけないでしょう!?」


「……そうだな」


「でしょ!?」


アレクは目を潤ませながら叫んだ。


「アタシだって誰かと一緒に暮らして、好きな服着て、毎日うふふって笑って暮らしたいのよぉ!」


「……」


貴公子はしばらく黙っていた。


やがて。


「……分かる」


「え?」


「俺も似たようなものだ」


「あなたも?」


「俺も、婚約者が見つからない」


「まあ!」


その夜。


二人は噴水の陰で、延々と愚痴を言い合った。


アレクは自分がどれだけ仕事で苦労しているか。


貴公子は自分がどれだけ周囲から結婚を急かされているか。


最後には二人とも、


「結婚って大変ねぇ!」


「本当にな!」


と、すっかり意気投合していた。


そして三日後。


「……は?」


アレクの前に、一通の釣書が置かれた。


「伯爵家から?」


「はい」


母親である公爵夫人が嬉しそうに微笑んでいる。


「先日の夜会でお話した伯爵家からですの」


「……お母様」


「なあに?」


「その伯爵家、アタシが女装するって知ってる?」


「ええ」


「オネェだってことも?」


「もちろん」


「……なぜ?」


「さあ?」


公爵夫人はにっこり笑った。


「でも、お相手のご令嬢も少々変わった方らしいの」


「……ご令嬢?」


「ええ。二女の方よ」


アレクは釣書を見つめた。


「……一体どんな人なのよ」


こうして、一週間後。


アレクは当然のように女装して見合いの席へ向かった。


「アタシはアタシよ」


淡い青色のドレス。


繊細なレース。


美しく整えられた髪。


胸を張って伯爵邸へ向かう。


「これで嫌われたら、それまでよ」


そう呟いて応接間へ入った瞬間。


「……あ」


「……え?」


そこにいたのは。


先日の夜会で噴水の陰にいた、あの貴公子だった。


「あなた!?」


「君か!?」


二人は同時に叫んだ。


そして。


「…………」


「…………」


沈黙。


やがてアレクが口を開いた。


「まさか……」


貴公子は静かに笑った。


「俺が、この見合い相手だ」


「嘘でしょ!?」


その瞬間。


部屋の隅にいた伯爵夫人が、にこにこしながら説明した。


「紹介するわね。うちの次女、アリシアよ」


「……アリシア?」


貴公子が優雅に礼をする。


「改めまして。アリシア・フォン・ベルフォード。女です」


「……女!?」


アレクの目が丸くなる。


アリシアは苦笑した。


「普段は男装しているからな」


「どうして!?」


「剣術が好きだから」


「……」


「馬も好きだ」


「……」


「可愛い女の子を見るのも好きだ」


「……」


「可愛いドレスも好きだ」


アレクが震えた。


「……あなた」


「なんだ?」


「アタシたち……」


「うん」


「めちゃくちゃ気が合うんじゃない?」


「俺もそう思っていた」


二人は顔を見合わせる。


そして。


「うふふ」


「ふふ」


「きゃっきゃっ」


「ははは!」


その日、見合いは異例の速さで決まった。


二人とも。


「この人しかいない」


と思ってしまったのである。


数週間後。


王都では、とんでもない噂が流れ始めた。


『公爵家の嫡男が伯爵家の令嬢と婚約した』


ここまでは普通だった。


しかし。


『婚約者同士が二人とも自分の好きな格好をしている』


という情報が追加される。


そして結婚式当日。


教会の扉が開いた。


「まあ……!」


参列者たちから、一斉に声が上がる。


新郎アレクは、純白のタキシード。


新婦アリシアも、純白のタキシード。


二人とも胸元には同じデザインの青いブローチ。


「…………」


「…………」


向かい合った二人は。


「ふふっ」


「うふふ」


嬉しそうに笑った。


しかし、それだけでは終わらなかった。


衣装替えの時間。


今度は二人とも、揃いの純白ドレス姿で現れた。


「まああああ!」


「お揃い!?」


「二人とも似合ってる!」


アレクは満面の笑み。


「ねえアリシア! このドレス最高じゃない?」


「最高だな! 裾の刺繍も素晴らしい!」


「でしょう!?」


「それにこの髪飾り!」


「あなたも素敵よ!」


「あなたも!」


「うふふ!」


「きゃっきゃ!」


完全に二人だけの世界だった。


その様子を見て、公爵夫人は涙を拭った。


「……本当に良かったわ」


隣では伯爵夫人も微笑んでいる。


「ええ。あの子、あんなに楽しそうに笑うんですもの」


さらにその隣。


公爵家の当主は、頭を抱えていた。


「……息子の結婚式だというのに、私は一体何を見せられているんだ」


伯爵は肩を叩いた。


「諦めろ」


「……そうだな」


こうして。


公爵家嫡男アレクと、男装の麗人アリシアは夫婦になった。


仕事の日。


アレクは完璧な公爵家当主として働き。


アリシアは騎士たちと剣を振る。


休日。


二人で馬に乗り。


可愛い服を選び。


お揃いのドレスを着て。


時にはお揃いのタキシードを着て。


鏡の前に並んでは。


「ねえ、アタシたち可愛くない?」


「最高に可愛い」


「でしょう?」


「俺も可愛いか?」


「もちろんよ!」


「うふふ」


「きゃっきゃっ」


そんな二人を見た使用人たちは、すっかり慣れた様子で微笑む。


「今日も仲がよろしいですね」


「ええ」


「お二人とも幸せそうです」


そう。


二人が求めていたのは、


『普通の夫婦』


ではなかった。


自分らしく生きることを許してくれる相手。


好きなものを一緒に笑って楽しめる相手。


そして何より。


「あなたと結婚できて、本当に良かったわ」


「俺もだ」


「これからもずっと一緒ね」


「ああ」


二人は顔を見合わせて。


「うふふ」


「きゃっきゃ」


今日も幸せそうに笑うのだった。

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