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40話

 深い赤色をした豪奢な椅子から勢いよく立ち上がると、カトリーヌは室内を忙しなく歩き始めました。


「魔法でワインを作り上げることすら意味不明だというのに、さらにはそれを正式なワインとして認可させたいですって? なによそれ、予想外過ぎるじゃない……!」


 まるで睨むかのような強い視線で、クロエを見つめます。


「さすがはソシエールの娘ね。想像以上だわ」


 クロエの母の名前を呟きます。


「私が必死に絞り出したアイディアのはるか上のものを、あっさりと生み出して、しかもそれがどれほど素晴らしいものであるのかも理解していない。天才、天才ってそうよね………」


 彼女の大きな独り言は、もはやクロエに向けられたものではなく、自分自身の脳に叩きつけるような激しさがありました。


「…………いや、これでいいのよ。私が求めていたのは、私の想像をはるかに超える事象。行き詰まった私の脳細胞に活力を与え、息を吹き返させるためには、このくらいの荒療治しかありえないわ。全面的に手伝うと言っておきながら、あっさりと『できません』と言うなんて、私のプライドが許さないわ。逃げるなカトリーヌ。逃げたところで何も生み出さない。私ならできる。私なら…………!」


 カトリーヌは一度立ち止まり、震える指先で自らのこめかみを押さえました。


「考えるのよ。古い価値観を捨てて、柔軟な発想で物語を作る。今まで散々やってきたことじゃない。正式に認可されるワインを作るには、国の認可を得た醸造所で造る必要がある……。当たり前じゃない、そんなこと」


 彼女の瞳に、ギラリとした作家特有の知性が宿ります。


「だったら国から認可をもらえばいい? いいえ、そんなことをしたら、一体どれだけの時間と費用がかかるか分かったものじゃない。凡人のアイディアなんか即座に捨てるのよ、カトリーヌ。当たり前は要らない。………、………、……簡単じゃない! すでに正式な認可を持っている醸造所の力を借りればいいのよ。……いえ、力を借りるというのは違うわね」


 カトリーヌは不敵に唇を歪めました。


「それだと、魔法でワインを生み出すという秘密を共有しなくてはいけなくなる。自分の特殊魔法を大っぴらに公表するなんて、極めて愚かな行為。力を借りるのではなく、もっと一方的に――利用する。それしか手はないわ……」


 それからもしばらくの間、彼女は床の絨毯を擦り減らさんばかりの勢いで歩き回っていました。


 やがて、ぴたりと足を止めると、にやりと勝利を確信した笑みを浮かべ、掌を叩きつけるような勢いで机の上の呼び鈴を鳴らしました。


「お呼びでしょうか」


 現れたのは、上下白のスーツを大柄な身に纏う執事(40歳独身ラピエル)でした。


 その隙のない立ち振る舞いと、隠しきれない「強者」の雰囲気に、クロエは未だに苦手意識を持っています。


 カトリーヌは椅子に深く腰掛け、自信ありげに告げました。


「今から、ちょっとした仕事をしてもらいます」


「どうぞ、お申し付けください」


 執事は、横目でちらりとクロエの方に視線を送りつつも、お手本のような礼を返しました。


「近隣の醸造所を調べなさい。そして――買収できそうなところを、片っ端からリストアップするのよ」


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