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29話

 


「クロエ様、お休みのところ失礼いたします。我が主カトリーヌが、ぜひ朝食をご一緒にと申しております。もしよろしければ、相棒のあずさ様もご一緒にいかがでしょうか」


 落ち着いた、それでいて有無を言わせぬ響きを持ったその声は、昨日の雨の中で出会った、あの底知れぬ強さを感じさせる執事のものでした。


「……すぐに行きます」


 クロエは扉を少しだけ開け、そのように答えました。


 急に訪れたにもかかわらず、お風呂と食事を頂き、さらに宿泊までさせてもらった身です。ここで無礼な振る舞いをするわけにはいきません。


(とにかく、行くしかない)


「身支度くらいは整えていきなさいね。急ぐのは結構だけど、そのままでは逆に失礼に値するわ」


 黒猫のあずさが、いつものお姉さん口調で釘を刺してきました。


「……分かってるわよ」


 本当はそのまま寝癖だらけの頭で行くつもりでしたが、クロエは最初からそのつもりだったかのような顔を装い、鏡の前に立ちました。


 思っていたよりは悪くありません。洗面台で丁寧に髪を整え、覚悟を決めて部屋の扉を開けました。


 ダイニングルームへ入ると、そこには昨夜の美しき貴婦人、カトリーヌがすでに席に着いていました。


「ごきげんよう。よく眠れたかしら、嵐を呼ぶ聖女さん」


 カトリーヌが優雅に微笑みます。しかしその姿を目にした瞬間、クロエの背筋に冷たいものが走りました。


 目の前のカトリーヌもまた、クロエが身に着けているものとまったく同じデザインのドレスを纏っていたからです。


(……理由は聞かない方が良さそうだ)


 クロエは心情を表に出さないよう細心の注意を払いながら、できるだけ優雅に聞こえるよう、朝の挨拶を返しました。


「おはようございます。素晴らしいおもてなしに感謝いたします、カトリーヌ様」


 クロエは、執事が音もなく引いた椅子に、緊張感を抱えたまま腰を下ろしました。






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