28話
窓の外から、朝の訪れを告げる小鳥の爽やかな鳴き声が聞こえてきます。
その心地よい音に誘われるようにして、クロエはゆっくりと目を覚ましました。
「……んん……」
指先が触れたのは、驚くほど滑らかで柔らかいシルクのシーツ。昨日までの旅の疲れをすべて吸い取ってくれたかのような、至高の寝心地のベッドでした。
クロエはぼんやりとした頭で、昨夜の記憶を辿ります。
お腹いっぱい故郷の味を満喫したあと、案内された寝室に入り、そこであずさと激しい口論を繰り広げた記憶があります。
「あずさ、やっぱりここはヤバすぎるわ。今からでも荷物をまとめて、窓から逃げた方が……」
「クロエ、あなた正気? 外はまだあんなに土砂降りなのよ。今から泥まみれになって馬車やホテルを探し回るなんて、全部台無しじゃない!」
「命の方が大事だ!」
「それなら最初の時点でさっさと踵を返すべきだったのよ。それをしなかった時点で、あなたはもう負けたの」
「負けてない! まだ間に合う!」
最初は椅子に座り、鼻息荒く主張していたクロエでしたが、あまりにもベッドがふかふかだったため、ひとまず腰を下ろし、次に横になり……。
肌寒い脚を温めるために布団を体に掛け、「帰る」「帰らない」の言い合いを続けているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちてしまったようです。
「……無事だったんだから、まあいいか……」
クロエは頭をぽりぽりと掻き、大きく伸びをしました。
「おはよ。結局、朝までぐっすりだったわね」
足元で毛繕いをしていたあずさが、大きな欠伸をします。
「私の首に牙の跡とか付いてない?」
「まだここをドラキュラの館だと思ってるの?」
「油断は禁物だから」
「八時間以上寝てた人が言うセリフじゃないけどね」
失笑する黒猫の顔に少し苛立ちを覚えながらも、クロエはひとまず無事に朝を迎えられたことを喜ぶことにしました。
「なんか、昨日とは部屋の見え方が違うかも……」
「そりゃあそうでしょうよ。昨日は雷雨だったもの。知らない場所の知らないお屋敷は、不気味に見えるものよ」
「そうかもしれないな……」
ぼんやりとしていると、部屋のドアを上品にノックする音が聞こえてきました。
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