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25話

 男に導かれ、重厚な扉をくぐった先は、外の嵐が嘘のような静寂と光に満ちた空間でした。


 広大なホールは、別世界のような豪奢さを誇っています。磨き上げられた大理石の床に、天井から降り注ぐシャンデリアの眩い輝き。


 しかし、その輝きさえも一瞬で霞ませる存在が、二階へと続く大階段の頂に現れました。


 明らかに身分の高い女です。


 身体を包むのは、深い森の奥底を思わせるような、しっとりと重厚なエメラルドグリーンのベルベットドレスでした。


 光の当たり方によって、それは毒々しいまでの鮮やかさと、闇のような暗緑色の陰影を交互に映し出しています。そして、幾多の宝飾品がその身を飾っていました。


「ようこそ、我が館へ」


 クロエは、全身びしょ濡れで大きな荷物を抱えた自分と、この完璧な美を体現する主との落差に、敗北感すら覚えました。


 リュックサックの中で、あずさがかりかりと背中を掻いてくれるのを感じます。「がんばれ!」と、エールを送ってくれているのは明らかでした。


「貴方が、この嵐を連れてきてくれたのかしら?」


「申し訳ありません。どうしても一緒に来たいと、聞かないもので……」


 クロエは小さくガッツポーズをしました。過剰なほどの妖艶さを持つ上級階級のマダムを、笑わせることに成功したからです。


「初めまして、クロエ。私の名はカトリーヌです。さあどうぞ、遠慮せずにお上がりになって。お部屋の準備は出来ていますから」


「そのことについてですが……」


 クロエは言葉に詰まりました。


 宿泊させていただけるのは大変にありがたいのですが、ここはドラキュラの館みたいで怖すぎるので、やっぱりホテルに泊まることにします。


 これを、なんとか相手に失礼のないように説明し、納得してもらうためには、どういう言葉を用いればよいのか。頭の中で、まったくまとまりませんでした。


「なにやらお悩みのようだけど、まずはお風呂でも入っていったらいかが? そんなにずぶ濡れでは、風邪を引いてしまいますよ」


 お風呂……そのあまりにも甘美な響きが、クロエを包みます。


「私の屋敷では、私の好みにより、いつでも風呂に入ることができるようにしていますの」


 その言葉を聞いた途端、クロエはこの世界の重大な欠点を思い出しました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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