表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/31

21話

 


「おじさん、このダンベル、いくら?」


 椅子で本を読んでいたスキンヘッドの男が顔を上げました。


「……よく見てみな。値段が書いてあるだろ? 二つで二千ゴールドだ」


「持ってみてもいい?」


「ああ、もちろん」


 クロエはダンベルを持ち上げ、二度三度と上下させました。


「少し錆びてるけど、まだ使えそうだ」


「だろ? 気に入ったのなら買ってくれよ」


 クロエは渋い顔をしてダンベルをドスンと置きました。そして「ついで」と言わんばかりに、視界に入ったカメオを指さします。


「このガラクタが五万なんて、冗談でしょ?」


「何を言うんだい、お嬢ちゃん。それはカメオっていって、ドレスの襟を留めるブローチとして使うんだ。どうだい? 神々しい顔してるだろ。パリストンの貴婦人が泣いて喜ぶ一級品だぜ。五万でも安い方だ」


「カメオが何かくらいは知ってるわ。私が言いたいのは、外枠が壊れているってこと。一万ゴールドだったら、ついでに買ってあげてもいい」


 クロエは、あずさに教わった通り、粗末なものを見るような目でカメオを眺めました。すると店主は、ようやく本を閉じ、重そうな瞼の奥の瞳をニヤリと細めました。


「ガラクタだと思うなら、買わなきゃいい。そんな立派な服を着たお嬢さんが、わざわざ戻ってきて欲しがるってことは、そいつがいい物だって証拠だろう?」


(……チッ。このオジサン、値段交渉に慣れてやがるわね)


 クロエは内心で舌打ちしましたが、即座に次のカードを切りました。


「私が付けるわけないじゃない。……この子よ」


「猫?」


「ええ。私の猫がこれを気に入ったみたいだから、首輪の飾りにでもしてあげようと思ったの。私がこんなガラクタで飾るわけないでしょ?」


「ふーん……」


 オジサンは、納得したような、していないような微妙な表情を浮かべました。


「ああ、だんだん面倒臭くなってきた。買おうと思ってたけど、やっぱりダンベルもいらないかもしれない」


 その瞬間、オジサンの顔が強張ったのをクロエはそれを見逃しませんでした。


 店主にとって、このダンベルは「場所を塞ぐだけで売れない、重くて厄介な鉄屑」なのです。これが売れなければ、また持って帰らなければなりません。


「……待ちな。ダンベルと合わせて、三万ゴールドでどうだ?」


「高すぎるわ。二万」


「おいおい、殺す気か! 二万八千だ!」


「二万三千」


 そこからは、両者一歩も引かない数字の投げ合いでした。そして数分後、粘り強い交渉の末に導き出されたのは――。


「……分かったよ。二万四千四百五十ゴールドだ。……お嬢さん、あんた相当な商売人だ。持っていきな!」


「交渉成立ね」


 クロエは貨幣を手渡し、カメオをポケットにねじ込むと、ずっしりと重いダンベルを片手で持ち上げました。


(よし! 作戦成功!)


 足に触れる猫の尻尾の感触は、「良くやった」というねぎらいでしょうか。


 腕に伝わる重さという勝利の余韻を噛み締めながら、クロエは笑顔を出さないようにして、歩き去りました。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ