21話
「おじさん、このダンベル、いくら?」
椅子で本を読んでいたスキンヘッドの男が顔を上げました。
「……よく見てみな。値段が書いてあるだろ? 二つで二千ゴールドだ」
「持ってみてもいい?」
「ああ、もちろん」
クロエはダンベルを持ち上げ、二度三度と上下させました。
「少し錆びてるけど、まだ使えそうだ」
「だろ? 気に入ったのなら買ってくれよ」
クロエは渋い顔をしてダンベルをドスンと置きました。そして「ついで」と言わんばかりに、視界に入ったカメオを指さします。
「このガラクタが五万なんて、冗談でしょ?」
「何を言うんだい、お嬢ちゃん。それはカメオっていって、ドレスの襟を留めるブローチとして使うんだ。どうだい? 神々しい顔してるだろ。パリストンの貴婦人が泣いて喜ぶ一級品だぜ。五万でも安い方だ」
「カメオが何かくらいは知ってるわ。私が言いたいのは、外枠が壊れているってこと。一万ゴールドだったら、ついでに買ってあげてもいい」
クロエは、あずさに教わった通り、粗末なものを見るような目でカメオを眺めました。すると店主は、ようやく本を閉じ、重そうな瞼の奥の瞳をニヤリと細めました。
「ガラクタだと思うなら、買わなきゃいい。そんな立派な服を着たお嬢さんが、わざわざ戻ってきて欲しがるってことは、そいつがいい物だって証拠だろう?」
(……チッ。このオジサン、値段交渉に慣れてやがるわね)
クロエは内心で舌打ちしましたが、即座に次のカードを切りました。
「私が付けるわけないじゃない。……この子よ」
「猫?」
「ええ。私の猫がこれを気に入ったみたいだから、首輪の飾りにでもしてあげようと思ったの。私がこんなガラクタで飾るわけないでしょ?」
「ふーん……」
オジサンは、納得したような、していないような微妙な表情を浮かべました。
「ああ、だんだん面倒臭くなってきた。買おうと思ってたけど、やっぱりダンベルもいらないかもしれない」
その瞬間、オジサンの顔が強張ったのをクロエはそれを見逃しませんでした。
店主にとって、このダンベルは「場所を塞ぐだけで売れない、重くて厄介な鉄屑」なのです。これが売れなければ、また持って帰らなければなりません。
「……待ちな。ダンベルと合わせて、三万ゴールドでどうだ?」
「高すぎるわ。二万」
「おいおい、殺す気か! 二万八千だ!」
「二万三千」
そこからは、両者一歩も引かない数字の投げ合いでした。そして数分後、粘り強い交渉の末に導き出されたのは――。
「……分かったよ。二万四千四百五十ゴールドだ。……お嬢さん、あんた相当な商売人だ。持っていきな!」
「交渉成立ね」
クロエは貨幣を手渡し、カメオをポケットにねじ込むと、ずっしりと重いダンベルを片手で持ち上げました。
(よし! 作戦成功!)
足に触れる猫の尻尾の感触は、「良くやった」というねぎらいでしょうか。
腕に伝わる重さという勝利の余韻を噛み締めながら、クロエは笑顔を出さないようにして、歩き去りました。
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