18話
ガタゴト、ガタゴト……。
規則的な馬車の揺れと、石畳を叩く蹄の音が心地よい子守唄のように響きます。
レストラン『ル・コック・ドール』での、刺激的なお食事を終え、お腹が満たされた今のクロエにとって、午後の柔らかな日差しが差し込む馬車の中は、抗いがたい誘惑の塊でした。
寝たら駄目だと自分に言い聞かせ危機感を募らせようとしますが、瞼は鉛のように重くなっていくばかりです。
意識がうつらうつらと微睡みの海へ沈みかけ、カクンと首が揺れたその時――一定だった馬車の走行音が変わりました。
「……ご令嬢、お休み中のところ恐縮ですが」
御者の声に、クロエはハッと目を開けました。
「どうやら今日、蚤の市をやっているようでして。街を通り抜けるのに少し時間がかかりそうです」
「蚤の市か……」
窓の外を覗き込もうとしたところで、膝の上で丸くなって寝ていたはずの黒猫、あずさが、ピンと耳を立てて顔を上げました。
「にゃあ!」
知らない人の前では人間の言葉を言わない「あずさ」が猫っぽい声を上げました。
クロエには分かります。あずさも蚤の市という言葉に胸を高鳴らせていたのです。
「……ここで結構。降りるわ」
クロエは迷うことなく御者に告げると、あずさを連れて軽快な足取りで馬車を降りました。
果たして二人は掘り出し物を見つけることが出来るでしょうか。
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