17話
シェフであるディアヌが、自ら皿を運んできました。
前菜は『フォアグラと林檎のデリス』。飲み物は、白葡萄とハーブの冷製ミュスカです。
そして運ばれてきたのは、黄金色に輝く『不屈の心臓 〜アバの王道・パイ包み焼き〜』でした。
あれほどクロエは、内臓を使った料理が苦手だと言っていました。それにもかかわらず、ディアヌは牛の内臓のパイ包み焼きを持ってきたのです。
一度視線を合わせた後、クロエはナイフとフォークを手に取りました。ここまで来た以上、余計なことを言うのは野暮だと考えたからです。
クロエは口に運びました。
外側のパイ生地はバターをふんだんに使い、何百層にも折り重ねられています。
中心には、仔牛の心臓、腎臓、胸腺肉などが、ゴロゴロとした塊で入っています。
それらを包み込んでいるのは、特製の挽肉でした。豚肉や仔牛肉の挽肉に、ハーブやトリュフ、そしてフォアグラを練り込んでいます。
溢れ出すソースは、マデラ酒をベースにフォンドヴォーを煮詰め、トリュフをたっぷり加えた、濃厚で甘美なものです。
味わううちに、クロエの瞳は大きく見開かれていきました。そして無言のまま食べ続け、完食したところで静かにフォークを置き、口を開きます。
「……負けを認めます」
ディアヌの表情が、ぱっと破顔しました。
「大好物とは言えないけれど……臓物は食えたものじゃないというイメージは、完全になくなりました。美味しさはもとより、貴方がこの料理に対して、どれほど情熱と手間暇をかけたのかが、はっきりと伝わってきました」
「………ずいぶんと素直じゃない」
「これは私とあなたの勝負でした。嘘をついてまで、勝ちたいとは思っていません」
「気に入ったわ!」
ディアヌは満足げに、しかし不敵に微笑みました。
「今日のところは、これで満足としておくわ。けれど、もっともっと腕を磨いて、いずれは内臓料理を、貴女の『大好物』にしてみせるわ」
「気の強い女だ」
「貴方だって同じでしょ?」
笑い合う二人の間には、確かな絆が生まれていました。
「また来なさいよ、生意気なムッシュ」
「もちろん!」
二人はしっかりと右手を握り合い、クロエは店を出ました。するとすぐに、黒猫のあずさが駆け寄ってきます。
「ずいぶんと満足そうな顔をしているじゃない。羨ましいわ。猫はレストランには入れないものね」
「今度は、あずさの分の料理も作ってもらえるように、ディアヌに頼んであげるからね」
拗ねた顔をしている相棒を見て、クロエは苦笑いを浮かべました。
「今度はデザートもね」
「あ……」
クロエは、ぽかんと口を開けました。
勝負に夢中で、デザートの存在をすっかり忘れていたのです。それは、きっとディアヌも同じだったのでしょう。
「今から戻るのは格好悪いから、次の楽しみにしておくよ」
新たな街で、行きつけのお店と友人ができたのです。
膨れたお腹の温かさを感じながら歩き出したクロエの足取りは、とても軽やかでした。
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