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16話

 


「本日のおすすめは『不屈の心臓 〜アバの王道・パイ包み焼き〜』です。いかがですか?」


 どうやら彼女はこの店のシェフであるらしく、クロエに対して挑戦的な笑みを浮かべています。気の強い女性であることは明らかでした。


 しかし、気の強さではクロエも負けてはいません。彼女の圧力を押し返すように、言い放ちました。


「先ほどのウエイターにお伝えしたことが伝わっていないようですから言いますが、私は食べたいものを食べます! 従って、お勧めは結構!」


「そのやりとりは聞こえていましたけど、それでもなお、お勧めだと申し上げています」


 シェフは強気の笑みを浮かべ、クロエは舌打ちをしました。


「私は内臓料理が嫌いなんです。内臓なんか臭くて、食えたものじゃありませんから。金輪際、お勧めしないでもらえます?」


 顔色が変わりました。彼女はテーブルに身を乗り出し、低く凄みのある声で返します。


「内臓が臭いですって!?そんなのは、素材の声を聴けない三流の仕事よ。ジャーマニー国には、そんな出来損ないの料理人しかいないのでしょうけれど、私は違うわ」


「………どうして俺がジャーマニー国の出身だと分かった?」


 クロエの質問に、女性シェフは笑いました。


「気付いてなかったの? 服装もそうだし、さっきから『アイスバイン』だとか『シュニッツェル』って、ジャーマニー国の料理名をぶつぶつ言っていたわよ」


「そうだったのか………」


 クロエが恥ずかしさに顔を染めていると、ウエイターが二人の間に割り込んできました。


「落ち着いて、二人とも。ここはレストランだ。どうしても喧嘩をしたいのなら、リングに場所を移すべきだ」


「「お前は黙っていろ!!」」


 重なった怒声に吹き飛ばされたように、ウエイターは尻もちをつきました。


「お前のことは最初から気に喰わなかったんだよ。舐めやがって、この野郎! 『シュニッツェル』くらい、叩いて伸ばしてやろうか!」


「ひ、ひぃ………」


「その通りよ! この機会だから、私からも言わせてもらうわ。あなたの接客態度は最悪中の最悪! せっかくお店に来てくれた、私の友人も文句を言ってたわ!」


「はぁあああ………」


 更なる猛攻を受け、引きつった顔で壁際まで下がっていくウエイターを見て、やや気分が晴れたようでした。クロエはひとつ息を吐いてから、こう言います。


「あなた、お名前は?」


「ディアヌよ」


「ディアヌ。あれほどの大口を叩いたのだから、私を満足させられるんでしょうね?」


「もちろんよ!」


「料理はすべて貴女に任せます。私を満足させてみなさい」


「望むところよ」


 力強く断言し、華麗に身を翻した彼女の姿は、ジャーマン・シェパード・ドッグに似ていました。






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