14話
ホテルの回転扉を押し、一歩外へ踏み出したクロエは、パリストンの陽光を浴びて長めの伸びをしました。
「……これが昼間のパリストンか」
ぐるりと見渡しただけで、慣れ親しんだジャーマニー国との違いに気が付きます。
全体的に建物の色が白っぽいのは、昨日感じた通りでしたが、行き交う人々の服装が、黒を基調としたジャーマニー国と比べて、驚くほど色彩豊かです。
紳士たちは明るいグレーのコートを羽織り、淑女たちはパステルカラーのドレスに、羽飾りがこれでもかと付いた大きな帽子を揺らして闊歩しています。
「……まあ、悪くはないな」
自由で開放的な空気感に、若干胸が高鳴るのを感じつつも、機能美ならジャーマニー国の方が上だとクロエは思いました。
「なんだか観光気分に見えるけど、気のせい?」
「完全に気のせい。しっかりと、やることはやるつもりだよ」
陽光の中にいる黒猫のあずさに、クロエはきっぱりと答えます。
「それじゃあ、何をするのか教えてもらっても良い?」
「もちろん。まず最初に、母さんが学生の頃にお世話になった、カトリーヌさんのところに行く。運が良ければ、家を借りられるかもしれないからね。そして、しばらく静かに暮らして、教会が『聖女』認定を取り消してくれるのを待つ」
「ちゃんとわかってるじゃない」
「でしょ?」
褒められた子供のように、クロエは胸を張りました。
「本当に、そんなにうまくいくのかしらね。聖女って、教会にとって大切な存在なんでしょう?」
「そこは、みんなのコネクションに期待するしかないね」
「うまくいくと良いんだけど」
「俺が死んだって聞かされたら、モニカとハンナは驚くだろうな。申し訳ない気持ちと、帰った時にどんな顔をするのか楽しみって気持ちが、共存してるよ」
クロエは、故郷の方向を見ながら遠い目をしました。
「信じないと思うけど」
「え?」
「クロエの人柄を知っている人ほど、信じないと思うわ。聖女の責任の重さに負けて、崖から身を投げたなんて」
「そんなことないでしょ」
「だってクロエって、高慢が服を着て歩いているような存在だもの。責任感に押し潰されるくらいなら、教会を潰すでしょ?」
「正直言って、あずさには失望したよ。前世から一緒なのに、俺のことを何も分かっていない」
「あなたよりも、あなたのことを分かっているつもりだけど」
「俺は繊細なんだよ。確かに周りの人は、偉そうだとか自己中だとか、知ったようなことを言うけど、それは弱さの裏返しだっていうことに、どうして気が付かないかな」
「そういうことにしておきましょうか。それよりも、早くレストランに行きましょう。あまりゆっくりしていたら、お昼の営業時間が終わってしまうわ」
「……納得いかないけど、しょうがない。美食の都といわれる街のレストランが、どの程度のものか確かめに行こうか」
クロエの足取りは軽やかでした。
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