13話
「……動くな!」
壁の影から、不気味なほど鮮やかなスカーフを首に巻いた、鋭い目つきの男たちが三、四人、ぬらりと姿を現しました。
「こんな時間に、たった一人で出歩いたら危険なんだぞ。痛い目に遭いたくなかったら、金目の物を全部置いていけ!」
手にしたナイフが、遠くの街灯を反射してギラリと光ります。
「あ………」
クロエは、出発前に聞いていた話を思い出しました。
故郷のジャーマニー国では、深夜でも警察の目が光っているため、治安はそう悪くありません。しかし、フレンチ国の首都パリストンは事情が違います。
物乞いやスリが多く、裏通りでは「アパッシュ」と呼ばれる若い犯罪集団が蔓延っているのです。
彼らは派手なスカーフや帽子を纏い、夜道で通行人を襲って金品を強奪することで、人々から恐れられていました。
「おい! こいつ女だぜ!」
「女だ! 若い女だ!」
「かわいい………」
男たちの雰囲気が、一気に変わりました。金品を要求するまでの動きは手慣れていましたが、明らかに動揺しています。
しかし、クロエは冷静でした。
流れるような手つきでポケットから取り出したのは、「魔銃」です。魔石によって銃弾を発射する特殊な武器でした。
破裂音の連続が、夜のパリストンに響き渡ります。
僅かな躊躇すら感じられないその動きは、日頃から訓練された者のそれでした。しかも、その命中精度は素晴らしく、一発も外すことなく命中しています。
「痛ぇ………痛ぇよぉ………」
「ががががが………」
呻き声を上げて倒れ込む男たちですが、派手な流血はありません。クロエの魔銃は護身用であり、大きな威力はない代わりに、装填数が多いという特徴を持っています。
もっとも、威力がないと言っても、金槌で殴られた程度の衝撃はありました。
「名前を教えてくれるか?」
自然体で銃を構えながら放たれた、妙に優しげな声は、圧倒的な迫力を帯びています。
「が、ガストンだ……。頼む、助けてくれ……!」
銃口を顔に向けられた男が、怯えた目で哀願しました。
「他の奴らはどうした?」
恐れ戦いた男たちは、一斉に口を開きました。
二度、三度と聞き返し、彼らの名前が「ガストン、ジャン、ピエール、ニコラ」であることを知ります。
「ちょうどいいところに現れてくれた。実は道に迷って困っていたんだ。まっすぐ歩けば着くと思っていたんだけどな。……というわけで、ガストン、ジャン、ピエール、ニコラ。あのホテルまで案内してくれ。ついでに、荷物も持ってもらおうか」
「ひっ……! よ、喜んで! 喜んで案内させていただきます!」
さっきまで狼のように吠えていた男たちは、今では怯えた子犬のように震えながら、よろよろと立ち上がりました。
この世界には怪物がいます。数で上回ろうとも、決して勝つことのできない怪物です。目の前にいる黒髪で綺麗な顔をした少女が、間違いなくその類であると、彼らは瞬時に悟りました。
「ピエール、ニコラ! お嬢様の鞄を持て! ジャン、俺と一緒に前を歩け!」
ガストンの号令で、満身創痍の暴漢たちは、クロエの忠実な僕へと早変わりしました。
クロエは満足げに頷くと、リュックサックをニコラに預け、深夜のパリストンを護衛付きで悠々と歩きはじめました。
「くれぐれも、逃げようなんて思うなよ。俺のポケットには、いまのよりもずっと威力の高い魔銃が入っているんだからな」
「も、もちろんです……もちろんですよ、お嬢様」
石畳を軽快に叩くクロエの靴音が、パリストンの夜に響いていました。
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