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1話

 



「あー寒い……。成人するのは嬉しいけど、なんでこんな一番冷え込む時期にやるんだろう」


 石造りの聖堂内で、モニカが白いため息を吐きながらぼやきました。くせ毛の隙間から丸っこい頬を膨らませる彼女の横で、眼鏡を指先で押し上げた痩せ型のハンナが、事もなげに答えます。


「冬は農作業も休みで暇だからじゃない?」


「そうなの?」


「知らない、適当に言った」


 おちゃらけた顔をしたモニカに、クロエとハンナの二人は思わず吹き出しました。


 黒髪を揺らして笑うクロエは、聖堂に降り注ぐ極彩色の光を浴びる可憐な少女に見えます。


 しかし、その瞳の奥には、現代日本からの転生者である「芦屋京極」の魂が潜んでいます。


 つまりクロエは転生少女だったのです。


「ねえ、二人とも知ってる?」


 モニカは声を潜め、不安げに天井を仰ぎました。


「聖水を振りかける時にさ、悪魔に憑りつかれている子は、体から黒い煙が出るらしいよ」


「それが出るとしたら、クロエしかいないだろうね」


 ハンナの眼鏡の奥が、悪戯っぽく光ります。


「なんでよ!」


「自覚あるでしょ? 自他共に認める悪ガキ。昔から、近所の男の子たちをいじめて泣かせてたじゃない」


「それは、あいつらが先に仕掛けてきたからでしょ! それにもう昔の話だってば。……そんなこと言うなら、ハンナこそ、どす黒い煙がモクモク出るんじゃないの?」


「なんですって?」


「だってあんた、腹黒じゃん」


「あ、始まるよ」


 ハンナが言い返そうとした瞬間、モニカが短く声を上げました。


 高らかなトランペットの音に続いて、床下から這い上がるようなパイプオルガンの重低音が、聖堂全体を震わせていきます。


 圧倒的な音の奔流に、ふざけ合っていた子供たちの顔が引き締まりました。


 これより始まるのは、『ゼカリアの雫――星霜開花の儀』です。

 聖水を浴び、大人と認められる、ゼカリア教の大切な儀式です。


「諸君、心して受けるがよい。主の祝福を」






最後まで読んでいただきありがとうございました。


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