貞操逆転世界の悪役令嬢に転生しましたが、破滅回避のために真面目に「陰陽術」を極めます ~周りが肉食女子だらけなので、男に興味がない私が聖域扱いされている件~
連載候補の短編です。
激しい頭痛を覚えた。
視界が明滅し、平衡感覚が失われる。ふらつきながら、私は近くの壁に手をついた。
冷たい壁の感触に少しだけ意識が覚醒する。
重い瞼を持ち上げ、目の前にあった姿見を見上げた。
そして――言葉を失う。
鏡に映っているのは、絶世の美少女だった。
「これって……《東京妖魔伝》の悪役令嬢、《五十嵐鏡花》じゃない……? え、嘘……まじで……?」
改めて、《私》の姿を見やる。
腰まで届く、鮮やかな深紅の髪。毎朝の手入れが行き届いているのだろう、それは見事な縦ロールを描いている。
切れ長の瞳は、燃えるようなルビーレッド。
陶磁器のように透き通った白い肌に、スッと通った鼻梁。
まさに、傲慢と美貌を絵に描いたような造形だ。
「間違いない……妖魔伝の悪役、鏡花だ」
鏡の中の少女は、私が口を動かすと同時に、艶やかな唇を動かす。
頬をつねれば、鋭い痛みが走る。
つまりは、そういうことだ。
「私……妖魔伝の世界に、悪役転生しちゃったんだッ!」
現状を整理しよう。
私の名前は五十嵐鏡花。
現代日本を舞台に、妖魔と呼ばれるバケモノを退治する陰陽師達の学園生活を描いた、RPG風乙女ゲーム《東京妖魔伝》の登場人物だ。
主人公のライバルであり、由緒正しき陰陽師の名門・五十嵐家の令嬢。
そして――数々の悪行の果てに、必ず破滅する《悪役令嬢》である。
(まじかー……よりによって鏡花ねー……)
前世の私は、ごく平凡な日本人だった。
いや、訂正しよう。
昔はバリバリの厨二病を発症させていた、妄想戦士だった。
自分を現代最強の魔術師であると思い込み、包帯を巻いた右手を抑えて『大丈夫、ボク、最強だから……』とか呟いていた黒歴史の持ち主だ。
ぎゃー! 忘れろ私の黒歴史!
……うぉほん。
とにかく、大人になってからは多少マシになり、ちょっとオタクなだけの善良な一般市民として生きていたはずだ。
でも、転生したということは、恐らく死んだのだろう。死因は覚えていないが、過労死かトラックか、そんなところだ。
「さて……どうしようかな、これから」
RPG風乙女ゲーム《東京妖魔伝》。
令和で一番売れた神ゲーだ。シナリオは、あの映画で六〇〇億円を稼ぎ出したデジマスのカミマツ氏が担当しており、重厚な世界観が売りだった。
この世界には、現代日本とは決定的に異なる二つの特徴がある。
一つは、異能バトル要素。
一般人には視認できない怪物《妖魔》が存在し、それを討伐するための《陰陽師》と、育成機関である《陰陽学校》が存在すること。
そして――もう一つの特徴。
それは、女尊男卑、かつ、貞操逆転の世界であることだ。
この世界では、女性の方が圧倒的に霊力(MP的なエネルギー)が強い。
妖魔を滅ぼす強力な攻撃術《五行》を扱えるのは、女性だけなのだ。
男性は、女性をサポートするための防御術《結界》や、穢れを祓う回復術しか使えない。
その力関係の差は、そのまま社会的地位と恋愛観に直結している。
女は強く、逞しく、好色だ。
一方で、男は弱く、儚く、そして貞操観念がガチガチに固い。
原作の鏡花は、そりゃあもうこの世界の《ザ・女性代表》といった感じのキャラだった。
その権力と美貌を武器に、手当たり次第男を侍らせ、気に入らない男は徹底的に甚振る。まさにサディストの女王様だ。
だからこそ、ゲームのエンディングでは断罪され、処刑される。因果応報というやつだ。
(死ぬのはほんと勘弁……)
私はガックリと項垂れた。
痛いのも苦しいのも御免だ。
ならば、どうすればいいか?
答えはシンプルだ。
私は知っている。このゲームのことも、自分のキャラのスペックも、そして――自らの運命も。
目の前に落とし穴があると知っていれば、回避は可能だ。
「よし、死なないように、頑張ろう。それに……」
鏡の中の、私は笑っていた。
ニヤリと、口角が吊り上がる。
「だってここ……現代異能バトルの世界観なんでしょ……?」
にまにま、としてしまう。
だって、右手から炎を出したりできるんでしょ?
『領域展開!』とかできちゃうんでしょ?
『大丈夫、私……最強だから』とか言えちゃうんでしょ?
「昔……憧れた世界に来て……憧れの力を手に入れたわけだ……!」
ならばやることは一つ。
この異能、《陰陽術》とやらを――極めてやろうじゃあないのッ!
陰陽師として強くなり、誰にも負けないくらい最強の存在になれば、誰かに処刑されるなんてことはなくなるはずだ。
死亡フラグ回避&やりたいことができる。
一石二鳥だ。
「よし……私決めたぞ。この世界で……現代最強の陰陽師になる!」
◇
早速、強くなるための特訓を開始した。
場所は、五十嵐家の屋敷内にある訓練場だ。
和風建築の広大な屋敷には、長い渡り廊下があり、その先に剣道場のような造りの修練施設がある。
床は磨き上げられた板張りで、壁には禍々しい呪符がびっしりと貼られている。
「お嬢様、いったいどこへ?」
すれ違った使用人が、怪訝な顔で尋ねてくる。
「訓練場へ!」
「!? く、訓練……? 鏡花お嬢様が!?」
使用人は目を丸くして、信じられないものを見るような顔をした。
まあ、今までの鏡花は、ネイルの手入れか男漁りにしか興味がなかったからな。
私は構わず、道場の中央に立った。
「ここは強力な結界が張ってあって、いくら暴れても大丈夫なのよね」
ゲームをやりこんでいる私は、チュートリアルなんて不要だ。
全て知っている。
「さっそく……霊力を伸ばすぞ」
現在の私は七歳。
この妖魔伝の世界では、陰陽術を使うためには、内的エネルギーである《霊力》が必須となる。
一般的に、霊力は生まれた時にその総量が決まっているとされている。
だが――私は知っている。
霊力を伸ばすことは可能である、と。
「フンッ……!」
丹田、つまりへその下に意識を集中する。
熱を感じる。ここが霊力の源だ。
そこから、全身に見えないパイプを伸ばしていくイメージ。
熱い奔流が駆け巡り、右手のひらに収束していく。
ピリピリとした痺れ。
圧倒的なエネルギーの実感。
そして――使う。霊力を使った攻撃術、《五行》を!
「『水気』を我が手に、『刃』となりて、『疾く』敵を討て! 【水刃】!」
私が腕を振るうと同時。
虚空に青白く輝く水流が現れ、三日月状の刃となって射出された。
ヒュンッ!
ドゴォオオン!
水刃は的の案山子を真っ二つにし、後方の防壁に激突して弾けた。
「くぅ~~~~~~~~~! これ! これですよ! これぇ……!」
これよ! これ!(語彙力喪失)
これをね~~! やりたかったの! 生きてる時に!
私はその場で小躍りした。
尻尾があったら千切れるほど振っていただろう。
「五行が撃てたッ! 魔法を使ったよ私ッ! ひゃっほー!」
前世では、これができたらいいなと夢想していた。
でも、できなかった。現実は非情だ。
だがここは違う。
私が諦めて、でも、焦がれ続けた異能バトル世界だ。
あ、いや。ほら、破滅回避のために強くなるんだよ?
だから別に、昔の願いが叶ってハッピー! っていうのは、ほら、二の次だから。
決して浮かれているわけではない。
「こほん……よし!」
私は表情を引き締め、再び構えた。
今の感覚を忘れないうちに、次を撃つ。
水刃を何発も、何発も。
この世界における霊力量は一定とされている。
しかし、限界まで霊力を使い切り、空っぽにすることで、器が広がるのだ。
ただし、この成長ボーナスが適用されるのは一〇歳まで。
それ以降は成長が止まる。
この事実を、妖魔伝の主人公が発見するのは遥か未来のこと。
今、この世界でその事実を知っているのは私だけだ。
時間は限られている。
「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」
視界が霞む。
頭が割れるように痛い。
ガス欠だ。
「ばたん、きゅー……」
私は大の字になって倒れた。
全身が鉛のように重い。
だが、心地よい疲労感だ。
そして翌日!
「【水刃】!」
昨日は一〇発しか撃てなかった水刃が、今日は二〇発撃てた!
確実に増えている。
私は狂ったように訓練に没頭した。
来る日も来る日も、朝から晩まで術を撃ち続けた。
その結果、周囲の評価はどうなったかというと。
「鏡花様……このところ真面目に訓練をなさっている」
「ああ。あの鬼気迫る表情……男漁りはどうしたのかと思えば」
「まあ確かに、当主の務めとはいえ、妖魔退治が我ら陰陽師の本懐」
「素晴らしい……あの方こそ、次代の五十嵐家を背負うに相応しい」
「うう……やっと鏡花にも、五十嵐家の当主としての自覚が出てきたのですね……パパ嬉しい……」
「おいクソ親父! 今日はお祝いだぁ……! やらせろヒャッハー!」
……とまあ、周りからの評価が勝手に爆上がりしたわけだ。
私が単に魔法を撃ちたくてハッスルしているだけとは、誰も気づいていない。
◇
八歳になった。
ゲームの原作が始まるのが一五歳の時なので、まだ猶予はある。
「おう鏡花、ちょっといいか?」
「なんですか、ママ?」
「お母ちゃんと言え」
場所は、五十嵐家の応接間。
金箔を貼った襖に、高価な壺や掛け軸が飾られた、殿様でも住んでいそうな豪華絢爛な部屋だ。
その上座に、あぐらをかいて座っているのは、現・五十嵐家の当主、《五十嵐蘭》。
派手な着物を着崩し、キセルをふかしている。
この女尊男卑・貞操逆転世界に生まれた、生粋の《お嬢様》だ。
言葉遣いも荒々しい。
どっちかと言うと、ママというより昭和の頑固親父といった風情だ。
「で、ママ。なんですか?」
「チッ! まあいい。鏡花、今日からお前に弟ができる」
「弟……?」
「おう。分家にいるアタシの妹が病気でおっちんじゃってな。その子供を引き取ることになったんだよ」
「へー」
つまり、私から見ればいとこということか。
「男なんて種馬以外の価値はねーが……まあ、アタシの妹のガキだ。仲良くしてやってくれ」
現実でそんな発言をしたら、コンプライアンス的に即死ですよ、ママ。
でもこの世界では、これが常識なのだ。
「畏まりました」
「……おう、そうか。鏡花……まじお前、最近変わったな」
「そうですか?」
「ああ。前のお前だったら、いとこが来たらぜってー虐めてただろうに」
蘭はニヤリと笑った。
うーん……多分そうかも。原作の鏡花なら、「分家の分際で!」とか言って鞭を振るっていただろう。
「ま、後はよろしくやってくれや」
スッ、とママは立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「どこ行かれるんですか?」
「決まってんだろ? 男漁りだ。じゅる……今日は吉原のソープに、めっちゃいい新人男が入るって電話来てよぉ……楽しみだぜ……!」
下卑た笑い声を残し、当主様は夜の街へ消えていった。
……うん、原作の鏡花が歪んだの、一〇〇パーセントあんたのせいだと思いますよ?
◇
で、弟がやってきた。
線の細い、青みがかった銀髪の男の子だ。
大きな瞳は怯えきっていて、まるで捨てられた子猫のようだ。
半ズボンから伸びる足は白くて細く、守ってあげたくなるような庇護欲をそそる。
「い、五十嵐葵……で、す……」
どうやら葵ちゃんは、私の一歳下らしい。
「ひっ……! すみません……鏡花様……」
「いや私なんもしてないんだけど……」
「すみません、すみません……」
「いや……はぁ……」
「すみません!」
葵ちゃんは床に額を擦り付けて謝り続けている。
どうやら、私の噂を聞いているらしい。サディスト女王様・鏡花様ってね。
それに、聞いた話だと、前の家でもかなり女達に酷い目にあっていたらしい。
まあしょうがない。
葵ちゃん、超絶美少年だもん。
ショタコン率の高そうなこの世界の肉食女子たちなら、理性を失って襲いかかってしまうのだろう。
そのせいで、極度の女性恐怖症になってしまっている。可哀想に。
ママに言われるまでもなく、私は仲良くしてあげるつもりだった。
前世の私は一人っ子だったし、弟ができるのはちょっと嬉しい。
「初めまして、私は鏡花。今日からよろしくね、葵ちゃん」
「え……?」
葵ちゃんが顔を上げ、驚いたように私を見る。
普通に挨拶しただけなのだが……。
「おやつ食べる? アルフォ●トあるよ」
「あ……いえ、だいじょう……」
ぐぅ~……。
葵ちゃんってば、大きなお腹の音を盛大に鳴らした。
顔を真っ赤にして、再び小さく縮こまる。
「おやつじゃなくて、ご飯にしよっか」
「す、すみません……」
「いいっていいって。それと、すみません禁止ね」
「え、なんでですか……?」
「私、お姉ちゃん。君、弟。OK?」
「は、はい……」
「はい? じゃない。敬語だめ。あと私お姉ちゃん」
「わ、わかり……ました。それが、ご、ご命令であれば……」
うーん……ガチガチだ。
これはなかなか仲良くなるのは難しそうだった。
◇
事件はその日の夜に起きた。
「鏡花ぁ! 大変だぁ……!」
バンッ! と訓練場の襖が開く。
酒臭い息を吐きながら、ママが吉原から帰ってきたようだ。
「葵がいなくなっちまった……! 鏡花、どこ行ったか知らねーか!?」
「いなくなった……? いえ、知りませんけど」
「くそっ。葵の味見する前にいなくなっちまった……」
こらこらこら。
七歳の甥っ子に対して、何をしようとしてるんですかこのケダモノは……。
「多分、怖くて逃げ出したのではないですか?」
「あぁ!? 何が怖いんだよ!」
「私やママがですよ」
原作・鏡花はサディスト女王。
そしてその母の蘭もまた、この女尊男卑・貞操逆転世界の申し子のような、肉食獣だ。
そんな魔窟に来なければならなかったのだ。怖いと思っても不思議ではない。
「チッ……! おい探すの手伝え! もう夜だ。妖魔が出る」
……そう。妖魔。この妖魔伝に出てくる、バケモノ。
奴らの特徴として、基本的には夜にしか出現しない。
ここ東京にも、夜な夜な妖魔がうろついている。
ふむ……むふふ。
「訓練から一年、そろそろ実戦といきましょうか」
「あ? なんだよ鏡花?」
「私、探してきます」
「おう! 頼むぞ! ただし、わかってんな? お目通りするまで、外で術は使うなよ?」
この世界の慣例として、一〇歳になり《陰陽頭》にお目通りするまでは、外で妖魔退治をさせてくれないのだ。
うん……でも、ね。ほら、今、緊急時だからさ。
しょうがないよね。うん、しょうがない。
私は窓を開け、夜の闇に向かって足を踏み出した。
「木行・【風羽】」
ゴォオオッ!
どこからともなく突風が巻き起こり、私の体をフワリと空中に放り投げる。
重力が消えたような浮遊感。
ふふ……この一年の修行の結果、詠唱を省略して術を使う……《詠唱破棄》を覚えたのだ。
原作知識と、血の滲むような訓練の賜物である。
私は風に乗りながら、周囲を探索する。
眼下には、夜の街並みが広がっている。
ここは、大田区田園調布。
五十嵐家はこの一等地に大豪邸を構えている。
夜風が髪を揺らす。最高に気持ちいい。
私は懐から、ヒトガタに切った呪符を取り出した。
陰陽術では、呪符を媒介にして式神を作ることができる。
「それ! 葵ちゃんを探して!」
私が放り投げた呪符たちは、瞬時に白い小鳥へと姿を変え、四方八方へと飛び去っていった。
式神を生成し、操作するには膨大な霊力を消費する。
しかし、限界突破修行によってMPお化けとなった今の私には、痛くも痒くもない。
こんな大量の式神を使っても、全然霊力が切れる気がしないのだ。
数分後。
鳥式神の一匹が、私の元へ帰ってきた。
どうやら大森駅近くの公園に、葵ちゃんを発見したようである。
「結構遠くに行ってるな……急ごう!」
弟が心配だからね。
それ以上の気持ちはない。
別に、妖魔が出てくれてたらいいなとか、試し撃ちしたいなとか、そんなことは微塵も思っていない。
ほんとないから。
◇
葵ちゃんは、深夜の公園にいた。
そして……。
「妖魔いたぁああああああああああ!」
私は内心でガッツポーズをした。
葵ちゃんってば、下級妖魔の【餓鬼】に襲われてるじゃあないかっ!
猿のように猫背で、腹だけが膨れ上がった醜悪なバケモノ。
RPGでいうところの、ゴブリン的な雑魚妖魔である。
でも実戦。初めての実戦だ!
「ひっ、うぅ……! 助けて……!」
葵ちゃんが遊具の陰で震えている。
餓鬼が鋭い爪を振り上げた。
間一髪。
私は空から舞い降り、着地と同時に印を結んだ。
「水木相生【水刃鎌鼬】!」
私が放ったのは、上級複合術式。
暴風の竜巻を起こし、敵をその中心に閉じ込める。そして嵐の中には、無数の水の刃が混じっているという凶悪な術だ。
ビョォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
「ギャアアアアアアッ!?」
餓鬼は悲鳴を上げる間もなかった。
一瞬で全身を切り刻まれ、粉微塵になる。
そして……黒い煙となって……消える。
妖魔は倒された後、何も残さないのだ。
ふ……ふふ……! やった! 妖魔倒した!
すごい……まるで漫画やゲームみたい!
いやゲームの世界に来たんだったね!
ここに来て一年……やっと実感が持てた気がする。
ああ、昔憧れて……しかし諦めた、理想の世界に来たんだって……。
「鏡花……姉……様?」
呆然とした声が聞こえ、私はハッと我に返った。
「葵ちゃん。大丈夫?」
私は慌てて真顔を作る。
ふふ……まだニマニマが止まりませんな……。
厨二病を卒業したとはいえ、私の根っこには、かつての妄想戦士の熱い血が流れているのだ……。
「笑ってる……」
「あ、これは……あはは。無事で良かった」
「! 鏡花姉様……僕が、無事で……嬉しいの?」
葵ちゃんが、信じられないものを見るような目で私を見つめてくる。
「え、そりゃ勿論」
そこもちゃんとありますよ。そこもね。ついでじゃないよ。
「どうして……?」
「そりゃ君が弟だからさ! 弟が無事で嬉しくない姉なんていないよ?」
ね?
と私が首を傾げると、葵ちゃんってば、瞳に涙をいっぱいに溜めて、わんわんと泣き出しちゃった。
「わぁああん! 姉様ぁ……! 怖かったよぉ……!」
◇
しばらくして、葵ちゃんが落ち着いたタイミングで、どうして家出したのか聞いてみた。
やっぱり、私たちが怖かったんだってさ。
そりゃそうでしょうね。
女尊男卑・貞操逆転世界の申し子みたいなもんだもん……五十嵐の女って……。
「でも……姉様は……違った。死んだ父様みたいに……優しい」
葵ちゃんが、私の服の裾をギュッと握りしめて言う。
普通ここ、「死んだお母さんみたいに」ってなるところなんだけどね……。
っていうか、死んだのってお母さんだけじゃあなかったんだ。
……でも、そっか。こっちは現代日本よりも命が軽い。
いつ死んでもおかしくはない世界なのだ。
「葵ちゃん、一人で夜出歩くのは……止めて。お姉ちゃん心配しちゃったよ」
ノリノリで妖魔を倒していたことからは目を逸らしつつ、私は優しく頭を撫でた。
「うん、ごめんなさい。でも……姉様。僕……とっても嬉しかった」
「そう?」
「うん! 死んだ父様みたいに……優しくて、母様みたいに……雄々しい。姉様みたいな人、初めて見た」
……ん?
んんっ?
な、なーんかこの台詞、どっかで聞いたことあるような……。
あ! そうだ!
「あ、葵ちゃんって……もしかしてあの【葵様】?」
「?」
そうだ。そうだよ。
五十嵐葵って、どっかで聞いたことあると思ったら!
妖魔伝のヒーローの一人!
主人公が攻略する対象キャラの一人じゃあないかっ!
で、葵ルートに入る時に回収する台詞が、さっきのあれじゃん!
……ってことは、あれ?
私が……妖魔伝の主役に代わって、葵ちゃんにかける台詞を……取っちゃった……ってこと?
……。
…………。
………………いや、いやいや。
ほら、ここ……ゲームだけど、現実だし。
ルートとか、それゲーム用語だから。そういうの、ないから。うん。
「姉様……」
ぽふっ、と葵ちゃんが私に抱きついてくる。
甘い子供の体温。
でも、その瞳に宿る光は、子供のそれとは少し違って見えた。
「姉様……好き……」
「あ、ありがとう……。でもそういうのは、愛するたった一人の女性に言うべき台詞だよ?」
「うん。だから……言うの。好き……愛してる……姉様……ずっと……死ぬまで……愛するから……」
ズブブブブッ!
と、何かが重たく突き刺さる音がした気がした。
あ、あれぇ……。おかしいな。
なんか、私、主人公に代わって、葵ちゃんを落としてない……?
いや……まあ……あれだ。
なんだ。
うん。どうしてこうなったッ!
【作者からお願いがあります】
少しでも、
「面白い!」
「続きが気になる!」
「連載版読んでみたいかも!」
と思っていただけましたら、
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