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エピローグ




 四人揃ってアマリ村に帰る道中、ふとノアールは「あっ」と声を上げた。現在アルガとロクが横に並んで歩き、その後ろにマイとノアールが着いて歩いている。一緒に居たベンは、途中で近くの騎士団にノーマンを引き渡してくると、別行動になっていた。


「――そういえばオレ、マイちゃんに渡したいものがあったんだ」

「渡したいもの……?」


 言われてマイがノアールに目を向けると、ノアールは「ちょっと待ってね〜」と言いつつ、ポーチをごそごそと探り出す。そして、マイに手を出すように言うと、ノアールはポーチから取り出したのだろう、一つのピアスをマイの手の平の上に置いた。黒曜石のピン型ピアス、それにマイは見覚えがあり、首を傾げる。


「これ、あげる!」

「あげるって……、これ、お前がいつも着けてるやつだよな?」

「うん! じーちゃんがお守りにってくれたやつなんだけど、別に人にあげてもいいって言われてるから、マイちゃんにあげる~」


 唐突に渡されたそんなピアスに対して、マイは戸惑いながら、当然更に首を傾げた。


「いや、貰えないぞ……? 貰う理由がないし……」

「オレはマイちゃんに貰ったから。そのお返しってことで」


 そんなことを言うと、ノアールは髪をかき上げてマイに右耳を見せるようにする。そこにはあの日、マイが皆の元を離れた日にノアールに「捨てておいて欲しい」と言って渡した筈のイヤーカフとピアスがついていた。


「ど、うして……。捨ててなかったのか」

「捨てないよ。捨てれる訳無いじゃん。これは、マイちゃんの大切なものでしょう? それこそ、マルクさんとの」

「っ…………、」

「けど捨てたかったんだよね? マイちゃんにはこれが重かったからなのかなあ……だから、代わりにオレが貰ったの。重くて抱えきれないなら、オレが持っててあげる。だからこれ、捨てちゃダメだよ。だってこれは、“マイちゃん”の原点でしょ?」


 真っ直ぐに目を見て、そう言ってくるノアールの言葉にマイはつい涙を零した。


「わあ! 何で泣いてんの!?」

「泣いてない……! 泣いてない……、大丈夫だから」


 言うとマイは手で零れ落ちた涙を振り払い、ノアールから渡されたピアスを、空いていたそこに嵌める。そして、顔を上げてそれが見えるように、ノアールに強気に笑い掛けた。


「――どうだ、似合うか?」


 そんなマイの言葉に、ノアールも同じ様に笑ったのだった。


「うん、ばっちり!」



「……あたしさあ、ノアールの無自覚であーいうことやるのが嫌い」

「あら。まあ、分からなくもないけど」

「ほんっと、何でアレで自覚しないかなあ。ノアール明らかにマイちゃんのこと特別扱いしてんのに」

「ふふっ、そうねえ。まあ、自覚してくれたら楽ではあるけれど」

「ねー」



「――あ、マイちゃん……ちょっと、二人で話せる?」


 アマリに着いた直後、ノアールからそう言われたのにマイは素直に頷いた。ノアールの様子に、空気を呼んだのだろうアルガとロクは早々に「じゃあ先に行ってるから」と離れて行った。二人きりになり、マイはノアールの顔を覗き込む。


「……わたしの部屋にでも行くか?」

「あ、と、うーん……マイちゃんの部屋だと、ラピスちゃん居るし……」

「じゃあお前の部屋――……は、無理か」


 言いながら、自分の知っているノアールの部屋の中を想像し、そう言うとノアールは「はは」と苦笑した。


「人に聞かれたくないってだけだから、場所は別にどこでもいいんだけど……」

「……なら、歩きながら話すか」


 提案するとノアールはそれに頷いて、共に部屋に向かって歩き出した。そうして、横でそわそわとしているノアールに、話そうとしている内容を何となく察し、マイはふと息を吐く。


「別れ際に――……わたしが言ったことならば、お前は気にしなくていいんだぞ」

「……へ?」

「あの時お前に言ったわたしの気持ちに嘘はないが……返事が欲しかったわけでもないから」


 そこまで言うと、マイはノアールの方を一度ちらりと見て、目が合うとノアールに対して困ったように笑って見せた。


「お前にはわたしの気持ちをただ押し付けるだけの形になってしまったが……本当に、返事はいらないんだ。今は何というか……ただ、またみんなで一緒に狩りに行くことができたら、それでいいと思うから」

「マイちゃん……」

「だから……悩ませてしまったようで、すまないな」


 そう言って申し訳なさそうに笑ったマイを見て、ノアールはぐっと息を飲みこんだ。そんな自分に気付いてなのか、マイの視線が自分から外れたのに、はっとする。


「ぁ……ま、マイちゃんっ!」

「ん? どうした?」


 強く名前を呼んできたノアールが足を止めたのに、マイも足を止めて振り返った。見えたノアールの表情は、心底困っているという表情になっていて、マイはなんだか笑えてしまった。


「あ、あの、さ、オレ……、」

「うん」

「オレ……そういう経験全然なくて、こんなこと言うのも、って思ってて」

「ああ」

「オレ……、マイちゃんのこと好きだよ。でも、多分、確実に――……オレの思ってる好きと、マイちゃんの思ってる好きは、違うと思う……」

「……うん」

「でもっ、オレも、マイちゃんと一緒に狩りに行きたいって、そう思うからっ」


 真っ直ぐにそう言ってきたノアールに、マイはただ「愛しい」と思った。


 いつの間にか、そう思ってしまうようになっていた。


「ノアール」

「は、はいっ」

「ありがとう。好きだよ」


 綺麗な笑みで、ただそう言われたのにノアールは息を止めた。それに何か答えることはできなくて、ただ、心臓の辺がぎゅっと締め付けられたような気がした。


(あ、れ……? 何だろう、なんか、オレ、変だ、な……)

「……なあ」

「へ?」

「わたしのこと……追って来てくれてありがとうな」

「……そりゃ追うに決まってるじゃん。お礼言われるようなことじゃないっていうか」

「うん、でも……言っておきたかったんだ」


 何が変なのか分からなかったけれど、そんなことをほのかに考えつつ、マイの言葉にノアールが顔を上げてみると、視線がぶつかって、直後にマイがまた、花が開くように微笑んだのにノアールの顔に熱が上がった。ただそれは、踵を返してしまったマイには気付かれなかっただろう。


「さ、帰ろう――ノアール」

「あ、うん……」


 優しく名前を呼ばれるのに、どうしてこんなに泣きそうになるのか、この時ノアールは本当にその感情の名を知らないでいた。

これで一旦のマイちゃんのお話は終わりです。

貴族になった後のマイちゃんのお話も書いてますが、次は作中に出てきたヴェリスさんのお話を上げていこうと考えてます。


ひとまずの区切りですので、ここまでのお付き合いありがとうございました。

次のお話でまた。まあ、明日には上げるつもりですが。

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