46.
「そういえば、マイちゃん結局双剣は使わないの?」
狩りに赴いた休憩時間、時間で見るならば昼食中にノアールからそう聞かれ、マイは動きを止めた。ノアールが作った食事が配膳されて、皆でそれを食べる中言われたそれに、小さく「あー……」と声を漏らす。
「とりあえずはいいかなあ、と思ってな。弓の方がみんなのサポートはしやすいし」
「ふーん。でもせっかく双剣作ってあったのに」
「えっ? そうなの? マイちゃんどの双剣作ったの?」
無邪気に聞いてくるロクに、マイはひとまず何も答えないで内心「倒れた時に見られたんだろうな」と静かに思った。
「んーあれだよ、細身のかっこいい双剣! この間マイちゃんちにあるの見かけたのはそれだったけど」
「あーあのギルドナイトの? エルレでも作ってたよね」
「多分それ~」
頷くノアールを見てから、マイはふと息を吐いて笑みを浮かべる。
「それなあ、もう売ってしまったんだ」
「えっ!? 何で!? 使ってるとこオレ一回も見たことないよ!?」
「うん、まあ、アレよりも強い武器が作れるし……何より今は弓の技術を上げたいと思っていて、作ったはいいが置いておくのも邪魔だし、欲しくなったらまた作ればいいかと売ってしまった」
「あっ、そうだったんだ~へ~」
「――邪魔だったから、売っちゃったの?」
不意に、ロクから真っ直ぐ目を見てそう聞かれたことに、マイは困った笑みを浮かべながら不思議そうに「ああ」と頷いた。何でわざわざそんなことを聞いてくるのだろうと、表情でそう言っているマイを見て、ロクはいつもの笑みを浮かべて「そっか!」と言った。
「まあ確かに弓の方がパーティの武器バランスはいいもんね~」
「それはそうねえ。でもマイちゃん、別にもう気を遣う仲でもないんだし、武器は自分が使いたいもの使えばいいのよ? カバーは幾らでもできるわ」
「本当に気を遣っているとかではないんだ。今使いたい武器が弓だから」
「弓って楽しい?」
「個人的には」
「気になってたしオレも弓使ってみようかなあ~マイちゃんに教えてもらいながら」
「いいんじゃないの? まあ、あんた弓のセンスはなさそうだけど」
「酷い! ロクちゃんよりはあるよ! 多分っ」
「あたしはハンマー一筋だから別にいいも〜ん。使う予定ないも~んっ」
ロクにべーっと舌を出され、悔しそうに震えるノアールを見てマイは「まあまあ」と宥めるように声を出す。
「そんなわけだからわたしは暫く双剣を使う予定はないさ。ノアールは弓やるなら教えるぞ? ……まあ、わたしは教えるの向いてないだろうから訓練所に行った方がいいと思うけどな」
「うー……一回訓練所で使ってみてから考えとく〜。そもそもオレも器用な方じゃないから実際太刀以外使えなさそうではあるんだけど」
「もって誰のこと言ってんのー」
「ロクちゃん以外に誰が居るの」
「言ったなあ? ノアール狩猟中覚えといてよっ。あたし絶対ノアールの手助けしてやらないんだからね!!」
「オレ別にロクちゃんのこと頼りにしてないも~んっ」
宥めたところで結局小学生のような喧嘩をする二人に、マイはやれやれと息を吐いたのだった。
*
――――矢を引き絞り、狙いを定めて、対象を射る。
弓を使うことは、気が楽だった。こうなってくるとアルガの使っているボウガンでもいい気はするが、一度使ってみようかなと専門家であるアルガに話を聞いた時、管理しなければならない弾の種類の多さに辟易したため、遠距離で戦うならば弓でいいかと結局そこに落ち着いた。
「――マイちゃん! そっち行ったっ!!」
「大丈夫だ、見えている。それに――……」
引き絞った矢から手を離せば、真っ直ぐにモンスターに向かって行き、それが突き刺さった瞬間、モンスターは「ガァっ!」と呻き声を上げてその場で動きを停止させる。
「――ほら、麻痺が入ったぞ!」
身を引きながらそう声を上げれば、自分の横からロクが飛び出し、ロクは自分の体躯はあるハンマーを振り回してモンスターの頭を叩いた。そのまま自分は頭の位置からずれて、頭についているロクの邪魔にならないよう矢を射って攻撃に参加する。
その間にアルガが自分の近くに落とし穴を張ったのを横目で見て、モンスターと自分を結んでその落とし穴が 直線状にあるよう立ち位置を変えた。基本、モンスターは状態異常をさせてきた人物にヘイトを向ける可能性が高いため、そう動けば予測通りモンスターはマイに向かって突進をしてくる。そして、アルガの張った罠に落ちたのに、横からアルガが「ナイスイン」と笑うのが聞こえた。
「アルガちゃーん! そいつもう捕まえれる~っ!」
「はい了解、任せて頂戴?」
ガチャンッ、と麻酔弾をボウガンにリロードし、モンスターの身体に二発打ち込めば、落とし穴から抜け出そうともがいていたモンスターは次第に大人しくなり、そのうちいびきが辺りに響いたのだった。
「――――捕獲完了、ね。みんな、お疲れさま」
アルガのそんな言葉にふと息を吐いて、構えていた武器をしまえば少し遠くからバタバタと走って来たのはノアール。
「えっ、嘘、終わっちゃった!? オレ最後何もしてない気がするけど!」
「まあ、でも尻尾切り落としてくれたじゃないか」
「そりゃそれできるのオレしか居ないからやっただけだよっ」
当たり前のようにそう言ったノアールだが、一期一会の野良パーティに複数回参加したことのあるマイからすると、たとえ太刀を背負っていたとしても、尻尾の切断が可能なモンスターの尻尾を切断してくれるハンターの方が少ないため、内心マイは「それが凄いことなんだけどなあ……」と思う。
「はいはい、とりあえず帰り支度するわよ。私はギルドに連絡入れるから、みんなは準備してて頂戴」
「は~い」
そうして、ロクとノアールが騒がしいからだろう少し離れた位置で無線機を使いだしたアルガをマイが眺めていれば、ふと近くにノアールが寄って来たのにマイは顔を上げた。すると、じっと顔を覗き込まれたため、「えっ……?」と思わず身を引く。
「な、なんだ……?」
「いや、さあ、動きに特に問題なかったから何も言わなかったけど……マイちゃん最近ちゃんと寝れてる?」
「え……」
「なんか、ずっとうっすら隈あるように見えるから心配で……」
わたしは今まで、自分で選んで装備を作る時、頭装備は必ずと言っていいほど顔が隠れているものを好んで選んでいた。防御の面を考えると、当然フルフェイスの鎧の方がいいが、それは視界が悪く好きではないため、じゃあせめて、と口元は隠れているものを選んで装備している。今だってそうだ。
口布のある装備であり、顔は目元しか見えていないようなもの。そういったものを好んで着る自分の理由を、わたしはずっと知らないままで居たかった。
「あー……まあ、昨日、ちょっと調べものをして寝るのが遅くはなったが……それだけさ」
「調べものって?」
「ほら、アルガの協力で新しいモンスターの情報が情報誌に載ってたから。それを読んでた」
「あ~あの黒い鱗粉出すっていう竜?」
「――そいつなら、今度討伐に行く予定だから」
いつの間にか、ギルドへの報告が終わったらしいアルガが戻ってきていて、そう言われたのにノアールは「えっ!?」嬉しそうにアルガに振り返る。
「オレらがそんな新種のモンスター狩りに行っていいの!?」
「……そんな滅茶苦茶嬉しそうに言われてもねえ。いいっていうか、正式に依頼されてるのよ。アマリの村長から、モンスター凶暴化の原因となっているだろう、そいつを討伐してくださいってね」
「王都から派遣されてた人たち居たんじゃないの?」
会話にロクも参加し、聞かれたそれにアルガは「ええ」と息を吐いた。
「挑んだみたいだけど、手に負えないからってこっちに話が飛んできたのよ」
「そんなに強いのぉ!?」
「ロクはロクで戦闘狂ね……強いからって嬉しそうな声上げる人そうそう居ないわよ……」
「うわあ、楽しみだな〜! ねえ、マイちゃんっ」
「あ、ああ、そう、だな……?」
不安そうに答えるマイに、アルガは「マイちゃんが普通の反応なのよ、あんたたち」と言ったのだった。




