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35.




 穏やかな日々だった。

 エルレ村で過ごしていた時と同じように、みんなで狩猟に行くモンスターを相談して決めて、準備を行いハンター業を行う日々。アルガの言っていた通り、アマリ村で狩ったことのないモンスターを数種類狩ったことで、ロクも、ノアールも、自分も「高難易度」のハンターライセンスを取得することもできた。

 それによって、自分たちが挑まなければいけないモンスターの脅威は上がり、少しだけモンスターの討伐に苦戦することもあったりしたが、概ねは皆元気にハンター業を行っている、そんな日々であった。


 そうして、半年が過ぎた。

 エルレ村に居た時と比べて、自分ももう立派にハンターをやれている自信もついてきた。助けられることが多かったけれど、みんなを助けることもできるようになってきて、ずっと、こんな穏やかな日々が続けばいいと、そう思っていた。


「――そういえば、ロクちゃんの生家ってどこなんだろうね」


 聞かれたことに、テーブルに広げられていたクエスト資料から顔を上げ、ノアールに目を向ければノアールは「マイちゃん知ってる?」と首を傾げてきた。

 現在、ロクもアルガも少しだけ不在にすると言ってアマリ村から離れているため、二人で狩猟できるモンスターをギルドから貰った資料の中で選別しているところである。場所はご近所さんということもあってマイの家であり、テーブルにはクエスト資料の他に、ここでの生活で更に料理の腕を上げたラピスの自信作がいくつか並んでいる。下手に外食するよりも、最近は「ラピスちゃんのご飯がいい!」とノアールが言っているくらいだった。


「さあ……特に聞いたことはないなあ。まあでも、いいとこのお嬢様なのかなとは思っているが」

「えっ!? 嘘ぉっ! ロクちゃんだよ? 何で??」

「長く空いても半年に一回は絶対生家に顔出してくるって言ってるだろ? 両親に大事にされているんだなって思うし、たまに立ち振る舞いに気品を感じる時もあるから……」

「えー……? ロクちゃんに気品感じたこととかないけど~……」

「まあ……お前と居るロクは精神年齢滅茶苦茶低そうだからな……」


 内心、「お前も同様に」と思っていたマイだったがそれは口にしないで置いた。するとノアールは「うーん」と唸り声を上げた後、ロクに気品を感じたことはやはりなかったのだろう、「それにしても」と話を変える。


「そう考えると珍しいよねぇ。ハンターやってて、こんなに頻繁に実家に帰るっていうのも。まあ、マイちゃんの言うようにご両親に大事にされてるんだろうけど」

「珍しいって何がだ?」

「ん? だってハンターはさ、自由度高いけど滅茶苦茶危険なわけじゃん? 普通だったら就かない職業だし、家族ぐるみでやってるんでもなければ、親が勧めるような職業でもないでしょ。常に命と隣り合わせだし」

「まあ、そうだな」

「八割方生きていくために就くもので、モンスターと共生してる以上、この世界になくちゃならない職業だけど、就いた方がいい職業ではないからねえ。だから、そうなるとロクちゃんは珍しいかな~って。ハンターやっててこんなに実家に帰るなんて」

「言われてみれば……ロクは自分の意志で帰っているというか、帰らなくちゃいけないから帰ってるっていう感じだしな」

「一回ロクちゃんに親御さん何してる人なの? って聞いたことあるけど、普通の商人だよ~って言ってたし。ロクちゃんホントは親に反対されてるのかもねえ、ハンターやってること」

「うむ、確かに」


 マイの返答を聞きつつ、テーブルに置いてあったラピスの料理に手を伸ばし、口に放り込んでからノアールの頭にふとあることが思い浮かんで、「それにしても」とノアールは笑った。


「アルガちゃん、滅茶苦茶嫌そうだったね~アレに行くの」


 言われたそんなことに、マイはノアールの言っている「アレ」について思い返して、苦笑を浮かべる。

 現在、ロクが居ない理由は「生家に帰る」という定期的な行事であり、一方でアルガが居ない理由は「モンスターの凶暴化の原因調査を手伝ってほしい」と頼まれていたからである。

 それは二日前のこと、四人で無事クエストから帰還した結果、アマリ村のギルドにてその帰りを待っていたと言わんばかりに、いきなりアルガは三人の人に囲まれたのだ。ランス使い、片手剣使い、大剣使いの優秀そうなハンターたちに囲まれたかと思えば、皆アルガに向かって土下座する勢いで頭を下げ始めたため、マイもノアールも困惑したのは記憶に新しい。

 そうして頭を下げた彼らはアルガに向かって、「君の力が必要だ」「時間は取らせない」「一週間でいいから手伝ってくれ」と何かを頼みこんでいて、詳しくアルガに聞けば、自分たちがこの村に呼ばれた要因である「モンスターの凶暴化」についての調査を手伝って欲しいと頼まれているらしかった。

 何故、アルガにそんな依頼が来ているのか、理由はその前のクエストにて発見して持ち帰ったあるもののせいだった。村の近くで凶暴化しているモンスターが居るから狩猟してきてほしいと村長に頼まれ、四人で向かったそのクエスト。確かに凶暴化と言うように、そのモンスターの通常時と比べ、動きは荒々しく変則的であったがこの四人であれば普通に狩猟し終え、そのモンスターの死骸にあるものが付着していたのに、ロクが気付いた。

 それは黒い鱗粉のようなものであり、指摘されて皆で思い返してもみれば今まで狩った「凶暴化」しているモンスターの身体のどこかに、同じものが付着していたことをそれぞれ思い出したのだった。

 結果、アルガはそれを採取し持ち帰ってギルドに提出したらしいのだが――どうやらそれを研究した結果、原因の元である可能性が高いらしかった。


 そのため、元々アルガの友人でもあった調査員の一人が難航していた調査に「やっぱり彼女の力を借りよう」と提案し、再び頼みに来たらしい。もちろんアルガは「何で私が」「楽しくない」「後はあんたたちがやりなさいよ」と突っぱねていたが、彼らの圧に最終的に「一週間だけよ」と妥協してしぶしぶ折れ、連れて行かれたのだった。


「そうだなあ……ずっと“何でこんな楽しくもないことを私がやらないといけないのよ”って言ってたな」

「ねえ。オレは調査好きだから、代わりにオレ行くよって言ったのに、あっちの人が“君はいい”って言って来たしな~」

「んー……まあ、あっちはお前の実力知らないから、断りたくもなるだろうさ」

「え? どういうこと?」

「わたしはお前が優秀なことをもう知っているが……初対面の奴からすると、お前は優秀そうに見えないだろうから……」

「すごい普通に酷いこと言うじゃん」

「わたしも初対面の時、お前はとてもモンスターを相手にできるようには見えなかったし……」

「フォローもしてくれないんだ?」


 じとりとした目で見つめてくるノアールに、マイが「ははは」と乾いた笑いを返していれば、ノアールは「別にいーけど」と口を尖らせる。


「ど〜せオレはへたれだも〜ん。あと、マイちゃんたちが分かっててくれるんならそんでいーしっ」

「そうそう、お前はへたれだけど優秀だよ」

「心こもってないなあ……えーっと、とりあえず明日行くクエストはこの雷属性牙獣種でいいんだよね?」

「ああ。わたしは装備で欲しい素材があるし、お前も武器の方で欲しい素材あるんだろ?」

「うん、尻尾欲しいんだよね~」

「ならわたしはいつも通り弓で行くから――……」


 そうして、クエストへの作戦会議をいつも通り立てた。しっかりと準備をして向かったそのクエストが、マイにとって穏やかな日々の最後になるとは、誰も知る由もなかった。

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