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33.




「マイちゃ~~~~んっ!! 会いたかった~~っ!!」


 マイとノアールがアマリ村に辿り着いた一週間後のこと、ロクとアルガもアマリ村に辿り着き、ギルドにて出迎えればロクから抱き着きながらそう言われ、マイは「おおっ」と狼狽えた。まるで数年会えていなかったかのようなロクに、思わず笑ってしまった。


「思っていたよりも早かったな、来るの」

「うん! アルガちゃんのクエストが早く終わったから、それに伴って早くこれたんだ~っ」

「そうか。二人は部屋の手配してもらったか?」

「ええ。村長にはもう挨拶済ませて来てあるから……私はA-2みたい」

「あたしはA-6だって~」

「二人は同じ区画なんだな。わたしはC-11でノアールはC-15だから」

「え~~ノアール、マイちゃんと同じ区画なの!? 部屋代わって!」

「へっ? 無理だよ! もう部屋に物増えちゃってるし~……」

「……わたし代わるか?」

「それじゃ意味ないよっ!?」

「こら、我儘言わないの。私は立地的にA地区がいいから変わりたくないし、諦めなさい?」


 そうして口を尖らせるロクを見て、マイはくすくすと笑う。感じていたのは、安心感だった。



「そーいえば、マイちゃんたち何かクエストは行った?」


 アルガとロクが部屋に荷物を置いてすぐ、アルガから「ご飯食べに行きましょ」と言われ、アマリ村に来たことがあるのだろう迷いなく進むアルガに着いて歩き、落ち着いた飲食店内にてロクから聞かれたそれに、マイは「えーっと」と思案した。


「わたしたちもまだ着いて一週間しか経ってないが……一応一昨日大量発生していた小型モンスターの討伐は行ってきたな」

「大型には行ってないんだ」

「うん。大型行くには四人集まってからの方がいいか~って。緊急的に頼まれたものも無いし」

「そう。ところで今はどんな状況? マイちゃんはわざわざ呼ばれてここに居るんでしょう? その理由っていうのは、私はまだ聞いてないんだけど」


 運ばれてきた料理に「いただきます」と手を合わせながら言われたアルガの言葉に、マイははっとする。その事情をちゃんと知っているのは、直接ナビーから話された自分だけであり、ノアールもこの村に着いたとき村長から説明を受けていたが、今更「よくついて来てくれたな」と思った。



「ふぅん……原因不明の大量発生と凶暴化、ね」


 詳しく話し終える頃には食事は終わり、話がひと段落したタイミングで一行は店を出ることにした。この村に初めて訪れたロクのためにだろう、案内がてら村内をふらつきながら話をし、アルガは「あ」と何かを思い出したように声を上げた。


「そういえば……あれってその調査の話だったのね」

「えっ? 何の話だ?」

「知り合いに誘われたのよ、その調査とやらに。断ったけど」

「調査員は王都のギルドから派遣されてくるって聞いたが……」

「ええ、それが私の知り合いね」

「王都のギルドの人ってかなり優秀な人なんじゃ……そんな人に頼まれたのに、アルガちゃん断ったんだ……?」

「だって調査なんてつまらないもの。いつ終わるのかも分からないし」

「ホント、アルガちゃん自由だねえ。そこがアルガちゃんのいいところだけど~」


 常々顔が広いなとは思っていたが、改めて顔が広いなとマイが感心していれば、今度はロクが「あっ!」と声を上げてとある場所を指差した。


「武器屋! 何か真新しいものないか見てってもいーい!?」

「ああ、いいんじゃないの。ここにしかない武器種もあるだろうし」

「えっ!? そうなの!? オレも見たい!」


 そうして「わーっ」と子供のようにはしゃいで武器屋へと走り寄って行くロクとノアールに、マイとアルガはくすくすと笑い、マイは「相変わらずだな」と漏らした。


「そう言えばマイちゃん、環境が変わったわけだけど……記憶の方はどう? 何か思い出したりした?」


 そんなアルガの問いかけに、自分がこの村に拠点を変えた理由を、村長たちに頼まれたからだけではないというのに気付かれていたんだな、とマイは思う。


「いや……今のところは何も、だな。懐かしさを感じることもこの村にはない」

「ふうん、そう」


 そうして、答えたアルガの目が一瞬伏せられたのにマイは問いかけようとしたが、それは「へ〜っ! すごーいっ!!」という無邪気な声によってかき消された。見れば、キラキラとした目でロクが手に持つ武器を二人して見つめているのに、マイは歩み寄り首を傾げる。


「……何がすごいんだ?」

「この武器今こっちの地方にしかない武器種らしくて、変形機構がついてるんだって!!」

「剣にもなるし、斧にもなるらしいよ!!」


 そう言ってロクが手にしていた斧と見て取れる武器に目を落とし、マイは「ふぅん」と息を吐いた。


「でもこれどうやって変形するんだろうね? 武器屋の人に聞かないと分かんないや~」

「ね~初めて見る武器だし~」

「……振りながらそこ押すだけじゃないか? ほら、貸してみろ」

「えっ? うん……」

「ほら、ここを、こうして、こう……」


 言いながらマイが武器を振りながら行動を行えば、ロクが言っていた通り斧の形態から剣の形態へとガシャンっ!と音を立てて変形した。


「えっ!? じゃあ斧に戻すのは!?」

「こうして、こうだな」


 言いながらマイが武器を振れば、元の斧の形に戻ったことにロクとノアールは「すごーいっ!!」と目を輝かせる。


「マイちゃん何で分かったの!? 武器屋の人もこの武器強いけど扱うの難しいって言ってたのに!」

「ねっ! もしかして触ってみたりしてた?」

「いや……今、初めて見た、が……」


 答えながら自分の握るそれに目を落とし、マイが思い返していたのはエルレ村でのバリーに言われたこと。「記憶はなくとも、身体が覚えている」、そんなことを思い返して目を見開いた。


 エルレ村にはなかった武器種であり、こっちの地方にしかないというそれ。それの扱い方を自分の身体は覚えていた。


(わたし……こっちの地方に来たことがある、のか? じゃないと説明がつかない……)

「――マイちゃん?」


 呼びかけられ、はっとして顔を上げれば心配そうに自分の顔を覗き込んできているロクとノアールが映り、マイはすぐさま「ああ、いや」と笑みを浮かべる。


「すまない、ちょっと考えごとを……」

「考えごと?」

「ああ。もしかしたら、わたしはこっちの方に来たことがあるのかもしれない、と思って」

「…………あっ! そういえばマイちゃんって記憶喪失だったっけ!? なんかマイちゃんはマイちゃんだから滅茶苦茶忘れてたよ、それ。え~っとつまり、武器の使い方は身体が覚えてた的なこと?」


 本当にそれを頭の中から失くしていたのだろう、今度はノアールがはっとしてそんなことを言ったのに、マイは思わず笑ってしまった。


「まあ、そう、そういうことだな」

「え〜そっか〜! じゃあこの村だったらマイちゃん知ってる人居るかもね! でも観光地だから出入り多くて難しいかなあ」

「う~ん……」

「よかったね! マイちゃんっ」


 屈託のない笑みでノアールから言われたそれに、マイは「ああ」と笑いながら答えつつも自分の中に渦巻くものを表には出せなかった。


 記憶がないよりも、ある方がいいとは思う。けれど、それがないことで困ったことは今のところない。

 歯痒い思いをしたことはあるけれど、別に困るほどのことではなかった。

 ノアールが「よかった」と言うのなら、それはいいことなんだろうとも思う。


(でも……どうしてわたしはこんなにも、それが嬉しくないのだろう)


 どころか、嫌な予感が忍び寄ってきているようであり、とはいえ、予感である以上それはただの思い過ごしなのかもしれない。


 そうしてマイが目を伏せたのに、ロクが一瞬唇を噛んだのをアルガは見逃さなかったことを、当然マイもノアールも知らずに居た。

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