21.
ある日のことだった。
「武器新調したいから加工屋行くけど行く人~っ!」
モンスターの討伐を終えて、ギルドに戻り、クエストの手続きも終えたその時、ロクがそう声を上げたことにマイは小さく手を上げた。
「わたしも行こうかな……素材が集まってきたことだし、そろそろ弓から双剣に戻ってもいいかと思って」
「そうねえ、マイちゃんも四人での狩りに大分慣れてきたみたいだし、いいんじゃないかしら」
「なら行く人はマイちゃんとー?」
「私はパスね。この後用事あるから」
「俺も行けないや~装備は見たいけど用事あって~……」
「じゃあ二人だ! デートだ! 行こーっ! マイちゃん!!」
元気よくロクに腕を引っぱられ、マイはノアールとアルガに顔だけ振り返り、苦笑しつつ「じゃ、じゃあまたな」とその場を後にするのだった。
*
やって来た武器防具の加工屋――マイがハンターになってから、何度もお世話になっている場所だった。この身一つでモンスターと戦うハンターにとって、武器と防具はとても重要なものであり、良いものが作れるのならばより良いものを無理をしてでも作って行った方がいいとも言える。何故なら、どちらの性能も挑むモンスターと相性が悪ければ、当然直結するのは自身の命であるのだから。
そのため、新たに強いモンスターの討伐に成功したのならば、その素材を加工屋に持ち込んで相談するのが常であった。
「やっほーおじちゃん! 元気ー!?」
加工屋のカウンターにて、カウンターの向こう側に居る強面の男にロクが声を掛けると、男はにっと歯を見せ「おおっ」と頷く。
「ロクの嬢ちゃんか! 今日は何の用だ?」
「今日はね〜このハンマー強化する分の素材集まったから! それから、マイちゃんが双剣作りたいって!」
ロクの言葉に男の視線がマイに流れ、マイは加工屋の男に軽く会釈した。
加工屋の強面の男はその見た目に反して、話しかければよく笑い、またハンターたちの命を守るものを作っている人らしく、面倒見のいい人物である。
「嬢ちゃんのは承った! んで、マイさんの双剣か……何を作るか、とりあえずどんな素材が出せるか言ってくれねえか」
「ああ、今出せる素材は――……」
そうして、何のモンスターのどの素材を使えるのかマイが伝えれば、加工屋の男はそれを聞きながら羊皮紙の紐で綴られた本をぱらぱらと捲った。マイも同じく覗き込んでみると、そこには双剣の設計図が書かれていた。同じような書物が加工屋の足元にはたくさん並んでおり、それらは各武器種ごとの設計図だ。
「……――そんな感じだが、何かおすすめの武器はあるだろうか」
「うーむ、そうだなあ……今ある素材でマイさんのランク帯ですぐに使える双剣は……これとかどうだ」
言われて指差されたページに目を落とし、マイの目が一番最初に拾い上げたのは「ギルド模造」という文章であり、つい「模造……?」と首を傾げた。
「ああ、この双剣はギルドに勤めてる騎士団の連中が腰に下げてる剣から形のデザインをもらっててなあ。まあ、そんだけの話だ。性能に関しちゃこの俺が作るんでお墨付きよ!」
「ああ、なるほど……格好いいデザインだな」
そのページには、細身のレイピアのような刀身の剣が二対で描かれている。一言でいえば「騎士っぽい」見た目の剣であり、マイの言葉に男は「うむ」と頷いた。
「ギルドの騎士団の連中が使ってる奴とは性能は違うが、見た目なんかはほぼ一緒だな。もちろんギルドに許可は取ってある。防具の方にも連中と似た見た目の防具があるが、この辺はお前さんの言うようハンターさんたちから格好いいって人気もあるんだ」
「ふうん……」
聞きながら、横に書かれていたその双剣の性能や切れ味を眺め、マイは「うん」と頷く。
「この攻撃力と切れ味であれば、申し分ないかと思う。作成を依頼してもいいだろうか?」
「おうよ。じゃあ必要素材を置いて行ってくれ。出来次第、うちのもんに届けさせるからよ! 三日後には届けさせてもらおう!」
「うん、四日後にちょうど次のクエストに行く予定だったからちょうどいい。じゃあ、よろしく頼むよ」
「嬢ちゃんのは元の武器強化だから、明日にゃ届けよう! まいどありっ」
「はーいっ!」
返事をしたロクに合わせて今一度マイは頭を下げ、二人は加工屋を後にした。
「いい武器作れそうでよかったねえっ」
「ん、ああ」
「じゃあマイちゃんは次から双剣で来るの?」
「一応そのつもりだ」
「えーっと、次は何に行くんだっけ」
「森林の青い飛竜だろう? ノアールが尻尾が欲しいとかで」
「ああ〜そうだった! 双剣の練習にはちょうどいいかもね〜。あんまり変な動きするモンスターじゃないし~」
「だな」
*
「だんにゃ様~加工屋さんからお届けものにゃ!」
あれから、ちょうど三日後の朝――ラピスのそんな声でマイは起こされた。ラピスはいつも自分より先に起きては、朝食の準備をしてくれているため、いつもは朝食が出来上がったタイミングで起こされるのだが、いつもとは違う文言で起こされ、マイは「ああ……」とぼんやりとした声を上げて身体を起こす。
すぐに洗面所に向かって顔を洗うと、くあっと欠伸をしてからラピスの声がした方へと向かった。
「おはよう、ラピス。武器、届いたのか」
「にゃにゃあ! 受け取りのサインはしといたにゃあ。どこに置いておくにゃ?」
「ああ、いや、ひとまず中を確認するよ。ありがとう」
言って、マイがラピスのすぐ横に置いてあった頼んだ双剣が入っているのだろう縦長い木箱を持ち上げれば、ラピスは「じゃあラピスは朝食の準備の続きするにゃあ」と台所へと消えていく。それを見届けてから、マイはまたベッドの方へと向かい、箱をベッドの上に置くと十字に封されていた紐を解き、木箱を開けた。
中には、あの時設計図で見たレイピアのような細身の二対の剣が入っていた。加工屋の腕は辺りでも評判がよく、入っていた剣の刀身を見て、マイは思わず「おお……」と小さく感嘆の声を上げる。
(設計図じゃ分からなかったが……青と銀の刀身だったのか……片方は鉱石の刀身で、片方はモンスターの牙の刀身だな)
光を反射して輝くほどに綺麗なその刀身を見つつ、マイは箱から取り出すべく、手を伸ばしてぎゅっと柄を握った――その瞬間だった。
瞬きをした視界の間で、柄を握った自分の手が真っ赤な血に染まっているように見え、それにゾッとしたマイは慌てて柄を手放し身を引いた。ぶわっと全身の毛穴が開いたような感覚と共に、冷や汗が噴き出してドッドっドっと心臓が跳ねる。
目を見開いて、浅い呼吸を繰り返しながら、どこからか襲ってきた恐怖にマイはただその双剣を見つめた。
(何、だ? 今……今のは――……血、が……)
震えながら、また双剣に手を伸ばして柄を握る。今度はさっき見た光景を瞬きの間に見なかった。
けれど、双剣は片手ずつ握ってこその双剣であり――まだ一振りを左手にしか持っていなかったため、マイは右手を伸ばし、もう一振りの柄も握ってみる。
握ったそれらは妙に自分の手に馴染んでいて、どこか、知っている重さだった。
(……何だ、さっきのは別に気のせい――)
思って、自分の両手に握られた双剣の刀身に目を落とした時、それはまた見えた。
「――――ぅ、わっ!!」
瞬きの間で、自分の握っていた双剣の刀身が真っ赤な血に染まっていたのと――……その向こうに、誰かが居た。
驚きのあまりマイは声を上げ、次いでガシャンっ!と音を立てて放り投げるように双剣を手放し、その場に尻餅をついてしまった。
(何……何だ、今見えたのは、誰……――)
「――どうしたんにゃ、だんにゃ様! 凄い音がしたにゃあ!」
自分が双剣を床に放った音を聞きつけて、ラピスが慌てて自分のすぐそばに寄って来たのにマイははっとし、「ああ……」とぼんやりとした声を返す。そして、何とかその顔に笑みを浮かべた。
「すまない……何でもないよ。寝ぼけて、転びそうになったというか……」
「ホントにゃ? だんにゃ様、お顔真っ青だにゃあ。大丈夫にゃ……?」
言われたことにマイは顔を隠すように片手で自分の顔を覆い、小さく「大丈夫……」と息を吐く。そうしてすぐに、何かを振り切るよう一度頭を横に振ると、マイは立ち上がり床に放り投げてしまっていた双剣を拾い上げた。片腕でまとめるように持つと、空いている手の方で心配そうに見上げてくるラピスの頭を撫でる。
「ありがとう――大丈夫だから」
「……本当にゃあ?」
「ああ。いい匂いがするから、朝食ができてるんじゃないか? 食べよう、一緒に」
そう言えば、ラピスは「そうだったにゃ! コゲちゃうにゃあ!」と声を上げて、また台所へと消えて行った。そんな姿をふと優しい笑みを浮かべて見送ると、マイは抱えていた双剣を持って玄関近くへと向かう。そしてそれを、いつも使っている弓の横に並べて壁に立て掛けた。
「だんにゃ様~っ! お皿出して欲しいにゃ~っ!」
「っ、ああ、今行くよ」
ラピスの声に、マイは自分の足元から這い上がってきていた理由の分からない恐怖を見ないフリをしたのだった。




