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12.



 あれから、また三ヶ月の月日が流れた。マイの記憶は未だ戻らないまま。

 自分の失くした記憶に対して、どうしても取り戻さなければと、マイ自身思うことはもう少なくなりつつあったけれど、パーティで狩りをするようになり、あることを思うようになっては居た。


 現在、相対しているのは炎属性の飛竜種モンスター。ノアールの持っている太刀の強化に、それの素材が必要ということでギルドで出ていた討伐依頼を受けてやって来ていた。

 場所は砂漠地帯であり、日中は日が照ってかなり暑く、日が沈めば凍えるほど気温が低くなるような、ハンターからすると戦うには厳しい環境の場所である。


 ギャオオオオッ!!という、けたたましいモンスターの鳴き声は、そのまま衝撃波のように自分に伝わり、鼓膜が破れないように反射的に手で耳を塞いだ。

 モンスターの殆どは、その鳴き声すらも攻撃手段として使ってくる。音は振動であり、モンスターの咆哮というのは下手をすれば立ち位置によって吹っ飛ばされもするし、脳を直接揺らされて気絶をしてしまうこともあった。その振動が自分に伝わる刹那、回避行動を行えばそれを避けることもできなくはないが、音という目に見えないものを避けるのは至難の業である。


 モンスターの咆哮をまともに受けてしまい、吹っ飛ばされるような威力はなかったものの、マイは両手で耳を塞ぎながら、その振動に動けなくなりつつ状況を確認した。鼓膜が破れそうなくらいの音圧に怯んでいると、目の前のモンスターはゆらりと頭を揺らして、自分に標準を合わせる。モンスターが息を吸い込むのが見え、そのモンスターが何をしようとしているのかすぐに分かった。

 炎属性であるそのモンスターは、自分の喉元に可燃性の粘液を溜めて、それを吐き出す瞬間奥歯で着火をし、火球を吐き出してくる。息を吸い込んだそのモーションが、咆哮する手前のものとは違い、そのためのモーションであることが分かったけれど、怯んだ身体は当然すぐには動かなかった。


(火球、飛んで来る。回避、間に合わない、ダメだ、当たる……っ)


 回避行動に移りながらも、マイがそれに当たることを覚悟した時だった。


「――――マイちゃんっ!! 危ないっ!!」


 マイのすぐ後ろ側からそんな声がし、飛び出してきたのはノアール。自分とは違い、モンスターの咆哮を避けたのだろうノアールはマイの前に飛び出して、モンスターに向かって太刀を構える。


「おおおおおっ!!」


 そんな雄叫びと共に、ノアールがモンスターに太刀を振るえば、モンスターはそれに怯み火球を吐き出そうとしていた行動を強制的にキャンセルさせられていた。モンスターが怯んだことに、ノアールはすぐさま叫ぶ。


「ロクちゃんっ!!」


 呼ばれるよりも先に、少し離れた位置に居たロクはノアールがモンスターを怯ませることを見越してか、すでに距離を詰めていて、身の丈ほどあるハンマーをモンスターに向かって振りかぶっていた。


「ナイス、のいれ!! 待ってたよ〜! せーのっ!!」


 振りかぶったハンマーは、ロクの「てぇ~いっ!!」という掛け声とともに、モンスターの顎下をアッパーする。強い力で顎を打ち上げられたモンスターは意識が混濁し、その身体が揺らめいた。

 そうして、ふらふらとした足取りでモンスターが向かったのは、近くに貼られていた落とし穴。意識が混濁したまま、その落とし穴にすぽっ、とモンスターの身体が落ちれば遠くに居たアルガは、構えていたボウガンの弾をガチャン!と音を立てて切り替えた。


「いいタイミングよ、ロク」


 不敵なそんな言葉を吐いて、スコープを覗いてアルガはドンッ!と爆発音を奏でて弾をモンスターに打ち込む。

 モンスターに打ち込まれた弾は特殊な対モンスター用の麻酔弾。モンスターのHPを九十パーセント削ってから、罠に嵌めてその弾を打ち込めばモンスターを捕獲できる麻酔弾である。もう捕獲できるくらいにはモンスターのHPを削っていたため、その弾を打ち込まれたモンスターは「ギャオっ……」と小さく鳴き声を上げてから、ぱたりと地面に沈んだ。

 モンスターから寝息が聞こえるようになり、モンスターの一番近くに居たノアールは「ふーっ」と息を吐いて、構えていた太刀を背中の鞘に納める。


「一丁上がり〜っ! アルガちゃーん! 捕獲成功したよ〜!」

「はいはい。今ギルドに無線飛ばすから。皆ちょっと休んでてちょうだい」


 離れた位置にいたアルガが、腰についていた無線機に手を伸ばしつつ近くに寄ってくるのを見ていると、そんなマイの腰辺りにどっという小さな衝撃が起きた。それにマイが目を丸くして振り向けば、そこには自分の腰に抱き着いてきているロクの姿。

 ロクはマイと目が合うとにこーっと、八重歯を見せて笑った。


「マイちゃんお疲れー!」

「ああ、ロクもお疲れ様」

「のいれもお疲れっ!」

「だから何回も言ってるけどのいれじゃなくてノアール!! たまにトイレって言うのもやめてよ!!」

「あははっ! 知ってる知ってる! ノアールお疲れ〜!」

「はあ、全くもう……お疲れ様〜。マイちゃんもお疲れ〜」

「ああ、お疲れ様……」


 声をかけてきたノアールの姿を目に入れたマイは、返事を返しつつ目を伏せる。思い返したのは、つい先程のこと。


 ――「マイちゃんっ!! 危ないっ!!」


(……さっき、ノアールがモンスターを怯ませなければ、モンスターの攻撃は確実にわたしに当たっていた)


 この三ヶ月、ずっとこのメンバーで狩りをしている。

 ある時から、アルガから一緒に戦ってもいいという許可が出て、戦いを共にしてそれは如実に実感した。


 彼らと、自分のレベルは違いすぎる――そんなことを。


 記憶がなくて、自分がどこの誰かも分からないというのに、温かく、優しく自分のことを受け入れてくれた彼らは、どこまでも優しかった。

 ギルドから受けられるクエストというものには幾つか規則があり、その中の一つにクエストの失敗条件というものがある。原則、クエストの報酬金が底をついた時、そのクエストは失敗とされギルドからは報酬金を受け取れなくなるのだ。

 何をしたらその報酬金が減っていくかというと、ハンターたちの間で「キャンプ送り」という言葉にされていることが一度起きるごとに報酬金は三分の一ずつ減っていく。そして、その「キャンプ送り」というのが何かと詳しく説明すると――出てくるのは猫の獣人族。猫の獣人族の多くは、ギルドと関わりを持っていて、訓練所の設備管理をしているルティが分かりやすい例で、ギルドからその仕事をもらって働いている。そんなルティのような仕事の他に、ギルド内の飲食を提供したりと様々な仕事がある中で、モンスターたちのいるフィールドを巡回する仕事をしている猫の獣人族も存在するのだ。フィールドを巡回している猫の獣人族たちは、主に狩りに出たハンターたちが気を失うほどのダメージや、動けなくなってしまうほどの怪我を負ったその時、安全地帯までそのハンターを台車に乗せて運んで行ってくれる。その行為一回分が、原則そのクエストの報奨金の三分の一の代金が掛かるのだ。更に言うと、三回キャンプ送りにされてしまい、ギルドから支払える報酬金がゼロになった場合、ギルドからはそのクエストから帰還することが規則となっている。暗に言えば、三回もキャンプ送りにされている時点で、そのクエストに挑むのは早いと、ギルドからはそう判断されるのだ。


 今のところ、一回のクエストで三回キャンプ送りにされたことはないが――マイは、二回まではそうなったことがあった。自分がキャンプ送りにされれば、パーティで受けているクエストなのだから、当然全員の報酬が下がってしまうし、一つのクエストで二回キャンプ送りにされたその時、安全地帯から回復をした後、皆が狩りをしている現場まで急いで向かった結果、そのクエストの目標は討伐し終えていたのである。


(……役立たず)


 自分自身にそう思い、マイははあっと息を吐いた。


「マイちゃん? どうかした?」

「え、ああ、大丈夫。どうもしてないよ」

「そお?」


 自分の力不足から出た溜め息に、ロクから問いかけられたことにすぐ首を横に降り、笑って答えればロクは「ならいーけど」と自分から離れ、今度はノアールの方へと向かって行った。生死が掛かっていた狩りが一段落したことで、小学生のようなじゃれあいをするロクとノアールを遠巻きにマイが眺めていれば、その横にアルガが並び立ち息を吐く。


「全く……すぐ遊ぶわね、あの子たち」

「ま、まあ……でも戦いの時はすごいじゃないか、いつも」

「そうじゃなかったら一緒に狩りに行ってないわよ」

「ははは……ギルドへの報告は終わったのか?」

「ええ、滞りなく。そうね……」


 答えながら、アルガはすいっと空を見上げて太陽の位置を確認した。


「今から戻れば、日が沈む頃には村に戻れると思うからサクサク戻りましょうか。野宿じゃ疲れも癒えないし」

「そうだな」

「じゃ――ロクーっ! ノアールーっ! 私とマイちゃんが先に歩いて行くからちゃんと着いてきなさいよーっ」

「はーいっ!」

「分かったーっ!」


 二人の返事を聞くとアルガは荷物を背負い直して、地図を広げ村の方角に向かって歩き出す。そんなアルガを追いかけつつ、マイがちらりと後ろの二人に目を向ければ、荷物を纏めるノアールの邪魔をするロクという図が見えた。


「……いいのか、二人。待たなくても」

「ああ、いいわよ別に。はぐれても村までなら普通に歩けば辿り着くでしょうし。それよりもマイちゃんに言っておかなくちゃいけないことあるから、二人のことは放っておいて」


 このパーティのリーダーはアルガであるため、「ひとまず従っておくか」とマイがアルガの横に並べば、アルガはすいっと少し離れた地面のある場所を指さして見せる。


「今回戦った場所でそういうところなかったから言わなかったけど、あそこ、蟻地獄みたいになってるの分かる?」

「ん……ああ」


 アルガが指さした方に目を向ければ、そこには言った通りさらさらと砂がどこかへと落ちていっている蟻地獄のような窪みが見えた。


「この砂漠は大きな洞窟の上に成り立ってるような地形なのよ」

「ああ……地図的にそうなのかとは思っていたが」

「で、ああいう流砂に落ちるとその洞窟まで落ちちゃうから、落ちても死ぬような高さじゃないけど、落ちないように気を付けなさいねっていう話」

「ふうん……そういえば、洞窟にはまだ行ったことないが、そこにもモンスターが生息しているのか?」

「そりゃ勿論」

「……アルガがわざわざ気を付けろって言ってくるってことは、強かったり?」

「んー……まあ、そうねえ……」


 アルガの肯定に、「そうか……」と小さく返しながらマイは先程アルガに指差してもらった流砂の窪みに目を向ける。そして、その目を見開くこととなった。

 何故なら、自分たちが通り過ぎたその丁度真横を今、ロクとノアールが通過していたのである。それだけのことなら、なんら問題ないように思えるが、マイの頭の中に浮かんだのはこれまでの数々の帰り道のこと。

 ロクとノアールは互いに精神年齢が同じぐらいに低く、ふざけ合いながら帰るためこうして自分とアルガ、ロクとノアールという組に自然と分かれるため、マイはよくこうして振り返っては二人のじゃれ合いを眺めるのだ。だから、何となく察してしまった。

 ロクが、ノアールのことをその流砂に向かって突き飛ばそうとしているのに。


 そうなると、更に浮かぶのは先程アルガの言った「洞窟のモンスターは手強い」ということ。アルガがそう言うのならば、おそらくとんでもなく手強いのだろうとマイは思ってしまった。

 結果、マイは反射的に二人に向かって駆け出した。


「――待て! ロクっ」

「へっ? マイちゃん……」

「ノアール、危ないっ!!」

「へ、どっ、おわぁ!?」

「ええ!? マイちゃん!!」


 マイがノアールの名を呼んだその時には、マイの予想通りロクはノアールのことを流砂に向かって突き飛ばしたのだった。

 普段身丈ほどのハンマーを振り回しているロクの腕力は相当であるため、パーティで一番図体のでかいノアールといえどそのロクに突き飛ばされてはバランスを崩す。それを見越してマイは流砂に向かってぐらついたノアールの身体を支えようとしたが、それ以上にロクの突き飛ばした力の方が強かった。

 一緒になって倒れかけ、まさかマイが割り込んでくると思っていなかったロクは慌ててマイの身体にしがみついたが、結果、虚しく三人とも流砂の中に落ちたのだった。

 その間、ものの五秒ほどのこと。狩りも終わった直後で気が緩んでいた上、「村に帰ったらアレを食べよう」だなんて考えごともしていたものだから、アルガはそれに気が付かなかった。


「――まあ、モンスターが手強いと言うより……」


 話は続いている気持ちで、そこに居るだろうと思っていたマイに向かって、アルガはくるりと顔を向けながら言ったが、当然そこには誰もいない。


「…………あら?」


 気付いて、少し後ろに居るはずであるロクとノアールの方にまで目を向けて見たものの、やはり誰もいなかったため、アルガは「はあ〜……っ」と重々しくため息を吐いた。


「あの子……またやったわね……」


 アルガが独り呟いたのは、そんな言葉だった。

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