集会
皇紀2685年7月25日。
軍港の岸壁に、二つの水死体が打ち上げられた。
トメとヒトミ。
制服は破れ、身体中の骨が不自然に折れ曲がっていた。
検視官は他殺と断定したが、外傷も凶器も見つからなかった。
まるで、内側から砕かれたようだった。
二人の死は、帝国女学院に重く沈黙を落とした。
それから二週間後。
帝国女学院では、異例の緊急集会が開かれた。
講堂には全校生徒が集められ、壇上にはカイゼル髭の校長が立っていた。
彼は荘厳な口調で、トメとヒトミの死を悼む言葉を述べ始めた。
「彼女たちは、我が校の誇りであり、犠牲である。その魂は、帝国の礎となるであろう…」
その言葉が響く同刻。
理科準備室の奥、誰も入らない棚の中。
小さな水槽が、静かに揺れていた。
中には、脚を抱えて丸まった加賀美のホルマリン漬けの遺体。
目は閉じられ、髪は水中でゆらゆらと漂っている。
その身体から——音が鳴り始めた。
カチ。カチ。カチ。
骨が軋むような、乾いた音。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ——
音は加速し、部屋中に響き渡る。
そして——
ガシャ!
水槽のガラスが、内側から割れた。
ホルマリンが床に広がり、加賀美の身体がゆっくりと起き上がる。
目を開ける。
その瞳は、死んだはずのものではなかった。
講堂では、校長が追悼の言葉を続けていた。
だが、突然、彼の顔が苦悶に歪む。
目からは黄色い粘膜が流れる。
喉を押さえ、口を開けようとする。
だが、口は止まらない。開き続ける。
メキャ
メキャメキャメキャ
バリバリバリ——
骨が砕ける音。皮膚が裂ける音。
校長の口が、異常なほどに広がっていく。
その口から——
加賀美が、這い出てきた。
濡れた髪が顔に張り付き、腫れた頬が歪んでいる。
目は見開かれ、血管が浮き出ていた。
生徒たちは悲鳴を上げることもできず、ただその光景を見つめていた。
加賀美は、校長の体を引き裂きながら、壇上に。
そして、静かに言った。
「◯☓◯…………◯◯◯☓。」