表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水処刑  作者: こびき
3/4

水槽



気がつくと、そこは水の中だった。


冷たい。重い。息ができない。


トメは目を見開いた。


水の中で視界は歪み、光はぼんやりと揺れていた。


隣にはヒトミがいた。制服のスカートが水に翻り、彼女は必死にもがいていた。


泡が口元から漏れ、目は恐怖に見開かれている。


「ヒトミ…!」


声は出ない。水が喉を塞ぎ、肺を圧迫する。


足はどこにも届かない。底がない。


浮かび上がれない。


ガラス越しに見える天井。


——体育館。


水槽の中。


あの処刑の場所。


トメは必死に手を伸ばし、水槽のヘリを掴んだ。


指先が滑る。


何度も何度も、


爪がガラスを引っかく。


ようやく腕をかけ、体を引き上げる。


「ヒトミ!」


振り返ると、ヒトミの姿が水中に揺れていた。泡を吐きながら、沈みかけている。


トメは腕を伸ばし、ヒトミの手を掴む。


引っ張り上げようとしたその瞬間——



手に、何かが絡まった。


ゴワゴワとした、長い髪の毛。


水に濡れて、冷たく、粘り気がある。



指に絡みつき、離れない。




——加賀美の髪。




「うわああああ…!」




トメは叫んだ。

だが、声は水に吸い込まれ、泡となって消えた。



その時、足首に冷たい感触。




掴まれている。




水の中へ、引きずり込まれる。


トメはもがいた。


だが、力は異常だった。


水圧とは違う、肉体の重みと怨念が、彼女の身体を深く、深く沈めていく。






加賀美がいた。


水の中で、彼女は浮かんでいた。


顔中に血管が浮き出て、目は飛び出しそうに見開かれている。


唇は裂け、歯がむき出しになっていた。





その顔が、トメに迫る。


加賀美は、すごい力で抱きついてきた。腕が背中に回り、骨が軋むほど締めつけてくる。




そして——





耳の中に、舌が入り込んできた。


冷たい。ぬるぬるしている。


水と粘液が混ざり、鼓膜の奥まで侵食してくる。


トメは思わず、息をすべて吐き出してしまった。


泡が、口から、鼻から、目から、溢れ出す。


意識が遠のく。


その時——


ヒトミが、加賀美に向かってきた。


彼女の目は、恐怖ではなく怒りに満ちていた。


トメの腕を掴み、必死に引き離そうとする。




「離して…!トメは…もう関係ない!」


声にならない叫びが、水の中で泡となって弾ける。


加賀美はヒトミの顔を見た。



目が合った。加賀美の目が、さらに見開かれ、血管が破裂しそうに膨らむ。


そして——


ヒトミの腕に、加賀美の爪が食い込んだ。


血が、水に溶けて広がる。


ヒトミは痛みに顔を歪めながらも、トメを引き上げようとする。


加賀美は二人を抱きしめるように絡みつき、まるで水そのものが彼女の意志で動いているかのようだった。


水が、重くなる。


冷たくなる。


暗くなる。


トメとヒトミは、加賀美の腕の中で、沈んでいった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ