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エピローグ

 もはや君にこんなことを言う必要なんてないのかもしれないけど、と前置きしてから、フェネガンはこう言った。

「サイキックというのは基本的に普通の人間と変わらないし、ただ違うのは、普通の人だったら無視してすぐに忘れてしまうような、ふと頭に浮かんだ脈絡のないイメージとかそういったものを、きちんと受け止め、それに意味を見出すことをする、っていうトコだけだ」

 わたしは曖昧にうなずく。

 彼は続けた。

「だから当然、なにもかもを見通せるわけじゃないし、あらゆることの意味がわかるわけでもない。自分が予言したことだって、その時点ではそれが実際にはどういうものなのかはわかってない。ただ言葉だけが出てくるのさ、語られるべき言葉がね」

「はじめに言葉ありき」

 わたしは言った。

 彼は笑う。

「そのとおり。そして意味はあとから追いかけてくる。たとえば、今朝、僕が『ハワイなう』ってツイートしたとき、なんで自分がそれをツイートしようとしてるのか、わからなかった。普段はそんなこと呟かないのにね。その時点では、たまたまハワイに来ていた誰かさんがそのツイートを読んで僕に会いに来ることになるなんて考えてもみなかったんだよ、僕の予知能力をもってしてもね」

 わたしも笑った。そして目の前に広がるビーチを見やった。

 青い海に、白い砂浜。

 強い日差し。

 そこではわたしの妹と弟、それからフェネガンの息子がビーチボールで一緒に遊んでいる。

 この正月休み、わたしたち家族は互いの居住地の中間地点ともいえる此処ハワイで落ち合い、水入らずの休暇を過ごしてたのだ――姉さんは来なかったけど。それで、フェネガンの言ったとおりツイッターでわたしは彼もハワイに来ていることを知り、ちょいと足を延ばして会いに来たってワケ。そして今、フェネガンの滞在している高級リゾートのプライベートビーチで彼とわたしは小さなテーブルを挟んでる。そこにはチチ(パイナップルを使ったフローズンカクテル)のでっかなグラスがふたつ載っかってる。

「でも今になってみればわかる。僕たちがここで会う必要があるから、僕はあのツイートをしたんだ。こんなふうに物事の意味というのは、たいてい後になってからわかるものなんだ」

「わたしたちが会う必要がある? ただ会って話をしたかったというだけじゃダメなの?」

「会いたいのだったら連絡すればいいだけじゃないか。偶然に会えるってのは、それ以上の意味があるんだ」

「ふーん」

「僕に訊きたいことがあるんじゃないのかい?」

 その問いかけにわたしは戸惑う。たしかに訊きたいことは山ほどある。けど、なにをどう質問すればいいのやら。それすらわたしにはわかんない。でもわたしは口を開いた。

「意味は後になってわかる、ってことは、さ……、あなたがあのテロを予言したとき、あなたにはそれがどんな意味のものかわかってなかった、ってこと?」

「そうだ」

「今はその意味がわかる?」

「そうなんだ、特にあのツイートに関して僕は、とても不思議な感覚を持っていたんだ。前にも言ったと思うけど、僕は予言をするとき、それが当たるか当たらないのかは大体わかる。でも、あのツイートはちょっと違ったんだな。当たりそうな感覚はあったけど、いつもとは何かが違った。そこの説明は難しい。とにかく、何かが違ったんだ。今はそれが何故だったのかわかる」

 フェネガンはそこでわたしの目を意味ありげに見つめた。それから続ける。

「あの予言は、僕がそうツイートしたが故に現実となった。そこが普段と違うところだったんだ」

「え? それはいったいどういうこと?」

「原因と結果がいつもとは逆だった、ってことさ。ま、原因と結果なんてニワトリとタマゴみたいなもので、どちらがどっちかなんて曖昧なモノなんだけど」

「わからないわ」

「つまりだね、あのツイートを読んだ〝誰か〟が、それを利用したんだ。あのツイートの内容をなぞるように実際にテロを起こした、ってワケ」

「それが某国の諜報機関だった。そうなのね」

 フェネガンはうなずいた。

「そう。彼らは君と僕が一緒に仕事したことを知って、その状況を利用したんだ。僕が君からテロの予兆を嗅ぎ取ったってコトにして、それを第一の証拠にしようと考えた。そして君らの犯行に見せかけてテロを実行したんだ。他にも組織的犯行に見せかける様々の証拠が用意されていたのさ、日の目を見なかったワケだけども。彼らにとって誤算だったのは、日本の警察が予想外に早い段階で君を見つけてしまったことだよ。二回の凄惨なテロを起こして君たちにはもう言い逃れようのないところまで証拠をでっちあげておいてから日本の警察に情報を流すはずだったんだ。なのに岸田サンの番組のおかげでそのシナリオが崩れてしまった。それでも計画は続行されたんだけども、状況を理解しはじめていた君に察知されることになったワケだね」

「なるほどね……。でも、どうしてあなたには物事の詳細がわかってしまうワケ? それもあなたのリモートビューイングで視えたものなの?」

「ハハハ、そんなことはないさ。リモートビューイングでそこまで詳細が視えてしまうんなら苦労はないよ。いや、僕にはFBIをはじめとして各方面に友達がいるからね、皆がいろんな情報を教えてくれるんだ。ま、それらの情報はごく断片的なものにすぎないんだけど、僕のところには何故だか必要な情報がうまい具合に集まってくるんだ。そういう星まわりみたいなものかな。そしてまさに、君がここに来て、その後の君に起きたことを僕に教えてくれた結果、ようやく僕にはこの一件の全体像が見えたってワケ。そしてたった今わかったその内容を君に説明したんだよ」

「ふーん……」

「思うに、これをシェアするためにこそ、僕らは今ここで再会したんじゃないかな」

「そうかもね」

「そうさ、間違いない――。ところで君は今回、某国に対して勝利を収めたわけだけれども、困ったことにどの国の諜報機関も大抵、諦めというものが悪いんだな。おそらく次には手を変えて君らを攻撃してくると思う。だから油断しちゃいけない。けど、心配しすぎてもいけない。僕からのアドバイスはただひとつ、君に必要な情報は常に君のもとにもたらされる、だから君はそれらに耳を傾けてさえいればいいのさ、ってコトだ」

「オーケー、わかった。うん、大丈夫だと思う。なぜだか大丈夫な気がする」

「そのとおりだ。僕も心配はしていない。きっと君はうまくやれる」

 わたしはうなずいた。

 フェネガンがビーチに目を向けたので、つられてわたしもそっちを見た。

「君の妹さんはスゴいな。ものすごいパワーを感じるよ。きっと将来はひとかどの人物になるだろう」

「へえ、そうなの? それはあなたの予言?」

「そうだ。ローランド・フェネガンの決して外れることのない予言だ」

 わたしに見えたのは、妹と弟、それからフェネガンの息子が、ただ楽しそうに遊んでいるだけの光景だったけれども。


 ハワイではもうひとつの思いがけない再会があったことも付け加えておかなきゃ、ね。それはわたしがショッピングセンターで買い物をしてたときのこと。突然、背後から日本語で「榎本さん?」って声をかけられた。

 わたしは声の主のほうを振り向いた。

「こんにちは」

 笑顔でそう言ったのは、あのTV番組の取材で一緒だった音声助手の女の子だった。

 予想外の再会に興奮したわたしたちは、センター内のカフェテリアでお茶することとなった。

「休暇なの?」

 そうわたしが尋ねると、彼女は「まさかぁ」って返した。

「ワイドショーの取材。ウフフ。知らない? 正月にハワイに来てる芸能人を突撃取材すんのよ。なにが面白いのかワカンナイけど、なぜか恒例行事なのよね」

「へえ」

 ときどき日本人らしき人物がテレビカメラを向けられてるのを見かけるけど、あれはそういうものだったのか。

「それにしても、よくわたしのこと、気づいたね」とわたしは言った。

「へへ、ちょうどツイッター見てたら、タイムラインにフェネガンのツイートが流れてきたから」

 彼女はスマホを操作して、その画面を見せてくれた。

 それはフェネガンとわたしが並んで写っているビーチサイドの写真だ。フェネガンの息子が撮ってくれたヤツ。

「これ見てさ、ああ、榎本さんもフェネガンもハワイに来てんだぁ、って思ってたのよ」

「なるほどぉ」

「そういやさ、結局、第二のテロは起こんないね。まだこれからなのかな?」

 どう返そうかな、ってわたしは迷ったけど、それも一瞬だけ。

「いや、もうその未来は回避されたらしいよ、フェネガンによると」

 それを聞いた彼女はパッと笑顔になった。

「へえ、そうなんだ。なんでだろ。まあ、でも、よかった。けどさ、それにしてもあの犯人、まだ捕まんないのね。せっかくフェネガンが探し出したのにさ」

 わたしは顔をしかめた。もちろん真犯人は別にいて、すでに捕まったワケではあるけれど、あの溝の口駅前での捕物劇のあと犯人がどうなったのかなんて話はなにひとつ伝わってこなかったし、警察からも一切の情報が公表されていない。相手が相手だけに、そうならざるえないモノなのかもしれない。ワタシごときが知り得るようなもんじゃないんだろうな、とは思う。ま、わたしとしては家の前に黒のセダンが停まらなくなったってだけで御の字ってヤツよね。

「そうよねえ……。でも、番組自体は成功だったんでしょう?」わたしはさりげなく話題をスリ替えた。

「うん、予想以上に視聴率がいったんで、岸田Pの鼻も高くなったわ――あ、そうそう。オンエアのあと、榎本さんについての問い合わせが局に殺到したのよ」

「え~、なにそれ」

「んんー、殺到は言いすぎかな。でも、かなりの数あったのは事実。あの通訳の娘をもっと映せ、みたいなクレームとか、どんなヒトなのか教えてください、だとか。それからファンレターまで来たらしいよ、聞いたところによると」

「うっそぉ」思わずそう反応しちゃう。

「ホントだってばぁ」

 彼女は笑いながら返す。それからウンウンとうなずきながら続ける。

「だから次に『霊能力捜査官』をやるときも、絶対、声がかかるんじゃないかな」

「それはありがたい話ねぇ……」

 他に返しようがない。


 さて、このあたりで一旦、わたしの物語を終わりにさせてもらおっかな。気のきいた終わり方じゃないけど、ま、そんなもんでしょ? 結局のところこれはまだ始まりにすぎないんだし、この先にどんな出来事が待ってるのかなんて、到底、想像もつかないワケ、わたしの予知能力をもってしても、ね。


(了)

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