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番組収録、そしてオンエア

 アースウェイブが海外でどういうウケ方をしてるか知らなかったワケじゃない。ただ、国内では「健全」な売り方をしてゆく方針だったし、実際アースウェイブは健全なものなの。それもあって、わたしはスピリチュアル界隈のことを見ないようにしてた、って側面はあったろうな。まして自分自身にそっち方面の影響が出てくるなんて考えたこともなかった。

 いや、偏見を持ってはイケナイ。これだって「健全」な変化じゃないか。悪い方に変化したワケじゃない。人の役にたつ機会がたくさんわたしに訪れるようになったってだけ(本当に役にたってるかどうかは別だが)だ。悪いことはなにひとつない。

 それを証明すべく、努力してわたしは睡眠サイクルを元に戻した。それが今のところ唯一の悪い変化だったから。その結果、朝すっきりと目覚めることができるようになったし、お肌の具合も良い。

 あいかわらず外に出るとなにがしかの変わった事象に遭遇するけど、以前より落ち着いてきた気もしないでもない。

 けど、もう気にしないことにした。どうせなるようにしかならないし。無理に目を背けるのは「健全」じゃないよね。かといって積極的に受け入れるって態度をとってるワケでもない。ただありのままに、ってカンジかな。レリゴ~、レリゴ~、ってか。

 そんなこんなで月日が経ち、フェネガンの番組のその後の収録もあったりした。結局彼は再来日せず、日本のスタジオでの収録はUSからの中継で参加する形になった。

 収録当日、わたしは司会の局アナのすぐとなりでフェネガンの通訳を担当した。オンエアの際にはフェネガンのセリフは吹き替えになるそうなので、わたしがその場で訳したものは電波には乗らないって言われたけど、そんなことはどうでもよかった。わたしはただ、モニターの向こう側にいるフェネガンに今のわたしの状況について質問を投げかけたかった。もちろんスタジオではそんな機会はなかった。ま、ホントに相談したいのであれば別にいつでもメールとかできるワケで、わたしがそれをしないのはそれほど差し迫ってフェネガンに相談したいと思ってるわけじゃないからだ。ただ、それなりに世間話もできる間柄になったのに、お互いスタジオでモニター越しに相手を見ながら気軽には話もできない状況ってのがちょっと不思議なカンジ、つうか。

 収録中、わたしはモニターばかりを見てた。なぜかそこから目を離すことができなかった。フェネガンを見てたって意味じゃなく。どっちかっつうと、そこに映ってる自分を見てた。生では滅多にお目にかかれない芸能人がまわりに何人もいたのにね。あんまりそっちに関心がいかなかった。

 カメラがわたし個人に向けられることは当然なかったんだけど、一度だけ例外があって、それは現場検証でフェネガンが埼京線の電車のなかで火災発生時の出来事を時系列に説明してる途中でわたしが叫んで倒れてしまった映像が流れたとき。スタジオのカメラはわたしの顔を正面から写した。

 そのあとで司会者はわたしに尋ねた。

「このとき、通訳の榎本さんはフェネガンの透視した事件当時のヴィジョンを受け取ってしまった、ということなんですよね。私たちにはなかなかそういった際の感覚というものが理解できないんですが、どうでしたか。実際にそういうものを体験してみて」

「ええ、そうですね――。まさに今おっしゃられたとおりだと思うのですけど、体験した人にしかわからない、としか言いようがないですね。本当に怖かったです。まさに事件の起きている最中の光景が見えたんです。現実のように」

 わたしはそう答えた。ハイ、事前に渡された台本のとおりデス。

「榎本さんの受け取ったヴィジョンでは、今回お亡くなりになられた○○さんが炎につつまれた姿が見えたということですが、先ほどの映像のなかで榎本さんが語っておられたヴィジョン内での○○さんの特徴がこちらになります」

 司会者はフリップを構えてみせた。そこにはあの戸田公園駅のホームベンチでわたしの語った内容がリストされてる。

「番組で検証したところ、なんと、これらの特徴はすべて○○さんご本人と一致しておりました。もちろん○○さんの事件当時の詳細については一切報道されておりませんでしたので、榎本さんが事前にそれを知る機会はなかったワケです」

 スタジオのゲストらが感嘆の声をあげた。わたしの耳にはシラジラしく聞こえたけど。

 そして話はどんどんと進み、フェネガンのリモートビューイングにより都内某所のアパートの一室に出入りしている怪しい集団に行き着き、その代表らしき人物に突撃インタビューする模様がモニターに映し出される。

 モザイクをかけられた男の、

「私たちがしかるべき成果をあげ、それを世に問う準備が整った時です」

というセリフが加工された音声で流れた。視聴者にはこれをテロリストの遠大なる犯行の予告と思わせるワケだ。実際にはベンチャービジネスに夢をかける青年らの想いのこもった主張だったわけだけど。

 それから話題はフェネガンの予言ツイートに回帰する。最初の事件は序章であって次に起きるのがメインだ、ってヤツ。そのこととさっきの「犯行予告」が重ね合わされる演出。

 司会者がフェネガンに尋ねた。

「失礼な聞き方になってしまうかもしれませんが、この予言は間違いのないものなのでしょうか。フェネガンさんは確実に第二のテロが起きるとお考えですか?」

 それに対し、フェネガンはこう答える。

「私はいつもこのように答えます――変えられない未来はありません。常に希望はあります。この番組をご覧の皆さんの、ほんの少しの心がけ次第で、未来は常に変わりうるのです。どうかそのことを忘れないでください」

 最後に深刻そうな顔つきでタレントたちが感想を述べ合って、収録はオシマイ。

 ああ、やれやれ。とんだ茶番に付き合わされたってヤツ? これがフェネガン流ビジネスってか。ま、勉強にはなった、かなぁ……。

 松下隆志の件がフェネガンに都合よく利用されただけってことはわたしのなかではすでに確信となっていた。わたしがフェネガンにメールしたときに隆志の件を予言ツイートと絡めたことがきっかけになったんだろうと考えると、わたしにも今の状況となった責任はあると言えるのかも。ま、隆志らあのアパートの若者たちはこんな番組を観るヒマなんてないだろうし、玲奈さんは観るだろうけど、モザイクがかかってるからまさかそのアパートが自分の訪れた場所だとは気付くまい。

 それはさておき、隆志の件が関係ない以上、テロの真犯人を探る手がかりはゼロ。こんな番組をオンエアして警察の捜査のジャマをすることになっちゃわないか心配だな。

 メインとなる次のテロが起きるというフェネガンの予言、それが「当たる予言」なのかそうでないのか、フェネガン本人に尋ねてみたい気もする。けど、それを訊いたところで彼は「本当のこと」ではなく「言われるべきこと」を返してくるだけなのだろう。

 わたしがいるトコは中間地点で、そこから先はフェネガンはわたしの力になれない、と言った。わたし自身の力で進まねばならない、と。

 うーん、わたしには自分がどっちの方向に進めばいいのかすら、まったく見当もつかないのだけど……。


 番組がオンエアされたのは、テロ事件の発生からちょうどひと月ほどが過ぎたころだった。この種のものとしては早いタイミングなのかな、知らんけど。でも、世間ではもうあの事件のことはなんの話題にもなっていなかった。

 わたしは居間のテレビで姉さんと一緒にオンエアを観た。

 〝謎の女性ライダー〟に取材スタッフが威嚇される場面になると、

「あ、映った、映った。あれ、ワタシ、ワタシ」

と、姉さんは缶ビール片手にはしゃいだ。

「ほんの一瞬だったな」

「よかったね」

 わたしは棒読みで返してあげたけど、姉さんが意に介す様子はなかった。

「盛り上げてあげたんだから出演料もらってもいいよね」

「それじゃあヤラセになっちゃうじゃない」

「んなこと言ったら、この番組自体、どうなんよ。なんの関係もない若者たちをあたかもテロリスト集団みたいに演出しよう、ってんでしょ」

 確かにそのとおり。当然わたしはなにも言い返さない。別に番組の味方をするつもりないし。

 ふと思った。あのときフェネガンは隆志の居場所を見つけることはできたワケだけど、真犯人の行方はわからなかったということになる。それがなんでかと考えたとき、フェネガンがロケ車のなかでわたしに言った「兄弟はいいものだ、どんなに離れていてもそこには繋がりが感じられる」ってセリフを思い出した。あのとき、隆志の居場所を知ってたのは、隆志本人つまり玲奈さんの弟と、わたしの姉さん。どちらもフェネガンと接触のあった人物の兄弟なワケ。そういう繋がりがあったからフェネガンは隆志の居場所を特定できたんじゃないかなぁ、って。そういやリーディングのときに対象者の愛用品を手に持つのも、なにがしかの繋がりが必要だ、ってことでしょ?

 とにかく、あのときのフェネガンにとって自分にできる範囲で最大限に番組を盛り上げることをやった結果がアレだった、ってワケだ。ああゆうことをいともナチュラルにやってしまうあたりが彼がサイキックとしてナンバーワンになり得た才覚というヤツなんだろうなぁ。別にわたしはそれが悪いことだとは思わない。むしろすごい才能だと思う。それはそれで尊敬に値するモノでしょ。

 オンエアの内容については、特に感想のようなのはなかった。あえて言えば、どうせヒドい内容だろうなと思ってたとおりだった、くらいかな。

 これで区切りもついたし、この件についてはもう忘れよう、って考えてた。この件の中心にわたしがいるなどというフェネガンの発言を真に受ける義理があるわけでもなし、ましてや第二のテロが起きるなんて、たとえその予言がホントであるとしても、自分になにかができるだなんて思えない。そんなことより、我が身に起きている変化がいまだに自分を戸惑わせてて、なによりも平穏な日常にわたしは飢えていた。

 けれども、この翌日、物事というのは決して期待したようには進まないモノなんだってことをわたしは思い知らされるハメになるのだ。

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