第49話 リス、発見!!
改めてそう聞かれるとちょっと難しいが、リスの生態を真似ているのだから。
「上の方だな」
「うえ?」
「そう。リスは、高いところがあれば大体登ってる。さっき南の木のところにいた動物たちの中でもリスは、特に体が小さかっただろう? 体が小さい分、木の上の方が他の動物たちよりも素早く自由に動けるからな。もし喧嘩しても、そっちにいた方が強い」
リスが本気で何かに追われる時、本当は喧嘩などという可愛いものではないのだが、そんな世知辛い事なんて、今教える必要はないだろう。
たとえいずれは知る事だとしても、生き物の生き死にに関する事は、きちんとした状況で教えたい。
「だから見るのは、木の上だな。たとえばあの木の枝とか、そっちの木の枝とか。どんぐりの実がなっている木は特に」
「あっ! あった!」
「え、リスいたか?!」
「ううん、どんぐり!」
「どんぐりか……」
大げさな、と言いたいところだが、エレンがものすごくキラキラとした目で言ってくるので、言うに言えない。
「あっ! こんにちは! エレンはエレン! メェ君はメェ君で、ぷぅちゃんはぷぅちゃんだよ! あなたは?」
「ん?」
今度は誰かを見つけたらしい。
しかしこんな場所に来るなんて、かなりの変わり者だな……と思いながら視線を移し、エレンの見ている方を俺も見た。
「って、エレンそれ探してたリス!」
「え?」
思わず叫んでしまったのは、正に言葉通りの理由なのだが、エレンが話しかけていた相手がどう見ても木彫りだったからだ。
俺の言葉に驚いたのか、件のリスがタッと走り出した。
木の枝を伝って、別の木の枝へ。
小さい体で本物のリスよろしく、身軽に飛び移り逃げていく。
「保護に時間が掛かればかかるほど、リスが欠損するリスクが上がる!」
「えっ! イーレさんのたいせつなりすさんなのに?!」
慌てて地上から後を追うけど、足元の草木が邪魔をして、思うように追う事ができない。
その苛立ちが俺にさせた『大声で焦る』という非生産的な行動に、エレンが悲痛の声を上げた。
瞬間。
「ぷぅっ!」
「めぇーっ!!」
エレンの声に呼応するように、俺のすぐ横をメェ君が走り抜け、ぷぅちゃんが飛び抜けた。
しかし相手も移動する。
すばしっこいリスを捕まえる事は簡単ではない。
たとえリスを模していても、相手は魔道具。
どこかに嵌め込まれた魔石の分だけしか動かない代わりに、それが尽きるまでは疲労を知らない。
あとどれだけ動くか分からない相手に、生身の俺らでは分が悪い。
――何か追いつける策でもあれば。
俺がそう思った時だった。
「ぷぅぷぷぷぅ!」
ぷぅちゃんが飛ぶ軌道を変えながら、何やら大きな鳴き声を上げる。
バサバサという羽音が聞こえた。
ぷぅちゃんは、羽根こそあるが空を飛ぶ能力は『特性』任せ。
羽ばたいて飛んでいる訳ではない。
ならば一体何の音なのか。
そう思った時にはもうリスの前に、三羽の鳩が立ちはだかっていた。
鳩たちが、リスの進路でバサバサと羽ばたく。
奇襲を仕掛けたようにも見えたし、牽制しているようにも見えた。
リスは危害を加えられる前に、方向転換を余儀なくされる。
リスが変えた進路の先には、ちょうどぷぅちゃんが向かっていた。
ぷぅちゃんが加速する。
その姿は、いつも俺に加えていた頭突きを明らかにかましに向かう構えだ。
「当たればリスが壊れる! 避けろ!!」
咄嗟に張り上げた俺の声に、ぷぅちゃんは当初の主人の願いを思い出したのか、慌てて回避行動を取る。
お陰で直撃は免れたが、その風圧に押されてか、それとも少し当たったのか、枝の上でバランスを崩す。
当たり前だが、リスは空を飛ぶ事ができない。
足を滑らせたリスの行く先は、重力に引っ張られて地面だ。
途中で体をうまく捻って無事に着地してもいいようなものだが、件のリスは背中から落ちた。
体を捻る様子もない。
このままいけば、地面に激突して破損……という未来が訪れる。
「めぇーーっ!」
ズサーッという音と共に、メェ君が地面とリスの間に無理やり体をねじ込んだ。
リスが、メェ君の背中にモフッと受け止められる。
自らの成功を悟った羊が、ホッとしたように脱力する。
しかしその背中でモゾッとリスが動いたのを、俺は見逃さなかった。
「メェ君! そのリス、ちゃんと『沼』で捕まえといてくれ!」
「めっ?!」
リスがピョコッと起き上がったのと、俺の声にメェ君が慌てたのがほぼ同時。
やばい、と思った。
間に合わない、と。




