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元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜  作者: 野菜ばたけ
第四章:スキル相談室に仕事が来ました

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第49話 リス、発見!!



 改めてそう聞かれるとちょっと難しいが、リスの生態を真似ているのだから。


「上の方だな」

「うえ?」

「そう。リスは、高いところがあれば大体登ってる。さっき南の木のところにいた動物たちの中でもリスは、特に体が小さかっただろう? 体が小さい分、木の上の方が他の動物たちよりも素早く自由に動けるからな。もし喧嘩しても、そっちにいた方が強い」


 リスが本気で何かに追われる時、本当は喧嘩などという可愛いものではないのだが、そんな世知辛い事なんて、今教える必要はないだろう。

 たとえいずれは知る事だとしても、生き物の生き死にに関する事は、きちんとした状況で教えたい。


「だから見るのは、木の上だな。たとえばあの木の枝とか、そっちの木の枝とか。どんぐりの実がなっている木は特に」

「あっ! あった!」

「え、リスいたか?!」

「ううん、どんぐり!」

「どんぐりか……」


 大げさな、と言いたいところだが、エレンがものすごくキラキラとした目で言ってくるので、言うに言えない。


「あっ! こんにちは! エレンはエレン! メェ君はメェ君で、ぷぅちゃんはぷぅちゃんだよ! あなたは?」

「ん?」


 今度は誰かを見つけたらしい。

 しかしこんな場所に来るなんて、かなりの変わり者だな……と思いながら視線を移し、エレンの見ている方を俺も見た。


「って、エレンそれ探してたリス!」

「え?」


 思わず叫んでしまったのは、正に言葉通りの理由なのだが、エレンが話しかけていた相手がどう見ても木彫りだったからだ。



 俺の言葉に驚いたのか、件のリスがタッと走り出した。


 木の枝を伝って、別の木の枝へ。

 小さい体で本物のリスよろしく、身軽に飛び移り逃げていく。


「保護に時間が掛かればかかるほど、リスが欠損するリスクが上がる!」

「えっ! イーレさんのたいせつなりすさんなのに?!」


 慌てて地上から後を追うけど、足元の草木が邪魔をして、思うように追う事ができない。

 その苛立ちが俺にさせた『大声で焦る』という非生産的な行動に、エレンが悲痛の声を上げた。


 瞬間。


「ぷぅっ!」

「めぇーっ!!」


 エレンの声に呼応するように、俺のすぐ横をメェ君が走り抜け、ぷぅちゃんが飛び抜けた。


 しかし相手も移動する。

 すばしっこいリスを捕まえる事は簡単ではない。


 たとえリスを模していても、相手は魔道具。

 どこかに嵌め込まれた魔石の分だけしか動かない代わりに、それが尽きるまでは疲労を知らない。


 あとどれだけ動くか分からない相手に、生身の俺らでは分が悪い。

 ――何か追いつける策でもあれば。

 俺がそう思った時だった。

 

「ぷぅぷぷぷぅ!」


 ぷぅちゃんが飛ぶ軌道を変えながら、何やら大きな鳴き声を上げる。



 バサバサという羽音が聞こえた。


 ぷぅちゃんは、羽根こそあるが空を飛ぶ能力は『特性』任せ。

 羽ばたいて飛んでいる訳ではない。

 ならば一体何の音なのか。

 そう思った時にはもうリスの前に、三羽の鳩が立ちはだかっていた。



 鳩たちが、リスの進路でバサバサと羽ばたく。


 奇襲を仕掛けたようにも見えたし、牽制しているようにも見えた。

 リスは危害を加えられる前に、方向転換を余儀なくされる。


 リスが変えた進路の先には、ちょうどぷぅちゃんが向かっていた。


 ぷぅちゃんが加速する。

 その姿は、いつも俺に加えていた頭突きを明らかにかましに向かう構えだ。


「当たればリスが壊れる! 避けろ!!」


 咄嗟に張り上げた俺の声に、ぷぅちゃんは当初の主人の願いを思い出したのか、慌てて回避行動を取る。 


 お陰で直撃は免れたが、その風圧に押されてか、それとも少し当たったのか、枝の上でバランスを崩す。


 当たり前だが、リスは空を飛ぶ事ができない。

 足を滑らせたリスの行く先は、重力に引っ張られて地面だ。


 途中で体をうまく捻って無事に着地してもいいようなものだが、件のリスは背中から落ちた。

 体を捻る様子もない。

 このままいけば、地面に激突して破損……という未来が訪れる。


「めぇーーっ!」


 ズサーッという音と共に、メェ君が地面とリスの間に無理やり体をねじ込んだ。


 リスが、メェ君の背中にモフッと受け止められる。

 自らの成功を悟った羊が、ホッとしたように脱力する。


 しかしその背中でモゾッとリスが動いたのを、俺は見逃さなかった。


「メェ君! そのリス、ちゃんと『沼』で捕まえといてくれ!」

「めっ?!」


 リスがピョコッと起き上がったのと、俺の声にメェ君が慌てたのがほぼ同時。


 やばい、と思った。

 間に合わない、と。





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