第47話 エレンの聞き込み調査
原っぱになっている小さな広場の外円をグルリと回りながら、眠っている動物たちを見る。
探すのは木彫りのリス。
幾ら魔道具で本物のリスの行動を模倣しようとも、流石に木彫りと本物は、見た目で十分見分けがつく。
ここにいれば分かる筈……なのだが。
「いないね、りすさん」
「そうだな、いない」
リスはたくさんいる。
が、探しているリスは、見つからない。
「スレイ……」
「そんな心配そうな顔をしなくていいよ。そもそも『ここで見つかれば楽だなぁ』くらいの気持ちだったし」
一つ目の当てで見つかれば、それはかなり運がいい。
探しものというのは本来、なかなか見つからないから「探してほしい」とお願いされるのだ。
時間と労力がかかるのは、当たり前。
「歩いてくるまでに話を聞いて幾つか他にも候補はあるし、今日はみんなで『動物たちの休憩所探し』の町探検だな」
「まち、たんけん!」
エレンの表情がパーッと華やぎ、メェ君が「めめめめ!」と目を輝かせる。
「メェ君のおひるねばしょも、みつかるといいね!」
「めぇめっ」
「え? エレンもいっしょにおひるね? うんいいよ!」
楽しそうに話す二匹を眺めていると、その上をふよふよと飛んでいるペンギンが目に入った。
「お前はいいのか? 話に加わらなくて」
同じ召喚動物なのに、彼女たちの輪に入っていない事が少し気になった。
『召喚師』スキルに召喚した動物の主従を押し付けるような効果はないにしても、これまでのぷぅちゃんの様子を見るに、エレンの事は好いているのだろう。
なのに、メェ君のようにいつも隣にいる訳ではない。
まぁそれは、同じく主人を好いていても個体差があるのだろう……とは思うが、それにしてはエレンとメェ君が仲良くしているのを見る、ぷぅちゃんの目が不満げだ。
だから、もしかして本当は仲良くしたい、あの輪に自分も入りたいのではないかと思ったのだ。
「エレンは気が付いていないみたいだし、お前から行動しないといつまで経っても輪には入れないぞ?」
「……ぷぅ。ぷぷぅぷ!」
「え? 分かんないよ、エレンじゃないんだし」
「ぷっ!」
「いてっ!」
素直に言っただけなのに、顎にいつもの頭突きを食らった。
言葉が分からなくても分かる。
今のは絶対に八つ当たりだ。
「素直じゃないというか、何というか……」
目が合えば、頭突き。
何か言われれば、また頭突き。
訴えたい事があるとすぐに頭突きに出てくる、ペンギン。
それが『ぷぅちゃん』という個体だ。
エレンはもちろん、別にメェ君の事も嫌っているふうではないのに、あの二人が揃った空間に自分も入っていくのには気が引けているように、俺には見える。
あとは……あぁ、そうだ。
カモメのライバルがいて、そいつを超えるカリスマを欲しがっている。
現時点でぷぅちゃんについて俺が知っている事は、おそらくそれくらいだろう。
そういえば、その情報を知った時点で、こいつの負けず嫌い……というか、他者に対する対抗意識が野望に変わるタイプの個体だという事は分かっていた。
王城で、色々なタイプの人間と付き合ってきた。
別に好きで付き合ってきた訳ではなく、そのほぼすべてが仕事上仕方がなくであり、結果的にお偉いさんへの対処がうまくいかずに、目を付けられてクビになった身だが、それでも対人経験はそれなりにある。
相手が動物であるという事を度外視すれば、ぷぅちゃんのようなタイプの相手に相対した事は何度かある。
こういうタイプはどちらかというと、扱いやすい部類だろう。
ぷぅちゃんは動物だが、動物にしては感情表現がある意味豊かな個体である。
なら、過去の依頼人たちと同じように、うまく乗せる事もできるのでは――?
「俺はエレンともメェ君とも仲良しだから、あの二人の輪に入れるけど」
そう言って、わざとらしくぷぅちゃんにニヤリと笑った。
「お前には無理かぁ。残念だなぁ」
子ペンギン相手に大人げないなと内心では少々苦笑しながら、ぷぅちゃんをあからさまに挑発する。
「ぷぅぷぷぷっ!」
「だから、何言っているか分からないって。おっと」
おそらく抗議をしたのだろうが、伝わらなかったので行動に出た。
大体そういうところなのだろう。
また顎を狙ってきたぷぅちゃんの頭を、今度はパシッと受け止める。
無事に彼女の頭突きを防ぎ、「いつどこに来るか分かっているお前の攻撃なら、俺でも捕まえられるぞ」と笑う。
重量級とか、目に見えない程動きが早いとかなら未だしも、相手は子ペンギン。
質量もなければ、速さも目で追えるのだから、俺でも捕まえられるのは道理だ。
初めて防がれて、怒ったのか。
ぷぅちゃんが「ぷぅぷぅ」と騒がしく鳴く。
俺に攻撃しに行くのではなく、エレンたちのところに行けばいいのに。
失敗した思惑に苦笑していると、背景にエレンが日向ぼっこ中だった動物たちの傍にしゃがんでいるのを見つけた。
彼女はスクッと立ち上がると、テテテッと小走りで向かってくる。
「スレイ、あのね! みんなとちょっとちがうりすさん、たまにここにくるけど、きょうはいないって!」
「え? ……もしかして、聞いてみたのか?」
「うん! ききこみちょうさ!」
スレイの真似した! と、エレンは笑う。
さっき教えて実践して見せたばかりなのに、本当に子どもの成長は早い。
どちらにせよ、どうやら動くリスの置物を目撃した様子の動物たちに話が聞けるのなら、情報の確度も上がるというものだ。
「そのリス、他にはどこで見た事があるか、ためしに聞いてみてくれないか?」
「うんいいよ!」
そう言ってまたテテテッと走っていったエレンの後に続くと、ちょうど彼女が動物たちに尋ねている声が聞こえてくる。
「いりうすがーでん?」
「わん、わふっ」
「にゃー」
「えー? あはは!」
何やらよく分からないが、ものすごく会話が弾んでいるらしい。