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第45話 多分魔道具は“逃げて”いる


「なくなった?」

「はい。この魔道具は、半年前に亡くなった父が趣味で集めていたものです。私は父の死後も売らずに、たまに部屋の喚起をするくらいしかここには出入りしていなかったのですが」


 彼女がスッと指をさした。

 等間隔で整然と棚に並べられた魔道具の中、一か所だけちょうど物が一つ置ける程の空間がある場所だ。


 その空間には最初から気が付いていた。

 てっきり新しい魔道具を置くために空けているか、用があって持ち出している魔道具があるのかと思っていたが。


「あそこに置いていた魔道具が、なくなった?」

「はい。喚起で開けた窓を閉めに来たら、いつの間にかなくなっていて。ドラドさんに来てもらったところ、人が入ってきたりスキルを使ったような形跡はなかったので」


 なるほど。

 それで『盗難』ではなく、『紛失』だと。


 たしかにドラドのスキル階層なら、部屋そのものを鑑定すれば侵入者の有無くらい簡単に分かるだろう。

 あいつのスキルはそれ程強い。



 しかし、基本的に物が勝手に紛失する事もない。

 人為的なものではないとすると、あと疑うべきは魔道具の効果だが。


「ちなみにどのような魔道具だったのですか?」

「用途はよく分からないんです。手のひらサイズの、ただの木彫りのリスで」

「りすさん!」


 エレンが嬉しそうに声を上げた。


「りすさんは、どんぐりの実がだいすきなんだよ!」

「エレンは見た事があるのか? リス」

「まえのところに、いっぱいいた!」


 それはまた随分と森に近かったんだな、エレンの前の住処だった場所は。


「りすさんなら、あの窓からも逃げられるよ!」

「そのリスは本物じゃなくて置物だから、流石にそれはないと思うけど」


 窓を指さしながら言ったエレンに、イーレさんが微笑ましげに笑う。


 おそらく「可愛らしい事を言うな」なんて考えたのだと思うけど。


「いや、当たりかもしれません」

「え?」


 意外といい線を行っているかもしれない。

 そう思った俺の呟きに、イーレさんが驚いた。



 子どもは未だしも大の大人が木彫りのリスが逃げるだなんて、何を夢見がちなと思うのが普通の感覚だ。


 しかし相手は、魔道具である。


「魔道具に持たせた機能にもよるのですが、何かの似姿として作り上げられた魔道具は、たまに独りでに動くものもあったりします」


 実際に、過去にそういう魔道具と出会った事がある。


 その時は蛇の魔道具で、ネズミ駆除の機能を持たせたところ、ニョロニョロと動き出してしまった。

 城下でそれが徘徊しちょっとした騒ぎになったので、王都の憲兵隊経由で依頼が来て、捕まえるために俺が駆り出されたのである。


「生き物を模して作った場合は、元にした動物の性質を引き継ぎ、模倣した行動をとる事もありますから、『何かの拍子に起動して、開いていた窓から外に逃げた』という事は十分にあり得るでしょう。ほら、ちょうど外には木があるし」

「あっ……」


 先ほどエレンが指さした窓の向こうには、太めの木の枝が見えている。

 そこを伝って逃げたとすれば、落ちて壊れるような事もなく現在進行形で元気に逃亡……なんていう事も十分あり得る。


「あれはお父さんが生前とても気に入って、ことある事に磨いていたくらい大切にしていたものなのに、逃げただなんて、どうすれば」


 イーレさんが、口に手を当ててそう言った。


 魔道具はどれもそれなりに高価だけど、それ以上に『父親の大切にしていた物』というところに彼女の認識の比重はあるらしい。


 探したい。

 しかし大々的に探したりすれば、もし見つけられたとしてもこの家に魔道具がある事が周りにバレてしまう。


 ここは普通の服屋の二階だ。

 盗賊も簡単に侵入できる。

 結局盗まれてしまうだろう。



 だから、周りにそうと気付かれないように取り戻さなければならない。

 彼女は「それは無理だ」と思って、絶望感を抱いているのだろう。


 しかし、だからこそドラドは俺にこの話を持ち掛けるように言ったのだ。

 俺にならそれが、できるから。


「スレイ! エレン、イーレさんのおとうさんのりすさん、さがしたい! おとうさんのものはだいじだし、イーレさんもこまってるもん!!」


 胸の前で両手を握り、エレンが強く主張してくる。


 隣ではメェ君が「めぇ!」と鳴き、ぷぅちゃんも「ぷっ」と鳴いている。

 両者もやる気があるようだ。



 俺としても、助けを求めてきた人の手を取るのが『スキル相談室』の存在意義だと思っている。


 依頼内容は選ばない。

 いつでも俺は困っている人の味方でありたいと思っているのだから。



 エレンの頭を優しく撫でて、イーレさんに再び向き直った。

 不安そうな彼女に向かって、微笑み交じりにしっかりと頷く。


「安心してください。諸々、ある程度心得ていますので」


 引き受けます。

 心配しないで、きっと見つけます。


 そんな意味を孕んだ俺の首肯に、イーレさんはどこかホッとしたような顔になる。


「よろしくお願いします」

「はい」


 大丈夫。

 町中での動物探しは前にもやった事があるし、リスの生態もそれなりには頭に入っている。


 まずはそれらを参考にして、町中を捜索してみよう。




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