第44話 スキル相談室への久々の依頼
とりあえず幾つかの服を手に取って見てみたが、うまく選べる気がしない。
どうせなら似合うものを買ってやりたいが、そもそも似合う似合わないは何を基準に推し量るのか。
散々眉間に皺を寄せて唸った俺は、ギルドで貰った助言を思い出した。
店員さんに相談し、色や形を見て選ぶ。
普段使いの二着分もどうにか選び終えた頃には、何だかゲッソリと疲れてしまった。
しかしまぁ。
「んふふっ」
「め~♪」
店員さんから服が入った袋を受け取ったエレンも、その隣のメェ君も、上機嫌なのでよしとする。
「麦わら帽子は本当によかったのか? あんな間に合わせで突貫工事の代物ではなくて、もっとちゃんとしたやつが売っているのに」
買おうとしたら「要らない」と言われた帽子について言及すると、「エレン、スレイとおそろいの帽子がいいもん!」という言葉が返ってきた。
「でもあれ、大人用のに穴を空けてリボンで顎紐付けてるやつだぞ?」
間違っても、あまり見栄えがいいものではない。
苦笑交じりに言った俺に、エレンはぷくぅーっと頬を膨らませる。
「エレン、スレイとおそろいがいいの!」
「そ、そうか」
「そうなの!」
「ぷぅ!」
「いてっ!」
エレンの勢いに押されていると、ぷぅちゃんに頭突きをお見舞いされた。
患部の顎をさすっていると、店員さんに笑われてしまう。
「仲良しなんですね」
「動物たちは、本当にこの子の事が好きで」
「貴方も含めての話ですよ」
「え」
今のどこを見て、そう思ったのだろうか。
少なくともこの子ペンギンと俺は、仲がいいようには見えまい。
そんなふうに思っていると、彼女が「あの」と口を開いた。
「間違っていたら、すみません。もしかして元王都暮らしの冒険者スレイさんではないですか?」
「え、はいそうですが」
俺、名乗ったっけ?
いや、名前はエレンが呼んでいたのを聞いたのか。
でもじゃあ『元王都暮らし』と『冒険者』というのはどこで?
そんな俺の疑問に答えたのは、彼女の次の一言だった。
「冒険者ギルドのドラドさんから、先日『女の子と一緒に麦わら帽子を被ってギルドに来る、元王城お抱えのスキル研究家の人』のお話を聞いて」
「え……あー、もしかしてドラドが昨日言いに来た?」
俺の問いに、彼女は頷く。
「スキル相談室に、お仕事のお話をしたいのですが」
相談室への依頼は、半年ぶりだ。
昨日、ドラドがうちに来た理由。
彼がこの地を出る前に俺に話しておきたかった事というのが、「もしかしたら『スキル相談室』に依頼が来るかもしれないぞ」だった。
彼曰く、大切な物が家からなくなり、それが少々特殊なものだったので、ドラドに相談が来たのだと。
そしてドラドは俺を紹介したのだと。
紹介したところ、相談するかを少し悩んでいる様子だったから、いつ実際に相談が来るかは分からないが、もし決心してギルドに話しに来たら、受付経由でその話が行くようにしておくからと、ドラドは言って帰っていった。
その依頼主(仮)が、今正に依頼主(正式)となって目の前にいる。
「その、あまり周りには言えない話で。ドラドさんは元々父と仲が良くて知っていたから相談したら、貴方に頼るのがいいって教えてくれたんです」
店の二階に通された俺は、ある部屋を前にその人――イーレさんの声を聞いた。
室内には、色々な品物が置かれている。
どれも、服屋の売り物にはならない木工品。
それを見てエレンが「わーっ!」と目を輝かせたので、すかさず「人の部屋の物を勝手に触るなよ」と釘をさしておく。
普通の人がパッと見たところで、おそらくガラクタにしか見えない物の数々。
しかし俺には。
「どれも魔道具ですね、それも古い」
「流石、ドラドさんが紹介してくれただけありますね」
そう、すべて魔道具だと看破できた。
魔道具は、『魔道具師』という名のスキル持ちが作り出すものだ。
つまり正しく、スキル研究家の領分である。
俺も王城にいた時に、魔道具については数々の相談を受け検証をした。
それなりに役に立てるだろう。
「それで? どの魔道具の使い方が知りたいのですか?」
そう尋ねながら振り返る。
想像していたのは、光を見つけたような依頼者の顔だ。
しかし彼女から返ってきたのは、遠慮気味な目と「あ、いえ、そうではなく」という否定。
じゃあ何を依頼したいのかと思えば、彼女は意を決したように言った。
「なくなった魔道具を探してほしいんです!」




