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第43話 エレンたちと服屋さん



 エレンがメェ君の言葉が正確に分かる事は、秘密にしている。

 実際に、これまではエレンが人前でメェ君と会話をしてしまった時は「召喚士なら多少は召喚対象の気持ちが分かる。何となく分かる事を、さも本当に言っているかのように言っているだけ」という言い訳で通してきた。



 しかし今の会話は、その言い訳を使うにはあまりにも不自然だ。


 エレンが知らない単語を聞いて、首を傾げていたのである。

 自分が知らない筈の単語を、何となく分かるメェ君の感情から知る術はない。



 幸いだったのは、彼女たちの常識が仕事をしてくれた事だ。


「この子は賢いんだねぇ。こんなふうに、遠回しに誉めるなんて」


 ありがとうね、エレンちゃん。

 おばちゃん、嬉しいよ。


 店番のおばさんは、そう言ってエレンに笑った。

 どうやら「エレンが気を利かせて、うまく周りの気を引いて、店の宣伝をより効果的にしてくれた」と思ったらしい。


 目の前で通りすがりから客になった人におばさんが対応するのを見ながら、俺はホッと胸をなでおろした。


「エレン。食べたら行こうか」

「うん!」


 エレンの笑顔に頷いて、おばさんに再度お礼を述べてから歩き出す。

 

「それにしても、あの鳥、カモメかな」

「ぷぅぷっ!」

「ぐへっ!」


 目的地になった店の看板を見ながらポツリとそう呟いたところで、腹に突然ぷぅちゃんからの頭突きを食らった。


「何で突然」


 俺は何もしていない。

 ついでに言うなら、見てもいなかった。


 ぷぅちゃんは、目が合うと飛んでくる理不尽なペンギンだ。

 しかし、まさか理由もなしに頭突きをしてくるなんて――。


「ぷぅちゃんはね、カモメのおともだちがモテモテなの。だからぷぅちゃんは、そのカモメさんより『カリスマせい』のある鳥になりたいんだよ」

「え」


 予想外の理由がエレンの口から語られて、俺は思わず目をパチクリとさせる。


 なるほど。

 俺がその友達とやらの名前……というか、種族? の名を口にしたせいで、この子ペンギンがいじけたという訳か。

 しかしそれって。


「八つ当たりじゃん」


 たったそれだけの理由で頭突きを食らうなんて、やはりこの子は理不尽だ。

 まぁ、まだ一応理由ある理不尽だっただけマシと考えるべきだろうか。


 いや、それよりも。



 まさか、こんなところでぷぅちゃんの『特性:空飛ぶカリスマペンギン』の由来が分かるとは。

 意味の分からなかった『カリスマ』は、どうやら友達への対抗意識で付いたようだ。


「お前のソレは、一体どんな力を発揮するんだろうなぁ」


 痛む腹をさすりながら子ペンギンに尋ねたが、彼から返事は返ってこず、顔もプイッと逸らされてしまった。





 ドアを開けると、カランカランとドアベルが鳴った。


 木造りの店舗の室内には、衣類と小物が並べられている。

 俺の後ろから店内を覗いたエレンは、中を見ると目を輝かせてタタターッと中に入っていく。



 店の奥から顔を出した女性が、笑顔で「いらっしゃいませ」と言って、キョトンとした。


「あの、何をやっているんです?」

「あぁいや、うちの連れの動物たちが、断りを入れる前に店内に入ろうとしたので」


 今の俺は、メェ君の侵入を阻止するために片足を上げて入り口を塞ぎ、空飛ぶペンギンを鷲掴みにしている。

 片足だけで立ち、手を伸ばした状態で止まっているのだ。

 おかしな奴だと思われていても、仕方がない。


 それでもちょっと恥ずかしくなっていると、そんな俺を見て、店員さんがクスッと笑った。


「お気遣い、ありがとうございます。入ってもらって大丈夫ですよ。商品や店内を汚さないようにさえ、注意していただければ」

「そ、そうですか。それはよかった」


 顔が熱くなるのを感じながら、メェ君の通せんぼを解除する。

 足の横をすり抜けるようにして走ったメェ君は、いつもの定位置・エレンの隣にすぐさま向かい――ぷぅちゃんから手を離せば案の定、急に鷲掴みにされて怒っていた彼女から、顎に思い切り頭突きをお見舞いされた。





 改めて店内を見回せば、どうやらここは主に女性物を置いている店らしいと分かった。


 高い物から安いものまで、幅広く取り揃えられており、服だけではなく小物もある。

 流石にかなり値が張る貴金属類はないものの、石に穴をあけ紐に通したような、簡易的なネックレスや髪飾りが並んでいる。

 選ぶだけの種類はありそうだけど。


「エレン、買うのは三セット。おめかし用が一セットと、いつも着る用が二セットだぞ」

「わかった!」


 元気よく返事をし、エレンは早速店内を見て回る。

 それに律儀についていく二匹を含めた彼女たちを目で追っていると、店員さんが「娘さんですか?」と話しかけてきた。


「あ、いえ。その、娘ではないんですが、保護者で」


 言ってから、別に「はい」でよかったのではと思う。


 親ではないが保護者だなんて、そんな間違いなく事情があるような話を聞かされた側は、ものすごく反応に困るだろう。


 案の定彼女に「すみません」と言わせてしまい、苦笑交じりに心の中で「こちらこそ、気を使わせてしまって申し訳ない」と言葉を返す。


「お洋服をお探しですか?」

「えぇ。ただ俺子どもの服も、女性の服もよく分からなくて――」

「スレイ! エレン、これがいい!」


 言いながら、エレンがトコトコと歩いてきた。



 彼女が持ってきたのは、襟に刺しゅうが入った白のブラウス。

 意外とシンプルな物を選んできたなと思いながら、「下は?」と尋ねる。


「エレン、これだけでいいよ?」

「それ、おめかし用だろ見た感じ。ならせっかくだし、下も揃えた方がいいぞ。どれか選んでおいで」

「エレン、スレイにえらんでほしい!」

「えっ」


 どうしよう。

 俺にそういうのを選ぶセンスがあるとは、我ながら思えないのだが……。


 エレンからの期待のまなざしに、流石の俺も逆らえない。

 仕方がなく頭を掻きながら、先程までエレンが見ていた子供服のところに足を向ける。


「『スレイ』……?」

「はい?」


 後ろから聞こえた俺を呼ぶ声に振り返れば、店員さんが「あっ、いえ、何でもありません」と両手を振る。


 人の名前を呼んでおいて「何でもない」はないだろうけど、用事がないのなら別にいい。

 タタッと先行したエレンに続き、今度こそ俺はエレンの服に頭を悩ませる事になった。




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