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第41話 女のめかし込みは、自由



 二匹目の召喚が成功しても、俺たちの生活は変わらない。



 朝。

 いつもと同じく冒険者ギルドに行く。


 そこで依頼を見せてもらう――前に、エレンが顔見知りの冒険者たちの方へと駆けて行ったので、俺も慌ててついていった。


「おはよう!」

「あ、エレンちゃん。おはよう」


 毎日俺が止めるのも気にせず友達作りと称して周りとの交流に勤しんでいたエレンは、どうやらその甲斐もあって、冒険者たちに順調に認知されているらしい。

 エレンを温かく会話の輪に迎え入れた彼らは、すぐにエレンが胸に抱いている子ペンギンにも気が付いて「あれ?」という顔になる。


「その子は?」

「あたらしくお友だちになったぷぅちゃん! きのうから、スレイのおうちでいっしょにすんでるの!」

「……ぷぅ」


 嬉しそうに自分を紹介するエレンに、どうやらぷぅちゃんも逆らえないようだ。

 朝から、というか召喚後からずっと、ものすごく愛想のない彼も、エレンにはちゃんと鳴き声を返す。



 同じ鳥系だからという訳ではないが、少し源次郎と被る振る舞いだ。

 まぁ源次郎が頑固な老人のように見えるのに対し、この子から感じるのは「思春期特有の反抗」のような、もう少し青い抵抗だけど。


 そう思いながら「空飛ぶペンギン?」「ペンギンって空飛ぶの?」と口々に首を傾げている冒険者たちに、ぷぅちゃんの腕に括り付けた組み紐を指し示して「空を飛んでいるのは、魔道具の効果だよ。こいつ、なんか気に入っちゃって」と説明しておく。


 ぷぅちゃんはどうやら空を飛べるのが嬉しいようで、何を言っても空を飛ぶ。

 普通のペンギンは、空を飛ばない。

 これじゃあ目立って仕方がないし、特性由来でこうなっている以上、バレればメェ君やエレンの事も芋づる式にバレかねない。


 何か対策を、と考えて、家にあった魔道具の組み紐を付けた。

 これは本物で、ティーポットくらいの重さまでの物なら宙に浮かせる事ができる。

 実際には使っていないので、付けているところで動力の魔石が消耗する事はない。


 いざ何か言われたら、近くにある物に括り付けて実際に浮かせて見せればいい。

 即席で考え付いたにしては、我ながらうまい誤魔化しの手ではないかと思う。


 ……なんて思っていると、ぷぅちゃんとばっちり目が合った。

 その結果。


「いでっ!」


 顔面を目掛けて飛んできたぷぅちゃんは、ちゃんと避けた。

 昨日も顎に頭突きを食らったし、同じ轍は踏まない、と思って。


 しかしうまく避けられたと思っていたら、後頭部にガンと打撃が来た。

 頭をさすりながら振り返ると、満足げな顔の子ペンギンがいる。



 ――こいつ、まるで追尾機能付きの飛び道具みたいな事しやがって。


 周りの人たちがしきりに、ぷぅちゃんを「可愛い」と囃し立てているが、どこが可愛いものか。

 目つきはもちろん、性格も全然可愛くない。


「元々エレンちゃんも愛嬌あるし、可愛いから猶更」

「メェ君とぷぅちゃんとエレンちゃん、セットで可愛いよねぇ」


 そんな賛辞の数々に、エレンがちょっぴり照れている。


 その様子を見て、周りはまた「可愛い」と言うのだから、可愛いの永久機関の完成だ。

 その様子を若干蚊帳の外な気持ちを味わいつつ眺めていると、そこに少し残念そうな声が混じり始める。


「もうちょっと着る物とかに気を遣えば、可愛さに磨きがかかるんだろうけどなぁ」

「でもエレンちゃんたちは、畑仕事や牧場仕事をするんだろ? おめかし服を着てきて汚しちゃあ勿体ないんだから、こういう時はこういう服に限るんじゃあ」

「それにしたって、男の子の服を着させる必要はないじゃない。サイズもちょっと合ってないし」


 たしかに彼らの言う通り、エレンに着せているのはドラドに貰った服だ。

 エレンのために買ったものではない事もあり、デザインはもちろんサイズも合っていないのを、裾を折ったりして調節している。


 エレンは何も言わなかったし、特に不自由な事もなかったから特に気にしていなかったのだが……うーん、一斉に俺を見てくる皆の視線がかなり痛い。


「子どもの、しかも女の子の服なんて分からない」

「そんなの店の人にでも聞けばいいじゃない」

「めかし込むための服なんて、着る機会もそうないだろうし」

「あれば着るさ。ないからそう思うだけで。それに、持っているのといないのとじゃあ、心持ちが違うよねぇ?」

「たしかにな。そう言うのがあるだけで気分が明るくなるって、嫁も言っていた。実際に機嫌もいいしなぁ」


 女性に交じって男性も話に入って来たかと思ったら、どうやら妻帯者らしかった。

 おそらく今のは、体験談なのだろう。



 そういえば、昔母様も言っていた。

 着飾る事が女の幸せのすべてではないけど、その自由は与えられるべきだ、と。


 エレンはまだ子どもだけど、同時に女だ。

 困窮している訳でもないのにその自由を与えないのは、保護者としてどうなのか。

 


 チラリと受付カウンターの方を見る。


 まだ今日の仕事は受けていない。

 思えばエレンとは、まだ碌に町も歩かせていない。

 通り道として歩いた事はあれど、買い物や散歩はさせていないし……。


「なぁエレン。今日は町で買い物でもするか」


 そろそろ食品も、買わないといけないなとは思っていた。

 そのついでにエレンと町を歩き、服を買ってもいいのではないか。



 そう思いながら言った俺に、エレンは「おかいもの?」と小首を傾げた。


「パンとか食材とか、エレンの服とか。買いながら町をブラブラ歩くのはどうか、と」

「エレン、いく!」

「めっ!」

「ぷぅ」


 動物たちの鳴き声もエレンに続いた事で、全会一致で今日の予定は買い物になった。




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