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第38話 メェ君の答えと来訪者



 だから言葉を端折らずに、きちんと説明する事にした。

 エレンのいないところで嘘偽りなく、納得してほしいから。


「『召喚士』スキルはあくまでも召喚をするスキルであって、召喚対象の行動を縛る効力は発揮しない。戦闘動物を従える人の中には制御用の首輪を使う人もいるが、約束事に逆らう動物を痛みで従わせるものだ。エレンには使わせたくないだろう?」

「めぇ」


 チラリと隣の羊に目をやる。


 羊なので、相変わらず人ほど表情が読める相手ではないが、返事の声色や大人しくお座りしている様子から、冷静に話を受け止めて、きちんと考えているように見えた。


「だからエレンのためを思うなら、嫌なら嫌だと言わないとダメだ。じゃなけりゃあ、ちゃんと納得しないといけない。どうだ? メェ君」

「めぇ!」

「……」


 さてここで一つ、問題がある。


 メェ君がこちらの言葉を理解しているのは、おそらく確かだ。

 しかし俺はメェ君の言葉が分からない。


 きちんとメェ君の話を聞くためには、エレンに通訳をさせるしかないが、それではメェ君が本音を言わないかもしれない。



 まさか俺が、動物の言っている事が分からなくて困る日が来るとはな。

 そう思えば、思わず苦笑する。


 動物の言葉なんて分からなくて当たり前だった、今までにはなかった事である。

 本当に、人生何があるか分からない。


「そうだなぁ。じゃあ、もし召喚動物が増える事に本当に納得したのなら、俺のこの手に手を乗せて。不安があるなら、乗せないで鳴いて」


 俺の出した手に、チョンッと羊の前足が乗った。


 即答だ。

 改めてメェ君の顔を見れば決意が固まった羊の顔……のように見える。

 気のせいかもしれないが。


「そうか。ならいい」


 そう言って、俺はメェ君の前足を優しく握る。


「まぁ、もし召喚して何か不安ができたら、俺を頼ってくれ。俺にはお前の言う事を正確に知る事はできないけど、それでも察してやる事ができる方法はある」

「めぇ~!」

「ぅわっ?!」


 メェ君が、ガバッと俺に飛びついてきた。

 犬たち二匹はよくやるが、いつもいい子のメェ君には初めてされた。


 驚いたが、頬ずりするメェ君のモフモフの毛が気持ちいい。

 「あー、癒されるー」と和んでいたところ、腹に何か重いものが乗る。


「ぐえっ、何……」


 見れば、悪戯好きの犬たちが、俺の腹に二匹して前足を乗せていた。

 尻尾なんて、ブンブンだ。


「違う! 遊んでやる時間じゃないぞ!」


 抗議したが、犬たちは「またまた冗談言って~」とか「メェ君には遊んであげてるじゃん!」という声が今にも聞こえてきそうなはしゃぎ具合を、俺の腹の上で披露したのだった。

 




 台所に戻り、皿に野菜スープをよそい、いつものようにリビングで晩飯を食べる。


 先程エレンがスキルを使う許可を出したらものすごく喜んだエレンは、俺の「飯食べたらな」という言葉を守っている。

 席に座って行儀よくご飯を食べている。

 が、表情からルンルン加減が駄々洩れていた。


「そんなに楽しみか? スキルを使うの」

「うん!」


 屈託なく笑うエレンに、俺も思わずフッと笑う。



 たしかに俺も子どもの頃は、スキルを使うのが楽しかった。

 戦闘の役に立たなくても、自分の意思に合わせて何もないところから火が出る光景は、とても興味深く面白かった。


 それこそ周りの貴族たちから「普通ノーマル階層の『火』スキルなんて」と言われてクスクスと笑われていても、気にならないくらい楽しくて、気が付けばスキルにできる限界とか使い方に興味が移っていったっけ。


 それが仕事になったのだから、人生何があるか分からない。

 まぁ今はそのスキル研究家職も、ほとんど未稼働だけど。


「エレンねぇ……大きくなったらしょうかんしたどうぶつさんで、ぼくじょうするの!」

「牧場?」

「うん! リステンさんのところみたいな!」


 皆仲良くて、楽しかった。

 そう言った彼女に、納得する。


 突然スキルを使いたいと言い始めた理由は、どうやら『リステンさんの牧場に感化されて』だったらしい。



 『召喚士』スキルは、無限に召喚ができるスキルではない。

 召喚上限には個人差があるが、スキルは練習で使い慣れる事はあっても、強くなる訳ではない。

 授かった時からできる事の限界は決まっている。


 使い慣れる事で多少効率的に使う事はできるようになっても、劇的に練習の結果が出る事はないのだ。


 だからエレンが本当に牧場を作れるほどの頭数の召喚を維持する事ができるかは、保証してやれないのだが。


 ――まぁ、子どもにそんな酷な事を伝えるのも可哀想か。


 子どもの夢を壊す事は、忍びない。

 まだ夢見ていい年でもあるのだし。


 それに、もしたくさん召喚できなくても『召喚動物で牧場を作る』という夢自体を叶える事ができる手段は一応思いついているし、最悪でもどうにか――。


「おーい、スレイ」


 男のそんな声と共に、家のドアをノック……というには少々荒っぽい音がした。



 聞き覚えのある声だ。

 どうしたのかと思いながら、俺は玄関へと向かう。



 扉を開けると、そこにいたのは案の定、額に傷のある大男だ。


「ドラドがうちに来るなんて、珍しい事もあるものだ」

「この前珍しく、夜にギルドまで俺を訪ねて来たんだ。珍しいのはお互い様だろ?」


 驚いた俺に、強面がウインクなんてしてくる。

 筋骨隆々な強面男がそんな事をしても、似合わないどころかちょっと怖い。

 

「なんかご機嫌だな、ドラド」

「明日からビエラに出張だからな!」

「あぁ、あそこには憧れの人がいるんだっけ?」

「会うのは久しぶりだ!」


 俺は会った事はないが、話だけはドラドから聞いている。

 王城時代、晩飯を一緒に食いに行った時に、酒が入ると毎回その人の話だった。


 ドラドの冒険者時代の先輩で、今は彼と同じく冒険者からは引退し、ビエラという都市でギルド長をやっている人だ。

 隣の領地なので用事がなければ会う事もない。

 だからドラドの心が弾む理由は分かる。


「いつまでこの町を空けるんだ?」

「一週間後まで。その前に話したい事があってな」

「なるほど。上がるか?」

「お前がよければ」


 彼の言葉に頷いて、家の中へと通した。

 リビングに案内する道すがら、ドラドの来訪に気が付いた犬たちが、いつも通りの好奇心と人懐っこさを発揮して、ドラドに飛びつく奇襲を仕掛ける。


 それらを受け止めて尚立ったままだったのは、流石はドラドというべきか。

 畑仕事や牧場仕事で日々体を使っている自覚はあるが、流石に冒険者を引退後も尚体を鍛えて筋骨隆々を高いレベルで維持し続けているドラドには敵わないらしたかった。




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