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第35話 王城時代



 ――穴花スズメバチ。

 その名の通り、穴に住むスズメバチなのだが、この国での確認数は少ない。



 ハチが家畜の脅威だと知っている牧場主は多いが、ハチの巣は普通、木や物の隙間に巣を作る。

 脅威は他にも野生の動物や魔物などがいるが、どれも地上に存在するのが常識だ。


 だから、必然的に気を配るのは地面より上。

 広い柵の中ともなれば尚の事、地中の巣の存在に気付く事は難しいのだが。


「まさか王城時代の、あの僻地からの調査依頼の時の経験が役に立つとはな」


 リステンさんの依頼に応じた冒険者たちが牧場の一角で調査をしているのを遠目に眺めながら、俺は小さくそう呟いた。



 思い出したのは、王城時代に引き受けたスキル研究家の俺へのある相談。

 辺境伯から『正体不明の暗殺者』について、スキル知識の豊富な俺に、犯人の探し方や弱点などの助言を求められた時の事である。



 曰く、死亡者には決まって体のどこかに針のように細い物で刺した跡があり、ひどく腫れ上がった患部からは毒の成分が検出された。


 やつの出現前には、必ず甘い臭いがする。


 やつの出現は、必ず夜。

 見回りの衛兵ばかりが、狙われる。

 

 ブ~ンという耳障りな音が直前にするが、犯人は決して姿を現さない。

 見回りは二人一組で行う決まりなので被害者の側には常に同僚がいたが、そいつも犯人を見ていない。

 

 犯人が相棒の同僚に成りすましている可能性も加味して四人一組で見回りさせてみたが、必ず一人だけが死ぬ。

 他の人たちは、犯人を見ていない。

 別のグループでも同じ事が起きたので、成りすましや同僚の中に犯人がいる可能性は消えた。


 そんな情報の数々が伝えられた。


 それらを元にスキルの推察をさせられたのだが、これが中々に難航したのだ。

 


 姿が見えないのなら、遠距離から攻撃をするスキルか、姿を消すスキルか。

 まず俺はそう考えた。


 姿に関しては、完全に透明化するものもあれば、縮小化できるものもある。

 毒針を刺すだけなら、体が小さくても実行可能だ。

 夜なら尚更、「小さい人間が存在する」という可能性にすら気が付いてもいない人間を、誰にも見られずに害し、その場を後にする事は簡単だろう。



 しかしもしそうだとしたら、『甘い臭い』と『ブ~ンという音』とは何なのか。

 せっかくのステルス能力なのに、そんな痕跡を残すような真似をするなんて、そんなのまるで犯人が見つかりたがっているかのようである。


 ……いや、犯人が意図せずそういう痕跡を残してしまった可能性もあるか。

 つまり、スキルを使うとそうなってしまうとか。

 だとしたら、ステルス系のスキルとして使うにはあまりにも大欠陥だけど。


 どちらにしてもこの臭いと音が、犯人を見つける勝機かもしれない。



 臭いや音の原因は、見つけた結果分かればいいと思った。

 ただ純粋にこの二つをスキルの使用箇所だと仮定して、それを元に兵士たちが被害を受けずに脅威を捕縛できるように、五つの助言を提示した。


 すぐにできるものもあれば、装備などの準備が必要なものもあった。

 警戒度合いの低い場合に行う策から、最高に高い警戒度で行う策まで。

 段階に合わせて出してほしいという要望だったので、それに従った。


 中でも最高警戒度の策は、その分かなり金のかかるものだった。



 『見回り時のスキル検知用の魔道具携帯』案。

 この町でも門番が使っているアレを、見回り時に一人一つずつ携帯するというものだ。


 この魔道具を使っていれば、スキルが使われた瞬間やスキル行使中の人間が近づいてくればすぐに感知する事ができる。

 脅威にいち早く気が付き厳戒態勢を取れるため、兵士たちの生存率も上がる。



 とはいえこれは、「もうこれ以上の警戒度もないだろうという感じの策」と言われて作っただけで、実際にやる事を想定して提示した訳ではなかった。


 そもそも俺がするのは、助言。

 それを受けてやるかどうか決めるのは、現場の辺境伯領の兵士たちだ。

 対スキル警戒において、これ以上の警戒もないとは思うが、実際に使われる事はないだろうと思っていた。



 だから実際に使われたと聞いた時には、そしてそれでも尚犯人を捕まえられないと殴り込みよろしく辺境伯領の衛兵長が俺の部屋に乗り込んできた時には、様々な意味で驚いた。


「犠牲者が二桁に乗ったから『背に腹は代えられん』という事で、全員分の魔道具を買い揃えたのに、犯人は一向に捕まえられず、被害も収まらないではないか! この血税無駄遣い野郎!」


 それが、衛兵長の第一声だった。


 

 しかしこの件があったのは、俺がスキル研究家になった翌年。

 ちょうど周りから「研究と称して引きこもって本を読んでいるだけの、何の役にも立たないくせに王城に囲われてぬくぬくとやっている恥知らず」と揶揄され始めていた時であり、まだ俺も十六歳の年だった。

 

 端的に言えば、若く青かった。

 だから、倒れる部下を前に頭に血が上っていた衛兵長の口の悪さに、人生で一番イラッと来て、売り言葉を真っ向から買った。


「犯人が見つからない? 知りませんよ、そんな事! こっちはスキルの専門家だ! 言った事に間違いはない! それでも見つからないんなら、スキルと暗殺者は関係ないんじゃないですかね?! この分じゃあ、そもそも犯人が人間かも怪しい!」


 今だったら絶対に「自分が言った事に間違いはない」などとは言わない。


 世の中には、誰も知らない事がまだまだたくさんある。

 その筆頭が、それこそスキルだ。


 誰も知らない事でさえたくさんあるというのに、それ以上に物を知らない俺が言った事に間違いなんてない?

 当時の俺は本当に、了見が狭かったと思う。




 しかし若さ故の暴走も、時には役に立つ。


 俺は、自分が口にした言葉を嘘にしないために、衛兵長に『犯人が人間じゃない、スキルも関係ない可能性』について熱く語った。


 相手も言い返してくる。

 結果、議論は平行線のまま白熱し、俺は相手を言い負かせるだけの知識を手に入れるために、王城に来て初めてスキル《《以外》》の様々な文献を読み漁り、調べ上げた。


 その結果浮上したのが、『犯人はハチ』説だ。

 目の下に大きな隈を作った俺の説明を聞いた衛兵長は、「これでもし間違っていたら、お前は今度こそ自分がポンコツだと認めて、スキル研究家と名乗るのも止めろ!」という啖呵と共に、俺の仮説を辺境伯領に持ち帰った。




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