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元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜  作者: 野菜ばたけ
第二章:エレンと一緒に、苗植え(農業)します

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第23話 『特性:沼』についての仮説



 ギョッとして、慌ててエレンに走り寄った。

 エレンの脇腹の下に手を差し込み、昨日の夜と同じように、モフモフからエレンをズボッと引き抜く。



 急いで辺りを見回すが、幸いにも見える範囲に人影はなかった。


 ジェームスさんは、まだ照れ隠し中なのか。

 少し遠くでこちらに背中を向けて、ちょうど仕事を再開する地点で中腰になるところだ。


 おそらくこちらは見えていなかった。

 その事にホッと息を吐き、やっとエレンたちに視線を戻す。


 急に持ち上げられたエレンは、キョトンとしていた。

 急に持ち上げられたエレンを見て、メェ君も同じくキョトンとしている。


 二人して、「どうしたのだろう」と思っているような顔だ。

 そんな彼女たちに、ため息交じりに教えてやる。


「今日の朝の約束、忘れたか?」

「やくそく?」


 エレンとメェ君がコテンと首を傾げたのが、完全に同時だった。

 こんなところでも主従で仲良しだな、と思っていると、どうやら思い出すのも同じだったらしい。

 二人して、あの時話した時と同じく「ガーン」という顔になる。


「エ、エレン、メェ君とはなればなれ……?」

「めぇ……?」


 両方とも、負けず劣らずの青い顔でガクガクと震え出した。

 絶望的な顔になっている。

 何かちょっと可哀想になってきた。


「まぁ今回は幸いにも、誰も見ていなかったみたいだから大丈夫だが」


 言いながら、エレンをゆっくりと地面の上に下ろす。

 すると、ホッとした顔になった彼女たちはどちらともなくヒシッと抱きついた。


「気をつけないと危ないんだからな」


 次はないぞ、と少し脅すと、二人はブンブンと首を縦に振る。

 ちょっと脅し過ぎな気がしなくもないが、このくらいしないとまたやりそうなので、少し厳しくするのも仕方がない。



 それにしても、先程の現象。


 ――特性:沼。

 ドラドの鑑定で知る事となった、未知のステータスが脳裏をよぎる。

 


 何を意味するステータスなのかは未だに不明だが、メェ君にとってあの行為は、庇護すべきエレンへの愛情の示し方なのかもしれない。


 少なくとも俺にはそう見えた。

 転んだエレンを保護しようとしたように。


「……あれ?」


 離れたくないとメェ君にヒシッと抱きついたが、いつの間にかメェ君の魅惑のモフモフにてられて「沼みたいに沈み込むモフモフ~」と幸せ顔になっているエレン。

 彼女を見て「ついさっきまで転んで涙目だったのに」という感想を抱いた俺は、彼女の膝を見て驚いた。


「エレン、さっきの転んだ傷は?」

「ん?」


 エレンが自身の膝を立てて見る。

 小さな彼女の膝小僧には、先程まであった擦り傷がない。


 普通、付いた傷が勝手に跡形もなく消えるなんて、あり得ない。

 基本的に、傷は自然治癒まで待つか、ポーションを飲んで治すかの二択。

 しかしエレンはポーションを飲んでいない。



 ……そういえば、昨日エレンを鑑定した時に、ドラドが言っていたな。

 エレンは異常なまでの健康体だ、と。


 もしかして、エレンには自然治癒のスキルか何かが――。


「メェ君のモフモフに包まれたら、いつも痛いのは治っちゃうよ?」

「え」


 衝撃の言葉に思わずほうける。



 思えばスキルは一人一つしか授かれない。


 エレンは既に『召喚士』のスキルを持っている。

 もう一つ『自然治癒』のスキルを持っている筈がないし、万が一そんな事があれば昨日あの場でドラドが何かしら言っていただろう。

 エレンは「動物の言葉が分かる」という副作用もあるが、『召喚士』と『治癒』に因果関係があるとは思えないし……。


「となると、メェ君の方の力だと考えるのが適切か」


 しかしそうだとして、何がどうやってそんな力を発揮する要因になったのか。




 まさか、という思いと、それ以外に何がある、という思いが交錯する。

 しかし少なくとも現状では、そこに理由を求める以外に選択肢はない。



 スキル研究家の俺が一瞬でも「スキルの効果か」と考察する程の超常現象。

 そんなものを動物が引き起こした事例など、一度も聞いた事がない。


 しかし、人にとっての『スキル』が、動物にとっては『特性』なのとしたら。


 ――特性:沼。

 その実態は。


「呑み込んだ対象物に、治癒をかける……?」


 世界最高峰の召喚士が召喚した戦闘魔物でもできない芸当を、底辺階級が召喚した非戦闘動物ができる。

 立ってしまった一つの仮説に、俺は戦慄したのだった。




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