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元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜  作者: 野菜ばたけ
第二章:エレンと一緒に、苗植え(農業)します

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第19話 農業の合言葉は「楽しく」



 門の外に出て、農地へ向かう道中。

 連れたちの歩幅が小さいので、自ずといつもよりゆっくりな速度で向かっていた。


 そうして見る街の外の風景は、何だか不思議といつもと比べて穏やかに見える。

 いつもより、土の匂いが近くに感じる。

 いつもなら気付かない程のそよ風が、頬を撫でている事にも気が付いた。


「おさんぼ楽しいねぇ、メェ君」

「めぇ」


 穏やかさに拍車をかけるようなそのやりとりに、俺は「別に散歩ではないのだが」と思う反面、「まぁ道中でさえ楽しめるに越したことはないか」と微笑した。



 今向かっている今回の依頼主とは、既にかなりの顔見知りだ。


 王都から越してきて、一年。

 普段あまり受注されない非戦闘系依頼を出し続ける仕事場は元々ある程度限られるが、そこはそういうところのうちの一つ。

 今でも農業素人だが、それよりももっと何も知らなかった時から嫌な顔一つせずに、丁寧に仕事を教えてくれた場所でもある。


「こんにちは、ジェームスさん」

「おや、スレイ。時間的に今日は来ない日かと――ん?」


 声を掛けると、俺に気が付いたジェームスさんが、苗を植えていた手を止めてこちらを見た。

 そして、どうやらすぐに同行者の存在に気が付いたようだ。


「今日は一人じゃないんだね?」


 初対面の一人と一匹に、いつもと変わらぬ穏やかな目をやんわりと細めて彼は笑った。


「エレンはエレン! メェ君はメェ君なんだよ!」

「めぇっ」

「すみません。実は昨日、仕事の帰りにたまたま出会って。自称『旅人』なんですが、帰る事ができる家もなくお腹もすかせていたので、昨日はうちに泊まらせていて」


 そういえば、彼女についてどう説明するか、考えていなかったと今更気付く。

 とりあえず正直かつザックリと事の経緯を伝えると、ジェームスさんは「へぇ。よかったねエレンちゃん、泊まらせてもらえて」とエレンに言った。


「うん! たのしかったよ! モォさんと、わんさんとウォフさんと、げんじろうもいた!」


 わんさんとウォフさんとは、多分犬たちの事なのだろう。

 あいつらそんな名前だったのか。

 ……しかし、そうなると猶更『源次郎』の異質さが目立つな。


「今日『仕事に行く』と俺が言ったら『エレンもついて行く』と言ったので連れてきたのですが……邪魔はさせないので、見学だけさせてやってもらえないでしょうか」


 ジェームスさんは優しい人だが、だからこそ迷惑じゃなければいいんだが、と思う。


 迷惑な事にならないように、もし了承が得られたら、エレンたちには改めて「いい子に見ているように」と言い聞かせよう。

 そう強く心に決めたところで、顎に手を当て少し「うーん」と悩むそぶりを見せたジェームスさんがエレンに一つ問う。


「エレンちゃん、農業……お野菜を育てるのに興味はないかい?」

「あるー!」

「じゃあ見学だなんて寂しい事を言わず、一緒にやってみるのはどう?」

「え、いいんですか?」

「いいよ。農業に興味のある人は大歓迎だからね」


 ――農業に興味のある人は大歓迎だからね。

 その言葉には、聞き覚えがある。


 俺が初めてこの人のところに仕事に来た時に、「何も知らないくせに、仕事だってやってきてご迷惑ではないですか?」と聞いた事があった。

 その時の彼も、ちょうど今と同じ顔で、同じ事ようなを言っていた。


 懐かしいなと、思い出す。

 初めて農業に触れたあの日、とても疲れたし汗だくになった。

 しかしものすごく楽しくて、今までに感じた事のないような清々しさを感じたのだ。


「エレン、どうする?」

「やる!」

「めぇ!」

「メェ君もやるって!」


 エレンもメェ君も、即答だった。


「いいでしょうか、ジェームスさん」

「いいよ。せっかくだから、スレイが教えてあげるといい」

「え、でも」


 俺に、教えられるだろうか。

 ジェームスさんなんかと比べたら、まだまだ素人に毛が生えた程度の知識と経験しかないような俺に。


「大丈夫、君にならちゃんと教えられるよ」

 

 彼のその言葉が、俺の背中を優しく押す。


 笑みに細められた目に、できた深い笑い皺に、何だかこの一年分の彼からの信頼を感じた気がした。


 そうだ。

 たしかに俺はまだ素人の横付き程度だけど、それでもこの一年、ジェームスさんに教えてもらった事はちゃんと覚えてやってきた。


「頑張ります」

「楽しくね」

「はい」


 農業は体力的に過酷で、とても地道な作業。

 だからこそ心に余裕を持って、楽しんでやらなければいけない。


 そう、農業の基礎を教えてくれた先生に、俺は笑顔で頷いた。


 




 山のように用意してある苗の一部を一輪の手押し車に積み込んで、俺は車の握り手をよいしょと持ち上げた。

 不安定なデコボコのある茶色い農地に、車をゴロゴロと押しながら歩き出せば、すぐ後ろをエレンとメェ君が列になってついてくる。


 まるで、ひな鳥の行進だ。

 後ろを向いてそう思ったと同時に、エレンとまっすぐ目が合った。


「エレンも、もつ?」

「ダメ。そもそも身長が足りないだろ?」

「ぶー」


 だから先程、手押し車を押す俺を見て、真っ先に「エレン、やる!」と言ったのを却下した。

 まさかこんな短期間で、その時の決定が覆る筈もない。

 

 そんな可愛いいじけ顔を見せてきたところで、ダメなものはダメだ。

 苦笑しながら前を向き、俺たちは作業初めの位置まで向かった。



 手押し車を適当なところに止め俺が畝の前に中腰になれば、エレンとメェ君もその隣に、俺の真似をして並んで座り、俺を見て嬉しそうに笑う。




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