第17話 非戦闘系依頼についての、ギルド側の事情
「エレンは、エレン! メェ君は、メェ君! モフモフのいい子だよ!」
「めぇっ」
そんな俺の内心を尻目に、エレンはピッと元気よく手を挙げて、元気のいい自己紹介を披露した。
エレンたちの無邪気な姿に、受付嬢の方も優しく微笑み自己紹介を返す。
「はじめまして。私はマリナって言います。このギルドの受付をしています」
「マリナさん!」
名前を覚えたらしいエレンは、早速嬉しそうに口を開いた。
「あのねあのね! スレイのおうちは、動物さんがたくさんいるんだよ! それでね、あさごはんのパンとジャガイモがおいしかったの! あとね」
どうやら今のやり取りで、マリナさんを話を聞いてくれる人だと思ったのだろう。
楽しげに話し始めたが、いつまで経っても終わりそうにない。
マリナさんにも仕事がある。
流石に迷惑になりそうだ。
「マリナさん。今日は、昨日受注した依頼の達成報告と今日の依頼を探しに来たんですけど」
エレンの声に被せるようにして、マリナさんに受付の仕事をお願いした。
彼女も対応には心得たもので、「少々お待ちください」と断った後、器用にもエレンの話にはきちんと相槌を打ちながら、手元に目を落とし受注書を確認し始める。
冒険者ギルドの依頼受注は、掲示板に貼られている依頼書を選んで受付に持ってきて手続きをしてもらう、というのが一般的な手順である。
しかし俺がそれに反しているのは、何も「自分で探すのが面倒くさいから」などという理由ではない。
掲示板の広さにも限りがある。
すべての依頼が張られている訳ではないのだ。
人気がある種類の依頼が、掲示板には優先的に張り出されている。
森や洞窟の探索や特定魔物の討伐依頼、護衛依頼などの『戦闘系依頼』が掲示板に貼り付けられるのに対し、俺が受ける『非戦闘系依頼』は、いつも掲示板には貼られない。
「今日も、ありがとうございます。不人気依頼を受けに来てくださって」
「そんな。こういう依頼があるお陰で、俺も毎日楽しく暮らせるんですから」
冒険者ギルドは中央ギルドによって統括されているのだが、どうやら受注率も各ギルドの成績になるらしい。
非戦闘系依頼は、冒険者にとっては不人気依頼。
そんな依頼を発注したら、発注依頼に対する受注率が下がり、自ずと成績も下がってしまう。
だから、近年他のギルドでは、非戦闘系依頼の依頼発注を断る場所も増えてきたのだと、ドラドが言っていた。
実はちょうど俺が王都で仕事をクビになった時に、ドラドから「普通の冒険者家業に興味がないなら、俺のギルドの側に住んで非戦闘系依頼を受けてくれないか」と相談されたのが、俺のここへの移住の理由だったりする。
そもそもその目的で来たようなものだし、生きられるだけの報酬はきちんともらえている。
別に取り立てて感謝されるような事はないと思うのだが、彼女は「謙遜しないでください」なんて、言ってくれる。
しかし、そんなやり取りも彼女の仕事が終わった事で切れた。
「お待たせしました。今すぐに手続きが可能な依頼は、この辺ですね」
幾つかの依頼書が差し出されたので、早速目を通してみる事にする。
依頼書は全部で七枚。
街中での建築手伝いが一枚、街の郊外にある田畑での作業が三枚、牧場の人手募集が二枚。
そして最後の一枚は、「森から木材を取ってきてほしい」という内容だ。
いつもは気分で選ぶ、のだが。
「ギルド、広いねぇメェ君!」
「めぇえ」
「つよそうな人、いっぱいだね!」
「めっ!」
この暢気な一人と一匹が同行しても安全で、先方にもなるべく迷惑にならない仕事を選ばなければならない。




