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第12話 たびびと ~エレン視点~



 スレイがドラドおじちゃんと話しているのが、遠くの方に聞こえている。


 ひとの声がちかくにあるのは久しぶり。

 おばあちゃんがお空のお星さまになって、ひとりになって。



 でもエレンにはメェ君がいたから、さびしくなかった。


 おにいちゃんは「エレンのスキルは何の役にも立たない」って、「メェ君はダメダメだ」って言っていたけど、メェ君はすごい。


 メェ君がいてくれてよかった。

 ひとりじゃぜったいにさびしくて、多分ここまで来れなかった。





 おばあちゃんがお空にいく日に、おばあちゃんが「いつも元気に、えがおでいてね」って言った。

 だから笑顔でいる事にした。

 どんなにさびしくっても、がんばって。


 まわりのみんなは、やさしかった。

 ちかくのおうちのおじちゃんは、まいにち食べものを持ってきてくれたし、おとなりのおばあちゃんは、よくお家にあそびに来てくれた。


 少しすると、ジャンおじちゃんは花束を持ってきて「可愛いエレンちゃんと会えなくなると寂しいよ、レディ」っていって、泣きながら二つさきの村におしごとに行っちゃった。

 会えなくなってさびしかったけど、三つさきのお家のユーリくんが「何かあったらすぐにおれに言いに来いよ!」って言ってくれたし、エレンにはメェ君もいた。


 エレンは、だいじょうぶ。

 そう思ったの。



 でもある夜、知らないおじさんがお家にやってきた。


「困るんだよなぁ。母さんは『可哀想だろ』っていうけど、うちだってそんなに家計に余裕がある訳じゃないんだし」


 さいしょはぜんぜん知らないおじさんだと思ったけど、ちょっとしてから思い出した。

 おとなりのお家のおばさんの『むすこ』だって。

 村のそとに『でかせぎ』にいってるって、前におばあちゃんが言っていたのを思い出したの。


「今日明日は、母さんがちょうどいないんだ。だからな、分かるだろ?」


 そう言って、おじちゃんはエレンをこわい目で見下ろす。


「ここは元々あんたの祖母さんに貸した借家だ。家賃が払えないなら、出て行かないとな」


 おじさんの言っていることは、半分くらいよくわからなかった。

 でも、エレンはもうここにいられない。

 それだけは何となくエレンにもわかった。



 エレンのお家が、なくなっちゃう。

 そう思ったときに思い出したのは、おばあちゃんが前にきかせてくれた『たびびと』っていう人のおはなしだった。


「大変だけど、楽しかったよ。エレンもいつか大人になったら、一度行ってみればいい」


 おばあちゃんも、元々は『たびびと』だったって言っていた。

 ここの人じゃなかったって。

 『えん』があってここに住むことにしたって。


「一人だと不安だったかもしれないけど、私にはエレンがいたからね。一緒だったから怖くなかった」


 おばあちゃんはそう言っていた。


 わたしも前は『たびびと』だったんだって。

 おぼえてないけど、いまのエレンにはあの時のおばあちゃんみたいに、メェ君がいる。


 一人ならさびしくない。

 こわくもない。


 だからメェ君といっしょに夜のうちに、いっしょに『たびびと』になった。





 道はメェ君がおしえてくれた。

 歩いて、休んで、おなかがすけば、メェ君が食べれるものをおしえてくれた。


 夜はメェ君のモフモフでねむった。

 メェ君のモフモフはすごいのだ。

 とてもきもちよくて、さわっていると元気になる。



 おばあちゃんは言っていた。


「旅をすれば、色んな人に出会うよ。そして、自分のいるべき場所もやがて見つかる」


 おばあちゃんの言葉は、エレンのたからものだ。


 おばあちゃんはいままで一度だって、うそをついた事がない。

 だからこんかいも、ほんとうだと思った。

 エレンはまよわず、まいにち少しずつ、前にむかってあるきつづけた。



 どうせいろんな人に会うなら、いっぱい友だちをつくろうと思った。

 そしてエレンもおばあちゃんみたいに、『いるべきばしょ』を見つけるたかった。




 あの時スレイのズボンをつかんだのは、もりの中でだれにも会わなくて、久しぶりに会った人だったからだ。


 でも、うれしそうなスレイのよこ顔と、ふときこえてきた「晩飯は、切ったトマトを入れて煮たスープにしよう」という小さなこえがきこえたのも、たぶんりゆう。

 そのやさしい音をきいたエレンは、いつもお家であったかいごはんを作ってまってくれていた、おばあちゃんのえがおを思い出したから。



「……えっと、とりあえずトマト食べる?」


 スレイはそう言って、真っ赤なおいしいおやさいをくれた。

 お家に行ってあったかいお水でからだをあらったら、あったかいごはんを出してくれた。


 スレイのお家には、たくさんどうぶつがいた。

 みんな、とてもやさしかった。


 あったかくて、うれしい場所だと思った。

 急にわきにかかえて足ぶらりんで連れてこられてちょっとだけビックリしたけど、スレイはとってもいい人だ。

 エレンとメェ君を心配してるんだって、すぐにわかったから、ぜんぜんこわくなかったよ。



 スレイとドラドおじちゃんの声が、やさしく耳をなでていく。

 ここちよくて、まぶたが落ちていく。


 ちかくで声がする。

 ふわりと温かくなる。

 ゆらゆら揺れる。

 すぐそばで「それにしてもよくねてるな」というスレイの声がする。



 少しして、「わん」っていう鳴き声がして、スレイに「しーっ」と注意されていた。

 鳴き声は「おかえり」って言っていた。

 よこにねかされた事にも気がついた。


 でもまぶたが重くて、あがらない。

 となりに、いつものあったかい、モフモフがよりそってくれた。



 てさぐりでモフモフをギュッとにぎって、ホッとしてほっぺがちょっとゆるむ。


「こういうの、何って言うんだっけ……。あぁ、たしか『安心毛布』だ」


 そんなスレイの声がした。



 大きな手で、あたまをなでられたような気がした。

 ねる時に、いつもおばあちゃんがしてくれていたのと同じ。


 エレンはこころがポッカポカになった。


 スレイはどこか、おばあちゃんににてる。

 見た目はぜんぜんにていないのに、ちょっとふしぎだなって思った。




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