第11話 俺は別に変人ではないし、ドラドは見た目に反して優しい。
「このスキルじゃあな」
「スキル? たしか本人が『召喚士』だって」
そう言っていた。
が、あくまでも自称だ。
違う可能性もある、か?
「あぁ。この子のスキルはたしかに『召喚士』だ。ただ階級が、底辺のな」
「あー、それは」
ダメだ。
瞬時にそう判断を下す。
教会では、スキルは『神から賜った特別な力』『神が個人に向けた愛を具現化したもの』だと教えられる。
だから、スキルの強さを示す階級は、そのまま神に愛されている度合いを示すもの。
階級が高い者ほど『神の愛し子』だと敬われる。
そういう、所謂『スキル至上主義』的な考え方が、教会は信仰上の理由で特に強いのだ。
対して、低い者はどうなるかというと。
「いや虐められる……くらいなら、まだマシか」
虐げられるのは想像に難くない。
残念ながら、あそこにはそういう事情が付いて回る。
「どちらにしろ、最初から教会に頼るのはなしだったっていう事だな」
そう言って、隣でスヤスヤと寝息を立て始めてしまったエレンに苦笑した。
「まぁ最終的には本人に聞いてみないといけないけど」
彼女が望まないのに、うちで引き取る事はできない。
しかし、もし彼女が望んでくれるなら。
「子ども一人と羊一匹くらいなら、抱えたところで生活に困る事にはならないだろう」
そもそもうちには、もう既に、ひょんな縁で拾ってきた居候どもが何匹もいる。
それと子どもを同じにする訳ではないが、エレンもあいつらとは仲良くできそうだし、一緒に住んでも問題ないだろう。
そう思っていると、ドラドがボソリと呟いた。
「それにしても、動物でさえ拾ってくるたびに『その日暮らしをしている癖に、このお節介め』と思っていたが、まさか人の子まで拾ってくるなんてな……。お前のそれは、もうちょっとした変人の領域だぞ」
「変人だなんて人聞きの悪い。ただちょっと……可哀想だろ。行き場がないなんて。俺は別に裕福な暮らしを求めている訳ではないし」
口を尖らせて言い返すと、彼がよっこらせと立ち上がりながら小さく笑った。
「まぁ、お前のそういう『相手が誰でも放っておけないお人よし』なところが、成果主義・権力主義の王城勤務に馴染めなかった一因なんだろうよ」
貴族育ちのくせに、本当に不思議な奴だよお前は。
彼はそう言葉を付け足しながら背中を向けると、「あぁそうだ」と言って振り返る。
「冒険者たちが怪我して帰ってきた時用の代えの服が常備してある。お古だが、まぁそれでもないよりはマシだろ。持って帰れ」
彼の視線の先にいるのは、俺に寄りかかって寝ているエレンだ。
そういえば、家に子供用の服がないからと、俺のを着せて裾などを折っている状態だった。
それを見かねての申し出だろう。
俺が「助かる」と言葉を返せば、彼は後ろ手に軽く手を上げて「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出た。
すぐに戻ってきた彼から貰ったのは、麻布で作られた、三着のシャツとズボンのセット。
彼の心遣いにお礼を言って、俺はエレンを抱き上げた。
「お前は歩いてもらっていいか?」
「めぇ」
こいつが何を言っているのかは、俺には分からない。
ただ彼女を見るその目に込められた慈愛の色と、優しい鳴き声が、「もちろん。僕はいいからエレンを優しく抱っこしてあげて」と言っているように俺に思わせた。