第9話
カイト12歳になりました。いよいよ今年の9月で学校も卒業になります。9月で終了にしたのは、この世界では移動に時間がかかるから。来年から通うことになる学園が1月から始まるので、11月に入学試験がある。これで良い成績を残せれば貴族に割り込んで平民でも通うことができるのである。結果はすぐに出るので、王立学園に落ちても王都周辺の4大公爵家の領地に各々学園があるのでそちらに挑戦できる。
そんな理由から、この辺境の地からなら10月初めには出発してお受験からの入学前に入寮を許可されるまで王都で宿泊施設の確保しなければならないのである。まぁうちはほとんど王都にいくことがないので、我が領内の子供達はうちの王都屋敷の騎士達が寝泊りする棟で受け入れているらしい。
そして5歳のお披露目の時期にあわせて辺境伯領都にて合同競技会も開催されました。見学に連れて行くのは4年生以上としたけど、いつものランニング程度の駆け足移動したけど誰も脱落しなかった。孤児院の子達でさえ子供らしく少しふっくらと見せており、肉体育成計画は成功してるようである。
魔法の部は各校の代表が的に向かって得意な魔法を打ち込むというものなんだけど、うちの母上に憧れて騎士を目指す女の子が無詠唱で炎の玉を5連射というのを披露して周囲の注目を浴びていた。
剣術の部は騎士達が巡回する時の基本行動人数である3人一組でトーナメント模擬戦を開催。結果は、アリシアとリンと組んだ我が校が圧勝だったけど「あの黒髪の男の子は誰だ」「我が家の騎士に」などと騒ぎだしたので気配を消して逃げ回ることに。
そんなわけで無事に終わり帰ってきて日常に戻ったんだけど、アリシアの様子がおかしい…。学校の帰り道にちょっと聞いてみよう。
「かーくんごめん。もう王都の学園に一緒に行けないかも」
「え?というかあーちゃんどうしたの?」
「うん…。実は――」
そう言って話してくれたのは、絶対儲かると思ってほぼ全資金をつぎ込んだ香辛料の大量購入だったけど、ミース商会の従業員が受け取って護衛の冒険者とともに帰路についたが国境を越える前に盗賊に襲われて全滅したと。荷馬車の中で発見された従業員は、帳簿の切れ端に【はめられた】と書いた紙を強く握りしめていたと…。また、次の分の契約もしているけど、どうやってもその大金を工面できないと。
それはまさか取引した商会と盗賊がグルだったとかいうやつじゃ…。うーん、まずいね。
「それは大変だったね。なんなら魔物一杯倒してきてお金作ろうか?」
「ありがと。でもそれは厳しいかな。来週の8月初めには商業ギルドを通して振り込まないといけないの」
1週間もないか…。無理だなぁ、ドラゴンでも狩ってくるか?いや、売りさばくのに時間かかりそう。うーん…。
「そうだ、新商品開発するとかどう?あまりお金のかからない石鹸とか?それもお肌がモチモチ若返るヤツ!」
「石鹸…?……うん、いいかも。成功したら商業ギルドが融資してくれるかもしれないし」
「そうだね!ファンが沢山いるらしいヘレナ校長先生にお願いしてお貴族様にひろめてもらおう!」
「うん!やろう!」
……………………
そしてできました!モチモチ若返り石鹸!
商会の倉庫の一角を間借りして土魔法で頑丈な小部屋を設立、さらに内側にはアリシアの結界まで張った完全防備の中で約2時間。薬草の成分と石鹸の元を混ぜる時にアリシアの魔力を込めるとうまくいきました!なぜか俺の魔力ではうまくいかない。結界のこともあるしなんか神聖な魔力でも持ってるのかな?
なんでできたかわかるかというと、これもアリシアしかできないんだけど、鑑定みたいなのができるんだ。なんかそのモノに対する神の情報にアクセスする感じとか言ってたけど、俺の幼馴染神様になったわけじゃないよね?
鑑定でみるとお肌がモチモチになって若返る石鹸:貴族のご婦人方に爆売れしそうって書いてあるらしい。
「あ、もう暗くなってきてる。もう店に戻って売り上げ整理しないと」
早速校長のところに行こうと外に出たらもう暗くなってきてた。
「じゃあ俺が校長先生にお願いしてくるよ。これでも学校の首席だし会ってくれるでしょ?」
「そうかな?うん、じゃあかーくんお願い!」
「任せて!じゃあまた明日ね!」
またね!という声を聞いて走り出す。ついでにアレもお願いしてみよう。
……………………
――Sideヘレナ
コンコンコン!
「母上、カイトです」
「入りなさい」
「失礼します。今日は母上にお願いがあってきました」
「どうしたの?」
あれ?また真剣な顔して…、今度こそ婚約!?
「まずはこれを見て下さい」
と言って目の前に出されたのは白い塊。なにこれ、石?
「これはお肌がモチモチで若返る石鹸といいます。お風呂や水浴び、あとは顔を洗う時にも使ってもらえればお肌がモチモチになります」
――!!なんですってー!私ももう30歳、ちょっと気になってたのよね…。
「これ、試してみていいのかしら?」
「はい、どうぞ」
「ちょっと顔を洗ってみるわね、待ってて」
といってダッシュで水場に向かう!ちょっと水をかけて両手で挟み込んでなでなでして出てきた泡で洗うって言ってたわね。
「……」
なんということでしょう。まるで10年ほど若返ったかのようにお肌がモチモチだわ。さらにほんのり香るお花の香り?これはいいものね。世界中のご婦人方の必須品になるわ。
ダダダダ!ガチャ!
「カイト!これどうしたの?」
「はい、ミース商会が開発してこれから売り出す新商品になります」
「ミース商会…、なるほど。盗賊の被害にあったそうね」
「はい。それでこの商品できしかいせ…じゃなくて、なんとか経営を盛り返したいと」
ん?またなんか変な言葉を言おうとしたわね?言い直してもバレバレよ。
「それでお願いというのが、この石鹸を母上の伝手で広めてもらいたいのと、経営難のミース商会に資金援助してほしいのです」
なるほど。いっそその石鹸の作り方を買い取ってうちで作るという手もあるけど…。それだとカイト怒りそうね。
「わかったわ。援助額については相談にのるから責任者にここに来てもらうように言って。明日も店の前まで迎えにいくのでしょう?」
「母上!ありがとうございます!大好きです!」
「――っ!い、いいのよ、可愛い息子のお願いだもの私に任せなさい!さ、今日はもう休みなさい」
「はい、母上オヤスミナサイ」
ふぅ。うちの子が可愛すぎてどうしましょう。大好きといって抱き着かれた時なんて意識が飛びそうになったわ……それにしても資金援助か、条件の一つや二つつけてもいいかしらね…。