第8話
フェンリルの子達に誘導されながら村をぐるっとまわって挨拶させられた。どうやらここには狼獣人しかいないようである。村には100人くらいしか見えなかったけど、フェンリルと協力して魔物の侵入を防いでいるらしい。うん、村というより隠れ里といった感じかな。
じいじがいつか「パンを焼いて食べろ」と小麦粉を置いていったらしいんだけど、じいじも誰も作り方知らなくて、今は水で溶いて野菜なんかを入れて焼いて食べてるらしい。お好み焼きモドキかな?
そろそろ帰らないとと思っていると
『ついてこい』
フェンリル様に呼び出されました。
『ここでお前の魔法を見せてみろ。我に通用するものがあるか?』
「わかりました。では炎の矢をお見せしましょう」
左手を上に向けて多めに魔力を込める。ノータイムで蒼炎の矢が3本できあがる。狙いは…もし当たったらまずいのでフェンリルの足元の手前に一つ、右に一つ、左に一つで速度は最高――発射!
パン!――ドガァ!
『……これならドラゴンでも倒せそうだな……よいだろう。帰りは森の出口まで我が子らを連れていくがいい。道案内くらいできるはずだ。ではな』
「ありがとうございます」
と頭を下げたらもういなかった。よし、皆心配してるかもだし帰りますか!
帰りはフェンリルの子達とかけっこしながらたまに樹の上にジャンプして枝から枝にうつったら子供達も真似しだして忍犬みたいになってたよ。俺はズルしてるけど、あんたたちホントに枝の上走ってるんだよね?すごいね。あ!風の魔法使ってるな!なるほど。
しばらくそうして走っていると前方からすんごい魔力がすんごい速さで向かってくる。あ、これは…
「子供達ストップー!お迎えきたからもう戻っていいよ!ありがとね!」
一匹づつ「ワウッ」っていいながら俺の顔をペロリと舐めて帰って行った。さてと…
「カイト!」
「母上、心配かけてごめんなさい」
「怪我はない?大丈夫?」
「大丈夫です」
体中をぺたぺた触られた後、頭を胸元に抱き寄せてくれた。お母さんの子でよかった。でも息が…。
「もう!じいじなんて、たぶんあの里のモノでもみつけたんだろうそのうち見送り付きで帰ってくるからカイトなら大丈夫だなんて言って探しに行こうともしないんだから!」
「母上もあの里のことはご存じだったのですか?」
「ええ、いちおう昔から我が家で彼らの必要なものをこっそり取引してるのよ。でも帝国の奴隷商人が獣人狩りに来るから秘密よ」
「わかりました」
「じゃあ帰りましょうか」
「はい」
……………………
あれから8か月ほど経ちました。あの時は帰りに母上に手を繋いでもらって森の出口まで二人で飛んで帰ったら「あの時浮いてたの目の錯覚じゃなかったんだ」とか呟いてました。見られてたのか…。どうやってるのって聞いてきたので、地面に引っ張られる力を薄くする感じですって答えたら「地面が引っ張る?むむむ」ってうなってましたね。
あと、学校に妹が入学してきて、速攻でバレたので口止めしました!妹は普通に貴族令嬢として入学してきたので、最初のうちはまわりに一目置かれてたけど、そこは母譲りなのか元気に炎を振りまいていたら2.3年生にまで憧れて慕われるようになっていた。
そしてアリシアパパだけど、希少な香辛料にも関わらず、とある商会から大量取引に成功したらしくほくほく顔で帰ってきていた。もうじき届く予定だからまた一緒に食べようねとアリシアと約束した。
「かーくん今日時間ある?」
「うん、大丈夫だよ」
「昨日でっかいイノシシが卸されたらしくて、背油を取っておいてもらってんだ。だから今日は揚げ物に挑戦しようと思います!」
学校帰りにそんなことを言う彼女。もちろんドヤ顔も忘れない。さらにいうと、そのイノシシは昨日の山狩りで小山に君臨してたやつである。
「それってもしかして…」
「そう!トンカツではなくイノシシカツだけど!あとフライドポテトとフライドチキン!かーくん好きだったよね」
「おおー!作ろうかと思ったけど、油が貴重で断念したんだよね」
「うんうん、そうだと思った。上手にできたら背油を大量入手できた時だけの幻の限定メニューにするからね」
「よし、早く行こう!早く行こう!」
そう言ってアリシアの手を引いて走り出すカイト。二人してニコニコしながら駆けていくんだけど、その速さが一般人の全力疾走並みなので、道行く人は目を丸くするのだった。
……………………
「じゃあいくわよ?」
「う、うん」ゴクリ…
サクッ!サクッ!サクッ!
「くぅ~!世界に広めたい、この音!」
「あはは、ただのカツを切り分ける音におおげさだよ」
「そうだけど、そうじゃないんだよ!」
「はいはい、冷めないうちに食べてみましょ」
「美味い!ああ、あーちゃんがいてくれてよかった」
「もう、かーくんったら…」
どれも美味しいのと久々に食べた感動で思わず涙をこぼすと、つられてアリシアも涙し、また二人で泣きながら食べたのである。
ちなみに、またその匂いを嗅ぎつけた行列ができており、急遽限定メニューとして公開することになり、少しの間だけ二人で厨房を手伝っていくのだった。