第12話
――Sideヘレナ
「カイト、迎えに来たわよ」
「母上ごめんなさい。アリシアが出てくるまでここでずっと待ってます」
「そんなわけにいかないでしょう。良い肉体は良い食事からじゃなかったの?」
「今はそれどころじゃ…。僕はいいけど、アリシアに悲しい思いさせたままにしたくないんです」
「じゃあ、夜は手紙書いたらどう?孤児院の子におつかい頼んだり、冒険者に頼んだり、あらゆる手段を使って試してみたら?」
「手紙……そうですね、わかりました」
ということで納得させて家に連れ帰ったんだけど、まずいわね。あの子の結界があんなにやっかいなものだなんて思わなかったわ。あれがずっと維持できるなら、魔物の氾濫が起きてもあの子の周りだけは平気ね。
日中は朝からずっとあそこに行って出入りする人に手紙渡してくれとか会わせて欲しいとかお願いしてるようだけどダメみたいね。あれから2週間経ったけど、すっかり表情も曇ってしまって、まるでデインが陛下に泣付かれて絶望に染まった顔で来た時にそっくりだわ。かわいそうで見てられない…。
商会のほうに私が出向いた時も「誰とも会わないと言っていますので」と言って私ですら門前払いだったわ。困ったわね。
もう王都に出発するまであと5日しかないのにどうしましょう…。
……………………
――Sideカイト
卒業式の日から2週間経った。全く会わせてもらえないし、手紙もたぶん読んでもらえてないんだろう。アリシアの結界に攻撃するような真似はしたくないし。とか思いながら地面に座って俯いてたら足が現れた。見上げると腕を組んで仁王立ちした妹で…
「お兄様にそんな顔をさせるなんて許せませんわ!こんな結界、私がぶち壊してさしあげます!」
「ちょちょちょ、メイ!?ダメだよ!?」
「お兄様どいて!」
「ダメダメ!悪いのは全部俺なんだ、この結界もアリシアも何も悪くないんだ!」
「でも…お兄様が…おかわいそうで…」
そう言ってボロボロと泣くメイ。あぁ、胸が痛む…。
「そうだね、こんな顔してちゃいけないね。兄が妹を悲しませちゃいけないもんね」
「そうです。お兄様はいつもの優しい笑顔でいてくれないとダメです」
「ありがとう、メイ。今日はもう帰ろうか」
「はい、そうしましょう。王都に行く前に私とお母様の飛ぶ練習に付き合ってもらいますからね」
「そういえばそんな約束してたね、わかったよ」
そうしてメイの頭をなでながら帰路についた。
……………………
「カイト!見て!できそうだわ!」
「はいはい、どうぞ」
「いくわよ……」ドシュッ!
「――っ!母上!?」
反発する力に全開で込めたのかミサイルのように飛んで行ったよ。もちろん、慌てて追いかけて回収してきたけどね。
「母上、もうちょっと出力を抑えて下さい」
「む、むずかしいわね…」
「お兄様私はどうですか?浮いてますよ!」
おお、確かに浮いてる…浮いてるけど…。
「メイは魔力込めまくって力業で浮いてるね?それじゃあすぐバテちゃうよ」
「うぐ、やっぱりこれじゃダメですか…」
「なんかメイもドシュッって飛んでいきそうな気がするからこの石ころで練習しよう」
「石ころなら飛ばせますよ?」
「うん、それは魔法飛ばす時のイメージでしょ、そのイメージでやるからドシュっと飛んじゃうんだね。この落ちてくる石を止められるかな?いちにさんはい!」
「むむむ!できません!」
「これを止めれるようにならないと落ちてくる時危ないから自分で飛ぶのやめようね。落ちる時にどういう力が掛かってるのか考えるんだよ」
「はい!わかりました」
「そこでむむむと唸ってる母上もそうしてくださいね?」
「わかったわ」
……………………
ショックで頭から抜けてたけど、王都に行く前にやっておくこといっぱいあるんだった。とりあえず今日は魔道具のことお願いするためにフェンリル様の所に行こう。
「フェンリルさまー!」
『どうした、何か用か?』
「ワウッ!」
「あっちょっと…」
フェンリル様の子達にもみくちゃにされました。っていうかずいぶん大きくなったね?立ち上がったら俺よりでかくて押し倒されたんだけど…。
「それで、フェンリル様、とある特殊な魔道具が欲しいんですけど、エルフについて何か心当たりはありませんか?」
『……ふむ。それなら我が代わりに頼んでおいてやろう。どういうのが欲しいのだ?』
「ありがとうございます!フェンリル様なら言っちゃっても大丈夫そうなんで言いますけど、女神様に結界を作る力を授けられた子の魔力を貯めておいて薬草を混ぜるような時に任意に使えるようなのが欲しいのです」
『なるほどな。……エルフの族長なら何代か前の結界使いにも会っているしなんとかなるかもしれんな』
「おお!よろしくお願いします!さすがこの子達のお父さん、頼りになりますね!」
それまで俺の周りでハッハッハッハッっていってた子達がさっといなくなった。あれ?
『おぬし、頭をかみ砕いてやろうか?』
威圧が凄い…地雷踏んだかもしれん…死んだかな?
『どこからどう見ても我は雌だろうが!この溢れる魅力がわからぬのか?』
「ひいっごめんなさい!すごく魅力的です!私の目が曇ってました!お許しを…」
『……しょうがないやつだ。そんなに魅力的なら種をもらってやってもよいぞ?』
「それはごめんなさい!僕には心に決めた人が…」
『そうか。残念だ。まぁ、魔道具については頼んでおいてやろう。あとはないか?』
「あとはもう何もありません!では帰ります!」
フェンリル様?さっきの冗談ですよね?僕ニンゲンですよ?あれ、人間だよね?
……………………
あとはしばらくできなくなるじいじと模擬戦して勝ったり、一緒に王都に行くことになってるリンの荷物をアイテムボックスに回収したり、解除するまで決して消えないけど優しい暖かさに感じる蒼炎を開発してアリシアの研究所の庭門の両脇に設置してきたり。なんだかんだとバタバタと過ごして今日は王都への出発の日。俺とリンの他にも王都の学園入り目指す子が3人いたので町の出口で拾っていく予定。
「じいじ、もし魔道具ができたらミース商会に届けてあげてくださいね」
「うむ。いつものように里にいってればいいんだろ?任せておけ」
「メイも、俺が抜けた学校を頼んだよ」
「お兄様のようにはいかないですけれど頑張ります」
「母上、行って参ります。何かあったらすぐ連絡下さい。飛んできますので」
「わかったわ。王都には変なヤツもいるから、毒や暗殺にも気を付けるのよ」
「はい、気を付けます。それでは。行こうかリン」
3年会えなくなるだけなのに涙が滲んできてしまう。転生先がこの家でよかったな。この家族が大好きだ。
「アリシア…王都からも手紙送るからね。石鹸作り頑張りすぎて体壊さないようにね」
「カイトさま……」
……………………
――Sideアリシア
かーくんもカイト様もヘレナ様もうちの前まできてたみたいだけど会わなかった。援助してもらったお金返し終わるまでは誰とも会わないんだ。石鹸生産止まったら困るはずだから多少のわがままはゆるしてもらえるよね?
そして今日は王都出発の日だと聞いた。
「お嬢様、素材運んできた者が門の前に蒼い炎があると――」
「え!?それホント!?」
「はい。篝火台の上に、薪もないのにずっと火が灯っていると」
かーくんだ、きっとかーくんだ…!
「これはかーくんの魔法!かーくんみたいな優しい暖かさだ…」
なんとなくそうしろって言われてる気がしたから、私の部屋に篝火台ごと運び込んだ。
「かーくん、冷たく寂しかった部屋が暖かくなったよ。ありがとね。王都で変なもの食べてお腹壊さないようにね」
蒼い炎が頷くように揺らいだ…。
第1章 幼少期 完




