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8話 プロレタリア・イン・ザ・異世界

今回は斧が放たれます

 騎馬集団の中ごろにいた男が怒号を上げ腰に下げていた手斧を抜き、頭上に振りかざした。周囲にいた者たちが慌てて左右に分かれる。斧はハルに向かって飛んでくる。狙いは正確で、ちょうどハルの胸から首にかけて斧は放たれていたが、ザムザが回転しながら飛ぶ斧の柄を掴み取り、ハルには届かない。


 ハルの口から黒いもやが流れ始めていた。空気がねばりつくような感触を持ち始める。馬が動揺し首を大きく上下させながら馬上の者を振り落とそうとしている。斧を投げた男はすでに落馬しもがいている。吐血してできた血だまりがランプに照らされてコールタールのように黒々としている。


「ははっ、雑魚がっ」


 男の苦しむ声とハルの罵声はしばらく続き、男が死ぬと辺りは静まり返った。


「この馬鹿は何がしたかったの?どうしてハルに斧を投げたの?」


 ザムザはそう言いながら死体の頭を踏みつぶした。眼球が飛び出しぽとりと落ちる。


「あの村にその者の妻と娘がいた・・・それを貴様らは見殺しにするどころか・・・」


 女の声は怒りに震えていた。ザムザの頬に刃先をあて少し力を込めては緩めている。理性と感情のせめぎあいがそのまま行為として現れているようだった。血が頬を伝っていく。


「このまま口の中に刃を滑り込ませ、下あごを切り落としてやっても構わないぞ?どうする?」


「どうするって君。そんなことできないでしょ。まず頬を突き破った刃を僕は即座に噛みしめる。そうすれば君の力では引き抜くことも深く突き刺すこともできない。できもしないことを口走るのはやめろ。アホ」


 女の顔が紅潮していくのがわかった。


「つうか妻と娘がいたからなに?女どもはどっちにしろ死ぬところだったんだよ。僕らが到着したときには。すでに。地面に引きずり倒されて、岩で頭を潰される数秒前に集落の門をくぐったんだ。どうしようもないでしょ。そもそもがだね。君らが火種を撒いたのに、なーにを逆上してんの?散らかした玩具は、自分で箱に戻そうね?ね?」


「詭弁を弄するな。女たちも私の部下も、殺したのはその女だ」


 そう言うと女はハルの方を顎でしゃくった。


「顔を焼かれた時になぜ死ななかった?」


 ハルを見ることはしないまま、女はそう続けた。


「はいはい。またその話ですか。えー、まず殺したのは私ではありません。殺したのも殺されたのも彼女たち自身です。また、なぜ自害をしなければならなかったのでしょうか!愛を手に入れたのに!」


「もういい・・・黙れ。言葉を喋って服を着てこちら側の振りをしていても、所詮は蛮族だ。獣と変わらない。今回のことは元老院に報告させてもらう。覚悟しておけ。それでは引き返すぞ!亡骸は回収しておけ!」


「あんたたちも大概だけどね」


 ザムザの言葉を無視し女は馬を翻す。他の者たちに号令をかけ、どこかに去っていく寸前、またこちらに振り返った。


「そういえばお前は誰だ?」


「あ、僕?」


「そうだ」


「彼は僕らの仲間だ」


 ザムザが割って入る。


「お前には聞いていない。怪しいな・・・おい、調べろ」


 女の命令で数人が下馬し俺を取り囲んだ。下着だけになるように言われ、小林多喜二の顔がプリントされたお気に入りのTシャツと短パンも脱ぎ渡した。トランクスにスリッポンという艶めかしい姿の俺をランプの光が照らしている。


「こ、これは・・・」


 短パンのポケットから数本の指を取り出した男は、最初それがなにかわからずランプで照らした。太く長い指であることがわかり、男はしばらく絶句し立ち尽くしていた。


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