# 8 ドブ、チンピラを撃退する
「俺様から金を毟ろうなんざいい度胸だ!このアバズレがっ。痛い目に遭いたくなきゃ黙って俺達の相手しなっ!」
「いやああですぅっ!!」
恐らく俺の出迎えも兼ねて店の前に出ていたであろう、只人の少女の衣服を掴んで破く野郎に――それを近くでニヤニヤした気色悪いツラで見てる野郎がふたり…三人共、わっかり易く傭兵くずれって感じだな。
「この~! ミチョに酷いことすんな~」
「離れろぉ~!」
「ちぃっ! ウザってえ虫共だぜ…」
その周辺を全長30センチほどの虫のような翅を持つ少女達が必死に捕まっている少女を助けようと飛び回るが、ぞんざいにその悪漢の手でベチバチと払い除けられてしまう。
「きゃあ~」
「やられたぁ~」
「フン! 糞フェアリー共が。その翅を毟りとっちまうぞぉ~? おおん?」
そう言って調子に乗ったその男が更に乱暴に少女の髪を引っ張る。
流石にもう見かねた。俺が許せる限度を超えたな…。
「おい」
「…ああっ?」
「ドブさんっ!?」
「おお~! ドブさんが来てくれたぞっ!?」
「へへっ!もう安心だ。あんな軟弱な連中なんぞ、ドブさんにかかれば…指先一つで、ダウンだ」
…おいおい。勝手に盛り上げてハードル上げてくれんじゃあねえよ。皆の衆。
「放してやれ。今なら見過ごしてやるからさ?」
「誰だ、オッサン! 邪魔すんならぶっ殺すぞ!?」
激昂した男がミチョを突き飛ばすと、腰に佩いていた剣を抜きやがった。
――迂闊だねえ。よっぽど自信があるのか? それとも単なる馬鹿か。
どうにも、他の2名含めて後者のような気がする。相手すんの、正直しんどいなぁ~。
「…抜いたな? なら俺に殺されても文句はねえよな?」
「ほざけやぁ!!」
余程、興奮してんのかね。真っ直ぐ突っ込んできやがる。
ま。それもそうか?
こんな冴えないオッサンが武器も持たずに無防備。さらには片手が土産の菓子の袋で塞がってんだもんなあ~。
普通は先ず横槍が入んない限りは楽勝…だよなあ。
*右に2歩ずれると回避・反撃が可能になる:91%*
こんな真正面から大振りの攻撃されたらねえ? 嫌でも躱せるわな。
俺は突っ込んで来た野郎の攻撃を難無くヒョイと避ける。と、そのまま剣を持った腕を空いている手でそっと前に引っ張ってやる。それだけでそいつは大きく体幹を崩す。……こんな奴、うちのB級冒険者の若手で勝てるのがゴロゴロいるぞ? 傭兵っぽい見た目だが腕は二流…いや三流以下だな。こんなんじゃ、単なるチンピラだよ。
俺はバランスを崩したそいつへ流れるような慣れた動作で、この異世界で体得した体術の応用…上半身のバネを活かして鋭い肘打ちを放つ。
それで奴の肘をへし折ってやった。もうこれで剣は持てんだろう。
「うぎゃあっ!?」
「フン…ほぉら、よっ」
俺は続けざまにキックをお見舞いして蹴り飛ばした。軽くな? じゃないと殺しちまう。今日はもう疲れてるんだ…衛兵の詰め所で報告書を朝まで書かされんのは流石に嫌だからな。
簡単に吹き飛んだそいつは痛みでのたうち回って舗装された石床を汚した。ばっちいなあ…。
「こっ…この野郎っ!?」
「動くんじゃねえ」
「「…っ」」
俺は腰のベルトから素早く短杖の1本を抜き、既に魔力を充填済みの魔石が嵌った杖先を三人組へと向けた。
「お前ら程度にゃあ…勿体無いが、1分もあれば――俺はお前らを30回は殺せる。こりゃあ誇張でも何でもねえ事実だぞ? 明日の朝、城壁の大門が解放されたらさっさとこの城下から失せろ」
「「…………」」
*敵対者が退却する:75%*
三人組は黙って俺を睨んでいる。もう一押しか…?
「それとも、潔く俺に殺されるか? お前らの装備を剥いで売れば酒代に……なりそうにねえな。いっそ衛兵に突き出してやろうか? こんな、南方からの払い下げられた鈍らを平気で使ってるくらいだ。牢にぶち込まれても保釈金を払えねえだろう? …そしたら、国法に従って奴隷刑だ。――鉱山で死ぬほど辛い思いして、結局はどうせ惨く死ぬ。が、俺は少なくとその礼金で1杯エールを引っ掛けられるだろうよ。ん? どうするね」
俺は突き付けた短杖をわざとらしくクルクルと手でハンドリングして腰に戻し、更にもう2本の短杖を俺が持っている事を見せつける。
途端に俺の戦力を理解したのか、三人組の顔色が増して悪くなる。
――まあ、実はハッタリだ。確かに俺の持ってる短杖にそれぞれ俺が使用可能なレベルの魔術を用意している。しかし、3本とも移動用とか補助の魔術だけで攻撃魔術のものは無かった。高威力の攻撃魔術が使用できるヤツなんて目の玉飛び出るくれースゲェ高いからねっ!
「…ちくしょうっ! 覚えてやがれっ!!」
「退けぇ!退きやがれっ!!」
最後まで三下のセリフを残して三人組は俺に背を向けて逃げていきやがった。
「はっ! コッチはごめんだっつーの…ハァ~」
俺はくたびれた中年冒険者の息を吐いてから首を揺する。我ながら、実にオッサン臭い。
「わああああああ~!! ドブすぅわああああああああん!!」
「キャー!素敵っ!強いっ!」
「抱いてっ!!」
絡まれて半裸になり掛けている少女と同じ店の従業員であるフェアリー2匹が俺に飛びついてきた。めちゃくちゃ顔が涎塗れになるほど3方向からキスされる。激し過ぎて…全然嬉しくない。何か、小型犬と大型犬に襲われて顔中舐め回されている気分だ。
騒動を見て衛兵を呼ぶかどうか悩んでいた連中も皆勝手に安心して通常営業に戻っていったよ。
「ええぇ~ん、怖かったよぉお~! 攫われて殺されちゃうかと思ったよぉおおお…」
「よしよし泣くな、ミチョ。怖かったな。……ところで、最近雇ったあの凄腕の用心棒はどうした? 何でこんな肝心な時に居ないんだよ。ペコ。ペッツ。何でか理由知らんか?」
「ああ~。あの人…無の日だけはダメなんだってさ~?」
「なんでだろうね~? 部屋から丸一日出てこないんだよぉ~?」
「…ああ。なるほど」
俺には心当たりがあった。その用心棒の正体の見当が既に前からついていたんでな。
それと無の日とはこの異世界の曜日だな。魔術の基礎にして真理でもある七属性になぞらえている。
無が元の世界で言うとこの日曜日に該当する。無・氷・火・水・雷・地・風の順番だ。
「さて、余計な連中は追い払ったし…そろそろ中に案内してくれんかな?」
「はぁい! 喜んでっ」
「ドブさん、ドブさん! 今夜は私達フェアリーと遊んでよぉ~? 偶には良いでしょ~。ねえ~?」
「いや、悪いがサイズ的に無理が……っておいペッツ!? 勝手にズボンの中に潜り込んでくるなあっ!!」
「あ~!狡いよぉ~? ペッツだけ~」
「ほらほら! アムリタの姐さんも待ってるから早く店に戻りましょ~ね」
こうして、俺はやっと目的地の戸を潜る事が叶ったわけだ。もう、普通に寝たいな…。