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# 5 ドブ、失敗する



「ゴクッ…ゴクッ…ハァーッ…」



 俺はレッドエールを喉の奥に流し込み、盛大に唸り声を上げる。



 自分で言うのも悲しいが、完全にオッサンである。いや、悲しい。



 俺が死後、ひょんなことから異世界に転生(生前とほぼ同じ状態で)してから色々あった。そりゃ、色々と。


 最初の一年は兎に角、生きるのに必死だったなあ。なんせ言葉は三日くらいでほぼ完全にコッチの世界の住民とやり取りできるようになったんだが…肝心の異世界の言葉だけはいつの間にか読み書きができるように――なったりはせんかったよ、流石にね。


 元々、こと勉学に関する事だけは昔から大の苦手でな。三十になってから異世界言語を習得するのには不安があったが――俺の居るマロニー西大陸で主に使われている共通言語とやらは思ったよりも他愛ない、平たく言えばパソコンのキーボード入力なんかで使うローマ字に近い文法だった。単語自体も短い言葉が多くて覚えやすかったしな。俺がマトモにその異世界言語をマスター(多分)するまでに要した時間は半年ほどか? まあ、流石に生きる為に必要なことだったからな。


 それと、俺が仲良くなったこの城塞都市シオのドワーフ達からはドワーフ文字なるものも幾らか教えて貰っている。…少しばかり癖のある連中だが、俺は嫌いじゃない。


 ここへやって来た当初は俺の面倒を見てくれたギルドの人間からはやたら只人(――ああ、この異世界の人間とほぼ同じ姿をした種族を指す言葉だな)以外の種族…つまり、エルフとドワーフとの接触には注意を払うように言われていたが。別段、トラブルは……無かったわけじゃないが、それでもドワーフの連中と最初に接触した時くらいだな。エルフは俺が思うに個人主義者が多いってだけなんだろう。偏屈な奴もいれば、やたらと砕けた奴もいる。慣れれば、何てことはない。まあ、エルフに関しては…見てくれが完全に年齢偽称種族だからな。基本的に只人と比較して成人した姿をしてる奴は少なくとも軽く実年齢が百、二百を超えている。なので、見た目に惑わされず礼儀を重んじて当たれば意外と悪い印象を抱く奴は少ない。


 特にエルフと只人の混血であるハーフエルフは結構な数が居る。冒険者家業をしてる者、市民権を得てこのシオで商売をしているものだっている。それこそ、今しがたカウンターにしがみつく俺の為に酒とツマミを用意してくれている冒険者ギルドの酒場のマスター、ゲイルもハーフエルフだしな。一見、生意気にチョビ髭を生やした好青年にしか見えないが既に五十過ぎで、俺が此処に来た当時から一切外見の変わらない人物のひとりだ。



 そうだ。俺は今、多少(・・)…いや、結構疲れているが冒険者ギルドの酒場に居る。


 それも当然、俺は冒険者になったからだ。


 この世界に来てマトモに言葉が通じるようになってから、現冒険者ギルドのギルマス。ディッグマックスに俺が頭を下げて頼み込んだ事は――保護を求めたんじゃない。“冒険者になりたい”と願ったんだ。



 そりゃあ…思った以上に注目の的だったね。なんせ三十過ぎたオッサン。それも実戦経験もない無一文男が冒険者になりたい、だなんてな。


 若い冒険者連中にはそりゃあ笑われたし、ベテランの冒険者からは暗に「馬鹿なことはするな」みたいな思いやりを掛けられたしたしさ? 冒険者志望のガキ共に混じって訓練場で試験期間中(D級)に木剣振ったり、走り込んだりして体力作りしてる時も結構視線が辛かったよ。


 実際の話、ファンタジックな世界で冒険者になるのは大変だったって事が理解できたぜ。


 ラノベのように何でもかんでも上手くいくわけじゃないってな。あと、俺思った以上にオッサンだったし!


 けど、それを望んだのも俺本人だ。誰を恨む事も無い。



 だが、意外なことも同時に判ったんだ。



 案外、俺は冒険者に向いてたんだな?


 年齢的な事もあったのかもだが、基本三ヶ月から半年くらいを目途にしてるD級の訓練期間を俺は最短の一ヵ月で免除。晴れて冒険者としては一端のC級に昇格を果たした。



 流石にモンスターとの戦闘は怖かったが――慣れた。



 転生前の話だが…。田舎出身者は時として、野生動物とエンカウントすることは多々あるし。猟友会などの狩りに同行する機会がある。つまり、俺が実は戦闘民族の出身……ってのは冗談でな。意外と一般人よりは殺生に慣れていたんだなコレが。まあ、流石に山賊・盗賊を相手どった時の――初めて対人戦をした時は…いわゆる“童貞を捨てた”って感じくらいに鬱になり掛けもした。だが、この世界は弱肉強食。生殺与奪の権利は常に戦いに勝った者のみに委ねられるだと無理矢理に飲み込んだ。つまり、既に俺は人殺しだ。非常に不本意ではあるがな…。この世界じゃ、悪者はモンスターだけじゃなかったってことさ。


 ただ、いわゆるオールドルーキーな俺を積極的にパーティに入れてくれるとこなんてない。まあ、一部のパーティのリーダーが何故か訓練場で俺と手合わせしたのを切っ掛けに俺を気に入ったみたいでな。良く絡まれるようになったんだが、基本はソロ活だ。基本的には安全でかつ競争相手の少ない…つまり汚れ仕事だな。誰もやりたがらないようなしょっぱい仕事を敢えて受けて確実に熟すように努めていた。


 だが、半年くらい冒険者してたら急遽ギルドに呼び出されてB級に昇格しちまった。


 別にこの世界にレベルやらステータスはなさそうなんだが、俺は確実に強くはなっている。元々、運動は嫌いじゃなかったし、筋トレも真面目にやってっけど。その辺は新しい俺の身体の仕様なのかね?



 話を戻して昇級の件だが。なんでも、塩漬けにされていた依頼を率先して請け負う俺は想像以上にギルドから、そして同業者からの評価が高かったようだ。俺のとある目的を果たす為にあんまり目立ちたくはなかったんだがなあ…。



 ま。そっからは俺も歴とした冒険者ドブとして――別に悪口じゃあないぞ? 何か知らんが、ドワブって名前(単純に初日の言語誤変換の影響のせいでその名前になったんだが)はドワーフ的な意味合いで良くない言葉らしいんでな。基本は、ドブって呼ばれることの方が多くなっちまったんだ。


 冒険者の端くれとして俺は周囲に認められることになったわけだな。



 ――それから十年経っちまった。



 時間の流れって三十超えるとあっという間だよね? 本当に怖いわあ~。


 俺は今や四十路のB級冒険者だ。変に名前だけ売れて独り歩きしてるだけのしょぼくれた中年冒険者になっちまった。



「失敗したなあ…」


 

 

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