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# 3 三十路男は、名を改める



 異世界で新しい人生(ニューゲーム)を開始した直後に――まさかの強制連行とは。このまま俺は牢屋か何かにぶち込まれてしまうんだろうか? トホホ…まさかの序盤の負けイベントだな。



 と、思っていたんだが…。



 物々しい装備に身を包んだ兵士らしき人達に前後をサンドイッチされた状態で道順を半ば強制的に促されながら実に幻想的な光景(まあ今の俺には現実なんだが)の城下らしき場所を進む。


 ただ、縄で腕を縛られたりもしなかったし、唯一の俺の得物であろうダガーも軽く検められただけで返却されている。


 ……よく判らん展開だな?


 しっかし、城壁の中は面白かった。


 先ず、思っていた以上に人が多い。俺は元々田舎の出で、多少都会で揉まれた慣れていたとは思ったんだがな。今の俺はキョロキョロと周囲に目移りする、すっかりオノボリサンになってんだろうなあ。


 基本は人間ばかりのようだが…チラホラと容姿の異なる存在も確認できる。


 昨今の特殊メイクやCGをフル活用した映画で見掛ける種族…つまりはエルフやドワーフである!


 うわっ。デッカイ犬か狼か何かかと思っていたが、ちゃんと鎧を着込んでズボンも穿いてる者もいるようだ。いわゆる獣人って奴なんだろう。すげぇ~。



「おお~…っ!」

「…?」



 急に俺が声を上げたもんだから、後ろの兵士さんに怪訝な顔をされてしまった。すいません。



 だが、やはり俺が兵士に囲まれているのも手伝ってか俺はそこ行く民衆の注目の的だ。


 まあ、全然嬉しくはない。気分はニュース番組で報道されるパトカーに詰め込まれる逮捕者だ。きっと、こんな気持ちだったんだろうなあ…。俺は無罪だっ!



 が、よくよく伺えば。珍しいもの、面白いものを見るような視線を向けてくる者が大半なのに対して、恐らく人間以外の少数。多分エルフ・ドワーフ・獣人からの視線は鋭く感じた。暫定エルフの二人組はヒソヒソと言葉を交わした後に立ち去り、暫定ドワーフのヒゲモジャ達はあからさまに眉間に皺を寄せて俺を見ていた。獣人は…よく判らん。ただ怖い顔だなあ~っと思った。(小並感)



 そんな感じで大門から大きな通りを三十分ほど歩いたかな?


 この街の中心部…つまり遠目に見えていた城に近付いているわけだが、またもや街を囲む壁が見えた。


 ふむ。あんまり建設の知識に疎いが、二重の城壁で城下が二分されているらしい。内壁は外壁と比べて低いし、物見櫓みたいな場所も見渡す限りなかった。そもそも入口付近に常駐している兵士の数も少なく思えた。



 そんな風にボヤっと歩いていたら急に前を歩く兵士が足を止めて振り向くので俺は危うくつんのめりそうになった。



 どうやら目的地に着いたようだ。



「XX、着いたぞ。XXXXのXXXギルドだ」

「はあ…」 



 相変わらず全ての言葉を変換することはまだ叶わないが、幾分か移動中に周囲から聞こえる声を拾って異世界翻訳機能のセットアップが進んだのか? さっきよりはスムーズに声が耳に入るようになった…っぽい。



 仕方なく、兵士に連れられて建物の中に入る。今迄見て来た建物の中じゃあ一番デカイ建物だな。



 中に入ると未知の世界へと足を踏み入れた事への感動と興奮が――半分…。


 もう半分は後悔だ。


 建物の中は険呑な雰囲気を醸し出す武装したむさくるしい男共の巣窟だったのだ。



 …なるほど。コレは、アレだな?



 ――いわゆる冒険者ギルドってヤツじゃないのか。



 内心ビクビクだったが、値踏みするような視線を四方八方から浴びながら奥のカウンターへと連れていかれる。



 そこにはまだ中学生くらいの女の子がカウンターでたどたどしくも接客を行っていたのだが、俺を連れて来た兵士が声を掛けると慌てて二階へと走っていく。ものの数秒で息を切らしながら戻ってくると見てるコチラが心配になる状態で俺達を二階へと案内してくれた。



 二階へと昇ると、その一室に通される。結構値が張りそうな調度品やどっから見ても地球には存在しないクリーチャーの剥製が飾られていた。


 室内には四十代・五十代・六十代と個性豊かな重鎮然とした人物達がクラシックで高級そうな木彫テーブルと椅子に既に腰を落ち着けていた。


 俺も兵士の一人に椅子を引かれ座る様に促された。



 数分間その人物らにジロジロヒソヒソとやられていたが、中央のこの中では一番若い(つっても俺より一回りは歳がいってる)ガッチリした体格にこの異世界特有らしきスーツのような衣装に袖を通す男が口を開いた。



「XXは?」



 多分、何か聞かれたんだろうが…答えられない。恐らく俺の素性を訪ねたとは思うんだが。


 すると今度は隣に座っていた婆さん(推定60代)からこんな言葉を掛けられた。



「――ドワーフか?」



 今度はハッキリと認識できた。この異世界に訪れてから初めてまともに聞けた言葉だ。



 が、それが…その第一声がこの質問とは……泣けるぜ。



「俺は……俺は“ドワーフじゃねえっ!?”」



 ちょっと失礼過ぎる(まあ、別に俺はドワーフに対して不満も差別意識もないんだが…)質問に対してちょいとイラっときたんだろう。俺は強めにそう返してしまった。



 そしたら、室内に居た連中は目を剥いて黙り込むという劇的な反応を見せやがった。


 何を驚いてんだ? 本気で俺をドワーフと思ってたのか?



 連中はバツの悪い表情で互いに顔を見合わせていたが、やはりこの場で一番の発言力があるのだろうか。俺と真正面の位置に座していたゴツイのが手を上げて落ち着かせる。


 そして、奥の棚か何やら文字が書かれた紙(なんか羊皮紙ってヤツか?)と羽根ペンとインク瓶を取り出して俺の前に置く。



「XXXX……あ~。書いてくれないか」



 そう言われても俺は異世界の言葉も完全でないし、もっと言えばこの世界の詳細な文明なり歴史は正直全然知らん。その辺も女神様はノータッチだった。『――まあ。ちょっと慣らす時間が必要ですが、最低限の会話は直ぐにできるようになるでしょう』とのことだった。即ち、それ以外は現地での努力でどうにかしろってこった。何てこったい。



「……悪いが。文字が書けないんだが」



 そこは「何を書けばいいの?」が正しかったろうが、俺は馬鹿正直に字が書けないと発言してしまった。


 結局、再度目を剥かれて驚かれてしまった。だが、落ち着きを取り戻してくれたもう一人の白髪交じりの線の細い男が俺の代わりに代筆してくれるらしい。助かった…。



「…………」



 だが、その表情は渋い。何故?



「本当に、さっきの言葉通りで良いのですか?」



 またもや質問の意味がよくわからないが、これ以上こじれるのは嫌だったので取り敢えず頷く。男は何か不憫なものを見るような眼で俺を見やった後に小さく息を吐いた後、手元の羊皮紙にペンを走らせた。



 で、次の日になって判ったんだが。


 どうやら、それは俺の名前だったらしい。どうやら俺の言葉もアッチにとってはチグハグに聞こえていた可能性がある。どう変換してそうなったのやら…。



 そんなわけでこれから名乗る俺の新しい名前は――いや、一応は生まれ変わったから。改名じゃないのか?


 

 俺の名は――“ドワブ”になった。



 

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