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# 23 捜索隊 その3



「――久し振りだな? スキャンプ」

「エヘヘ…丸顔の旦那も変わらずに――ヒック。…お元気そうで」



 口から泡が湧きそうなほど酩酊状態に見える(・・・)…異色の剣士。黒の和風というよりはどこか異国のエキゾチックさを持った着流しの下にはチェインシャツを着込んでいるのが見て伺える。


 そして着流しの垂れ袖に隠すようにして柄頭に磨かれた魔石を嵌めた曲刀――ジャンビーヤを二本佩いている。


 …が、本当の得物は背中の妙に捻じれてひょろ長い瓢箪の()か。



 だが、フラフラと近寄ってくる酔っ払いに対してズイと前に出る影が二人。


 まあ、トリダンゴの奴と…シラタキか…。相変わらず喧嘩っ早いんだよなあコイツら…。



「失礼だが…先ほどから先生に対して些か礼を失しているのではないのかな?」

「なんダァ~? テメェー…まさカ、こんな昼間っから酔っ払ってんノカ?」



 そして、即座に初対面の相手にメンチを切る二人。お前ら…実は仲が良いんだろう? そうなんだろ?



「…ヒック。おっとっと…そう怖い顔をしないでおくんなさいや? アッシはどっちかと言うと~――ヒック。美人でも気の強い女より…お淑やかで優しい女性の方が好きでしてやしてね。…それに――ヒック。いやあ、すいやせんねえ…オッパイや尻がデカ過ぎるのもちょっと…ね…? ――ヒック」

「…っ! 何を言う…?」

「グヌヌ…ッ」



 完全に表情に影が差すほどキレ顔になったトリダンゴ。それと引き換えに意外と初心なシラタキの奴がスキャンプに自身の身体を弄られて顔を赤くして両者共に得物に手を伸ばし始めてやがる。てか、沸点低すぎだっつーの!?



「…勝手してんじゃねーこの馬鹿共っ」

「痛っ!?」

「キャン!」



 俺は席から仕方なく立ち上がり、俺の前で勝手に殺気立つトリダンゴにゲンコツを喰らわし、シラタキのケツを引っ叩く。…てかシラタキもよぉ、そんな気になるなら…いい加減ちゃんとした服着ろよ!



「純粋に得物での勝負ならハッキリ言うが――お前らに勝ち目はねえぞ?」

「「っ!?」」

「……。イヒヒ…――ヒック。そりゃ丸顔の旦那の買い被りが過ぎやすぜ? アッシはしがない準A級ですよ? 天下のS級冒険者様になんて…とてもとても…」

「…ほぉ~?」



 俺の言葉にトリダンゴとシラタキの奴は目を白黒させてやがる。まだまだ相手の力量を見極めるのが甘い証拠だなあ~? まあ、どっちも…特にシラタキの奴は対人戦の経験が少ないからしゃーないが。トリダンゴの奴はもちっと気合いを入れるべきかもしれん。何事も油断大敵――だな。



「……っ」

「……なるほどねぇ」



 俺は不意に腰を落として腰の小剣の柄に手をやったと同時にスキャンプも瞬時に構えを取った。…流石だな。



 *武器攻撃が成功する、もしくは相手からの武器攻撃を回避する:37%*



 …コレはかなり分の悪い勝負になる、と言えるほど低い確率だな。


 俺も純粋に剣術ばかり修行してた訳じゃねーが…初見でこの結果はなかなか無いぞ?


 少なくとも数年前、真っ当に剣士として立ったスキャンプを相手した時は少なくとも五十は固かった。



「…腕を上げたな? 俺の知らねえ構えだしよ、何処で習ってきやがった?」

「……。…ウへ。ウヘヘ…やっぱ、丸顔の旦那にゃあ敵わなねえなぁ…」



 俺はニヤリと笑いながら右手を出し、スキャンプは真剣な表情から元のニヤケ面に戻って俺の右手を握り返した。



 こうしてテーブルには総勢7人の人物が現在腰を落ち着けている。


 俺ら“金獅子”以外の面子はベルガモンタとスキャンプの二名。まあ、どちらも普段あまりギルドに長居しないの物珍しいのだが、兎に角…このスキャンプの奴がまあ目立つこと、目立つこと。


 スキャンプは特徴的な耳の形から判別できるがハーフエルフの男だ。そして黒の着流しに双剣。背中に馬鹿長い瓢箪のような入れ物を担ぎ、髪型は……なんというか世紀末というかデスメタルバンドのように逆立った白髪のネギヘッドという奇抜な様相に加えてだ。その肌色は異常なほどに青い。純粋なエルフは色白に青味を帯びた肌だが、混血であるハーフエルフはほぼ只人の肌色というのが常識だ。だが、スキャンプはどういう訳か真っ青なのだ。むしろ、そういう類の亜人種ではないかと思えてしまうし、恐らく酒場でコイツを見慣れぬ者達は亜人だと思ってるんじゃなかろうか。


 無論、スキャンプの奴がこんな肌色してるのには理由がある。


 が、別にそれは今は重要なことじゃあねえな?



「あの~…ご注文は~?」



 恐る恐る酒場の給仕女がスキャンプに尋ねる。



「……ヒック。ん? ああ、すまねえがアッシは酒は苦手(・・・・)なんだ。悪ぃね?」

「「……はあ?」」



 給仕女だけじゃなく素性を知らない俺とベルガモンタ以外の連中の声が重なる。まあ、こうなるとは判ってたが…。



「あ~…悪いな? そう長居もしねえからさ。また今度、な?」

「…む~。ドブさんがそう言うなら…今度は一杯注文して下さいねっ」



 何とか手を振って真面目に働く彼女をテーブルから追い払うと俺達はテーブルで頭を突き合わせる。



「そんで…どうするね? 一応、ベルガモからあらましは聞いてるし…移動に関しても概ね想定通りにいくつもりで俺はいる」

「ありがてえ…! ――ヒック。改めて、森の旦那にもまた(・・)迷惑掛けちまうが…アッシはお二人にゃ何の礼も返せていねえってのによ…」

「いいんだよ、スキャンプ君? 僕達もバテイラ君とはそれなりに長い付き合いだからさ。そうだろ?」

「…ああ」



 ひょうひょうとしたスキャンプが堪らずといった様子で目頭を押さえる。



「先生、僕も同行しますからね。……いえ、訂正します。僕()も、です」

「お前ら…だがなあ…」



 今回は完全にギルドの規定外の私的な行動になる。それこそS級パーティが身勝手に動けば何かと問題行為として上げ足を取られやすいんだがなあ…。



「…ん。大丈夫」

「メンツユ? 何が大丈夫だってんだよ」

「…許可は取った」



 メンツユがいつの間にか俺の膝の上に降ってきやがったかと思えば、いつもの無表情で酒場の二階へと目線を向ける。俺もそれに釣られて二階を見れば、手擦りから疲れた表情でコチラに手を振るギルマスの姿がった。


 …ん? その領隣りに変に気配の薄い連中が居る。



「お前…さては盗賊ギルドに口を聞いて貰いやがったな?」

「…ん」

「ルッツ…私が偉そうに言うことでは無いかもしれませんが、それは…どうかと思いますよ?」

「…そう?」



 本当に恐ろしい小娘だ。いや、そう俺と変に気合いを入れた盗賊ギルドのジジイ共がそう育ててしまったんだがな…。



「さて、当初は俺とベルガモとお前だけの三人だけの捜索隊だったが――…余計な(・・・)戦力が四人分増えちまったが。構わねえかな?」



 俺が膝の上からメンツユを降ろしつつそう言うと、スキャンプの奴が「ヒック」と噦りしながら黙って席を立つ。…何をする気だ? と思って様子を見てると急に俺達の目の前で土下座しやがったので俺も面食らっちまった。



「お、おい! 何もこんな場所で――」

「――ヒック。お願いしやす! あの時(・・・)…生きる価値も何もねえアッシを救ってくれた旦那方は命の恩人だ。その恩を…――ヒック。一度だって忘れたこたあねえ…! だが、バテイラ(あに)ぃはマトモに身動きすらできねえアッシを二年も家で世話してくれたんだ。――ヒック。…どうか、御頼み申しやす!アッシの一生に一度の願いだ……一緒にバテイラ兄ぃ達を探してくだせえ」

「「…………」」



 スキャンプの奴はきっと泣いていたんだろう。まあ、土下座はやり過ぎだと思うがな?



「……おい。やっぱりあの気色悪い青色の奴――“酔剣(ドランク・ソード)”じゃあねえのか?」

「本当かぁ~? 単なるドブの“震剣”にかこつけた噂なんじゃあねえの?」



 近くに居た冒険者達がスキャンプの背になる長瓢箪を見て何やらヒソヒソと言ってやがったが…まあ、別にどうでも良いこった。



「…お前の気持ちは解った。さ、今は時間が惜しい。さっさとワープゲートまで行くぜ」

「――ヒック。……へい。ありがとうごぜいやす、旦那」



 俺達は地面にへばりついた酔っ払いを引き剥がして酒場を後にしたのだった。



 

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