# 20 ドブ、後の勇者を拾う
今回から週1・2話の更新となりますが、
引き続き拙作をよろしくお願いいたします。
<(_ _)>
窓から夕陽が差し込む一室。
その簡易寝台の上にひとり、体育座りをして黙り込む者が居た。
“勇者”トリダングレオである。彼女はその日に急遽執り行われたドブとの木剣による稽古(あくまでも当人らはそう言い張る)で過度に自身の魔力量を使ってしまった為、体調を崩し女性冒険者用の個室に運び込まれていた。
過度…と言うのも少し齟齬がある。
――致死量。
本来凡庸な者が彼女ほどの魔力量を消費したならば…まず間違いなく重度の魔力欠乏症に陥り命を落としていた。そんな綱渡りの戦いを彼女は平然とやってのけたのだ。――この世で自身が最も尊敬する“師”と互角に剣を交わす為ならば、彼女はどんな代償でも払う。そんな危うげにも映る人間だった。
何処からか大笑いしながら騒ぐ声が窓から入って彼女の耳を擽る。その雑多な男共の声の中から最愛の存在の者の声を聞き取る度、彼女は無意識に微笑んでいた。
そんな折に部屋のドアが遠慮がちにノックされた。
「どうぞ…構わない、入って来てくれ」
「失礼します――レオさん、身体の調子は如何ですか?」
赤い斜光が入る部屋に入ってきたのは“勇者”と同じパーティ“金獅子”に所属する“聖女”シャクティアポアーズである。
「問題ない。…ありがとうポアーズ。君の神聖魔術のお陰さ。だが、君こそ大丈夫なのかい? 僕に使ってくれた<パワー>は、傷を塞ぐだけくらいの効果しかない<ヒール>と違って――体力や魔力を主に回復させる。修道士級神聖魔術とはいえ、術者にはかなりの負担を強いると聞いたよ?」
「御心配は無用です。私は女神からの賦活の加護を単に分け与えているだけですから」
ポアーズがトリダングレオに微笑み返すと、やっと思案顔の彼女も小さく息を吐いて破顔する。
「レオさん、もう良い時間ですし…一度、御屋敷に帰りませんか?」
「ん…そうだね。僕はもう戻ることにするよ――けど、ポアーズ。君は良いのかい? 先生達は声から察するにまだ酒場で騒いでるんだろう? 僕ならひとりで帰れるよ。君のお陰でそこまで消耗してないから」
「えーと…その…なんて言えば良いのか…」
何故か途端に顔を赤らめてしまうポアーズの様子に小首を傾げるトリダングレオ。
「ここに来るまでは先生達と一緒だったんだろ? それに君の信仰する女神は楽しい酒には寛容なはずだったと思ったけど…」
「い、いえ。教義的には問題ありませんよ? 私もラウール卿…あ。ハボック様からワインを一杯頂きましたから。……その、ドワーフの方々が先程急に服を脱いで踊り始めてしまいまして。それに釣られてか、他の男性冒険者の方々まで…その…はい……」
「…あぁ~? それで堪らず退散してきた訳か。全く、ドワーフの連中は下品で困るね。まあ、先生を除く周りの男達もだけど。本格的に酔いが回るといつもアレらしいよ。――君は知っていたか? ドワーフの連中は仕事の大詰めになると裸になって鍛冶作業をするらしいぞ? 幾ら種族的に火に強いからって正気の沙汰とは思えないよね」
「あはは…その話は私も司祭様から聞いたことがあるかもです。寺院にはお酒関連で結構ドワーフの方々がちょくちょく訪れますから…」
「そう言えば、ルッツとシュラは? …ああいや、デカイ方は言わなくても良い。もう判るよ」
「クスッ。ええ、シュラはドワブ様達と一緒に飲んでいますよ? ルッツも残って様子を見てくれるそうです…――屋根裏から、ですが」
「なら安心だ。シュラの奴が酔った勢いで暴れ出しても…まあ、先生が何とかしてくれるだろう。けど、ルッツが居ればあの馬鹿力の無力化は容易い。後はルッツが僕達の家に引き摺って連れ帰ってくれるだろうね。先生のお手を煩わせることもない…」
それから少しの間、他愛のない会話が続いていたのだが…ふとシャクティアポアーズが視線をトリダングレオに戻せば、彼女は物思いに耽るかのように夕陽が沈んでいく光景を窓から眺めていた。
「……今の僕は――心ここにあらず。って感じかな?」
「いえ。…レオさん、何か考え事ですか?」
「ん~…そうだね」
彼女の瞳に反射する赤い光が黄昏色へと変わっていく。
「――昔のことを思い出してたんだ。…先生に初めて出会った頃を、ね。……あの時も…こんな夕暮れだったな」
トリダングレオは過去の記憶を思い出していた。
まだ“勇者”などとは程遠いほど弱く、情けなかった自分を…。
そして、そんな自信を失くし絶望していた自分に手を差し伸べてくれた男の姿を…。
それは今から九年と幾月ばかりか昔の頃。その時もこのような夕暮れでの出来事であった――。
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「よお。ロース嬢、依頼終わったぜ。精査頼むわ。あ~と…依頼報酬はいつも通り、ギルド預りにしてといてくれ――それと、悪いけどもうちょっと稼ぎたいんだよなあ。ギルマスに内緒でちょっと適当な依頼を見繕ってくんないかなあ~? 頼むよ」
「ドブさん…っ!」
俺は請け負った依頼を済ませて冒険者ギルドに来ていた。
もう日が傾いていたのか? 気付かなかったな。
…冒険者になってもう早いもんで三年目だ。もう色々と手慣れた頃で依頼を熟すスピードも上がってきている。
金も順調に貯まってきているし、出来ればこのペースを維持していきたい。
「……イヤ、ですっ」
「え?」
だが、何故かこの冒険者ギルドのギルマスの一人娘で、今年成人したばかりの看板受付嬢であるベルロースが――俺が掲示板から剥がしてきてカウンターに置いた依頼書を引っ手繰った。
…何だ? 何か機嫌をそこね――彼女の眼には涙が零れんばかりに溜まっていた…。
「ドブさん無理し過ぎですよっ!? 毎日毎日…何件もの依頼を受けてるしっ!月初めにはボロボロになりながら郊外のダンジョンに潜ってるじゃないですか! このままじゃ…このままじゃ死んじゃいますよっ!?」
そう叫ぶとボロボロと涙を零して彼女は奥へと走り去っていってしまう。
「…………」
俺はただ茫然として立ち尽くしてしまう。何故? ロースは…彼女は泣いていた?
俺がふと周囲を見渡せば、ギルド職員からは哀れみの視線…同業の冒険者からは厳しい…または哀しいものを見るような視線を向けられていることに気付いた。
何でだ…?
「おう!ドブっ!」
「ぐぼほっ!?」
俺は声を掛けられたそのままに殴り飛ばされた。
その衝撃で近くの花瓶が地面に転がり叩き割れる音が静まり返ったギルド内に響く。
殴ってきたのはクソハゲ…いや、違った。泣いたロースとは似ても似つかない実の父親である、冒険者ギルドのギルドマスターにして元S級冒険者であるディッグマックスがカウンターの奥から仁王立ちで俺を睨んでいやがった。
「今のは俺の大事なロースを泣かせた分だぜ? ――ったく、酷ぇツラしやがって! まるでゴーストに憑りつかれたみてえだぜ。ドブよぉ…最近、一度でも鏡でテメエのツラ拝んだかよ? あの“ラウール卿”との模擬試合で全勝してるお前が本調子なら…俺のパンチくらい余裕で避けれたはずだろうが」
「………っ!」
俺がふと磨かれたギルドの床にぶちまけられた花瓶の水を見やると――そこにはまるでこの世界に来た時は別人のように痩せこけ、険しい表情になった俺が映っていた…。
「ここ最近のお前の様子がヤバイってなあ。もう何人も俺のところにその話を持ってきやがる。…他のギルマスからは“最悪、依頼を取り上げたりダンジョンに出禁にしてまでもドワブを休ませろ。このまま放っておけば…身も心も壊れる”ってな。冒険者ギルドに関係ない奴まで俺の所に怒鳴り込んで来やがる…ドワーフの連中は勿論、あの色っぽいハーフエルフのネーチャンまで押しかけるもんだからよう。危うく俺の嫁さんに勘ぐられて家でボコボコにされるとこだったぜ…?」
「アムリタ…」
俺は急に力が抜けてその場に座り込んじまったよ。
いや、もう生きる気力も無い――大袈裟かもしれんが、本気でそう思ったよ。だから、寝る間も惜しんで兎に角依頼を熟して…気を逸らしたかった。……あの出来事を忘れ去りたかった。
なあ? 女神様よ?
まだ、俺の声が届くならよ。俺の記憶を今すぐにでも、奪ってくれ…全て。
それともいっそ、何も感じなくなるように心を砕いてくれ…頼むよ…っ!
「…………」
「……。なあ、ドブよ? 何度も話したが、あの件についてはお前は何も悪くねえ。それは皆が認めてる。下手すりゃ――もっと大勢の犠牲が出たんだ。それをお前らの“パーティ”が命懸けで回避してくれたんだぞ? それに、アルガフとティークはお前のお陰で助か…」
「アレで助かったとでも…? 一生癒えない重傷を負ってか? アルはA級になれる男だった…。ティーの奴はもう魔術を使えないっ!! 二人とも冒険者生命は絶たれたっ!! 俺の判断ミスでだぞっ!? それに…それ…に……っ!!」
「ドブ……」
俺は凄惨な記憶がフラッシュバックし…昂るままに吠えた。
涙が出そうになるのを…まるで、叱られた子供みてえに歯を喰いしばって必死に耐えた。
そうだ。俺が必死こいてダンジョンに潜るのもその二人をどうにかして元の姿に戻してやりたかったからだ!
「なあ、ドブ。落ち着けよ? もし、お前に何かあったら――誰が一番気に病むと思ってやがる。その二人に決まってんだろ? お前は自分の命を軽く思い過ぎてんぞ…」
「…………」
瞼の裏に…最後に見舞った仲間二人の笑顔が浮かんで、俺はただ黙っているしかできなかった。
そんな痛々しさだけが残る場面に突如、何者かが放り投げ出されて来た。
「うぎゃうっ!?」
「…チッ! もう来んなっつったろーが!」
奥の通路……訓練場へと続く通路から飛び出してきたのは少年だった。
元は仕立てが良さそうな服だがすっかり擦り切れ泥に塗れてボロボロ。髪もプラチナブロンドだが埃だらけでボサボサ。オマケに痩せこけていた…ヒョロヒョロでガリガリだ。
だがその背には不釣り合いなほどの大型剣、いわゆるバスタードソードを背負っていた。
この剣は一応片手でも使えないことは無いが…基本は両手持ちで使うんだろう。刀身の長さも1メートル前後はあるぞ? それに、重量的にもこんな見た目が10歳かそこらの子供が枝のようなその細い腕で満足に振るえる代物じゃない。
「おいおい…バテイラ。何、空気読まずにガキいじめてんだよ?」
「うげっ…ギルマス? てか、ドブまでいんじゃねーか! ったく参ったなあ~」
ガリガリとボサボサの髪を掻く男はバテイラ。俺と同年代の準A級冒険者で“渦”という冒険者パーティのリーダーだ。ちょいとガサツでぶっきらぼうなところもあるが…本来は面倒見の良い奴なはずだ。
「…僕はまだ、まだやれますっ! お願いします!冒険者になりたいんですっ!!」
「……あんなあ? 俺だって意地悪してる訳じゃあねーんだ。取り敢えず、ギルドの取り決めで三ヶ月の間訓練所に入れてやったがな? お前は冒険者に――向いてねえ!」
少年の背景に一瞬落雷が落ちるのを幻視しちまったぜ…。だいぶ疲れてるみてえだなあ~。
「な、なんでですか!?」
「ナニもコレもねえんだよ。お前、マトモに木剣も振るえないしよお。弓も槍もダメ…体力作りの走り込みも何も…他のガキ共と比べて話にならん。フツーの女の子でも端から5週はできんぞ?」
「…………」
走り込みねえ…。この冒険者ギルドの基礎訓練だが、訓練場はほぼほぼ正方形で外周の一辺が丁度百メートルくらいだから1週で四百メートル。それを試験期間であるD級は最低でも10週を最低ノルマとさせられる。まあ、前線の体力上等な冒険者だと全力でその倍は走れるが。それでも4キロだ。それも最低限の装備(重さ二十キロの背嚢や武器とか軽鎧とか)を付けて走るから正直普通のマラソンとかよりもキツイかもしれんな。この異世界の子供は逞し過ぎるぜ…。
が、確かにこんなか細い少年じゃあ無理があるな…。
どうやら、この少年は訓練場でD級を任されていたバテイラ達に足切りされたみたいだ。
――C級冒険者にすらなれないと判断された“冒険不適合者”の烙印を押されちまったわけだ。
「何で――そこまでして冒険者なんかになりたいんだ?」
「…え?」
「お、おい…ドブ」
「冒険者になんかなっても大して良い目になんて遇えんぞ? それこそ常に生きる死ぬか…ここぞという時には誰も助けちゃくれん。その先に待ってるのは、ほんの僅かな成功か――惨めに死んでいくか、だ」
俺はいつの間にか立ち上がってフラフラと、その少年の後ろまで近寄ってそんな言葉を口にしていた。
いや、もしかしたら過去の自分に向けて言ってるだけかもしれんな…。
だが…少年は少し怯えたような表情でオドオドしていたが、その赤いスピネルのような瞳がギラリと強く俺を睨み返した。まあ、そこまでコッチも脅したわけじゃなかったんだが。
「僕は…っ! 僕は“S級”冒険者になりたいっ! そして、僕を…僕を追い出した奴らを見返してやりたいんですっ!!」
「「…………」」
少年の叫びによって訪れた静寂。だが、誰かが漏らした嘲笑が一瞬で場を染め上げる。
無理。不可能。所詮は夢見るガキの戯言と嗤っているんだろう。
――だが、目の前の冒険不適合者と見なされた少年の瞳は揺るがない。例え、その身が嘲笑で震え…羞恥で涙が零れそうになっていたとしても…。
…………。
「手を…」
「え?」
「手を見せてみろ」
俺は何故かその言葉が出た。かつて――こんな俺を迎え入れてくれたパーティの仲間…アルガフにやったように。俺は恐る恐る差し出される手を取ってジィっと見つめる。
弱く力の無いまるで女の手のようだ…。だが、その手は傷だらけだ。掌のアチコチに痛々しいタコができてしまっている。
*S級冒険者への昇級:91%*
*魔術適性・全属性:99%*
*魔術適性・光属性:55%*
「………っ!?」
俺は目の前に現れた鑑定結果に目を見開く。驚いて声にならんかったぜ。
「あ、あの…」
「なれるぞ。S級に」
俺は少年に向ってニヤリと笑い返すが、当人はポカンとしたままだった。まあ、そりゃそうだよな。
「おいおいおい!? ドブっ! なんて余計なこと言いやがる! ……。あ、あのなあ…変に期待を持たせんのがいっちゃん酷いだろーが?」
「いいや。俺の言った通りになるだろーぜ。――きっと、お前さんの鍛え方が悪かったんだろうよ?」
「こ、コイツ…っ!? 俺はもう知らねえぞ! …知らねえからなっ!? ギルマスに泣きついたってもう遅ぇーぜっ!」
バテイラの野郎は顔を真っ赤にして憤慨し、訓練場の方へと帰っていっちまった。
…まあ、なんかスマン。アイツなりの不器用な優しさだったんだろう。
「ギルマス。悪いが、依頼は暫く受けられなくなっちまった。コイツをちょっと鍛えてやんなきゃなんなくなったんでな! まあ、三ヶ月もありゃ結果がでんだろ。…それとコイツは、俺が貰ってくぞ?」
「お、おい…そんな犬か猫を拾ったみてーに言われてもよお?」
ギルマスが頭をツルリと撫でて目を白黒させてやがる。
「お前…名前は?」
「ふぇ!? あ、僕の名前は…トリダングレオ・………です」
「ん? 何か変な間があったな? まあいいや。あ~…? トリダンゴだったか?」
「ち、違います! 僕の名前はトリダングレオです!?」
「ふむ、分かった。まあ、良い。これから暫くよろしくな? 俺はドワブだ……トリダンゴ。兎に角、その汚ねえ恰好をどうにかすんぞ。それから飯だ! お前ガリガリだからな! そんなんじゃあ必要な力もつかねえからよ。ほれ!俺に追いてきな」
「僕の名前覚える気ないでしょ!?」
何とも口だけはピーピーと煩いガキだった。
まあ良い。何やら俺の気が変わった…それが良いか悪いかは解らんが。それでも新たな目標ができた。
そう、思い出したんだ。俺がこの異世界に何の為にやってきたのか――。
「うっ…ぐすっ…」
「……。俺が悪かった…そう泣くな。もう過ぎたことだろう…」
それから俺が冒険者ギルドの隣で借りている冒険者御用達の木賃宿にコイツを連れ込み、不思議そうな顔の世話役の女将から借りた大きな木桶に水を張り、何故か抵抗するトリダンゴの服をひっぺがして丸洗いしてやったのだが…。
トリダンゴは――女だった。しかも、聞けば歳は12だった。どうやら栄養失調気味で背の伸びが良くなかったらしいな。俺の完全な思い込みだった…迂闊…。
だが、服は一緒に洗濯する前にコイツが暴れたせいと元がボロ過ぎたのも手伝ってビリビリに破けてしまった。
コレが前世の世界だったら俺は逮捕されているだろう。
「…で。困り果ててウチに連れてきた…ってかい? はあ~。何やってんだよ、坊や…」
「……面目次第も無い」
小さな女の子の服なぞ何処で売ってるかすらも知らない俺は困り果て、知り合いが働いてる店――いや、もう正直に言っちまうがとある娼館に足を運んでいた。
「いやあ~ホント可愛いわ~!? てか美少年!?」
「女将さん! この子! 少し仕込んだらきっとこの店で直ぐに売り上げナンバーワンになれますよ~?」
「え!? ぼ、僕をこのエッチな女の人がいるお店に売る気なのっ!?」
「全くうちの娘っ子共は…ホラホラ!可哀想だろう? もう揶揄うのはよして仕事しなっ!」
「「は~い」」
娼館の女達はそう女将に返事を返すが、過半数が未だにトリダンゴにワンピースを着せたり、化粧をしたりして遊んでいた。
「…………」
「おう…アムリタ…久し振りだな?」
「…………」
「ちょっとはこの店で働き出してよ。色気が出た…んじゃねえ…か?」
俺の前に…正確にはテーブルと俺の間にトレイを持ったまま立って俺を無言で睨み続ける浅黒い肌のハーフエルフが居た。…圧が凄まじい。
「ほら、アムリタも…もう坊やを許してやんなよ? それとそこのお嬢さんは女物はお気に召さないようだからね。丁度良いサイズの服を近くの店から融通してきて貰ってくれるかい? なに、アタシの名を出せば――嫌とは言わないだろうさ」
「……。…わかりまし、たっ!」
ゴィン。
「「…………」」
アムリタは飲み物とグラスとツマミが乗ったトレイを律義にも俺の頭の上に載せて、何人か見習いの子とフェアリーを連れて店を出ていってしまった。
「何、あの子もやっとアンタが顔を見せたんで…内心ホッとしてんのさ。――坊や。辛い気持ちはアタシも少しは解るつもりだがね? アンタに何かあったら…残されたあの子はどうなる? あの姉妹も、アンタまでも失っちまったら…」
「…………」
「あの子はこの先、一生浮かばれないだろうさ。…それが解ってんなら、今後は少しはあの子の気持ちも考えてやんな。…頼むから、アムリタをこれ以上悲しませるんじゃあないよ」
俺は黙って手酌でグラスに注いだ酒を飲んだ。
喉を通り抜けるものは熱かったが…味はちっとも美味くなんかなかった。
そして、俺はグラス越しに未だ女達の玩具にされている少女の姿を眺めていた…。
そう、女神から与えられた俺の能力でS級冒険者としての未来が約束された――俺の弟子に。




