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# 18 勝者と…その余波 その2

今回、剣道に関して偉そうに書いてますが…

筆者は全くの剣道なにそれおいしいの?状態です笑

許してくだしゃあ<(_ _)>



 ――またもや時が少し前後する。


 ドワブがハボックとの試合を終え、若干逃げる様にしてギルドの酒場へと向かい飲み始めた頃の話である。



「――あ、あのっ!」

「ん? どうしたんだい、お嬢さん」



 先程の試合を見て熱気冷めやらぬ冒険者達やドワーフ達に絡まれるその試合の勝者たるドワブに、勇気を振り絞って声を掛けた少女の姿があった。余程緊張しているのか…僅かに身体が震えている。



「そ、その…すいません! コレを――」

「なんじゃなんじゃ!ドッ坊よ。さては恋文かのう? お主もモテるのぉ~」

「んな訳ねーだろ!? ……って、そりゃあ俺が即席で作った杖じゃあないか。まさか、態々拾って届けに?」



 少女はコクリと頷きながらドワブの顔を見やる。



「勝手に失敬してしまってすみません……もし…もし、良ければ。これを…私に下さいませんか…」

「…へ? そんな木切れが欲しいのか? いや欲しいならやるけど…そんなの(・・・・)が欲しいのかお嬢さん?」

「あ、ありがとうございますっ!!」



 ドワブ本人にしてみれば単に猛攻のハボックの足を掬う為に試合中に即席で作り出しただけのものだ。訓練場で捨てたもので試合が終わればゴミ同然だったので、そんなものを欲しがるなどと変わった者がいるのだなと思いながらエールを口に付けて再びカウンターの方へ身体の向きを直そうとしたのだが…。


 ……何故か少女は去らずに隣に留まっている。



「……。まだ何か俺に用事があるのか?」

「あ、あの厚かましいお願いなんですが……――御彫刻(サイン)、頂けませんか?」

「へ? サ、サインだあ…?」


 

 『こんなオッサンをアイドルか何かと勘違いしてるんじゃあねえのか?』などと言いながらも、頭を掻きながらドワブは気の利く酒場のマスターであるゲイルが差し出した小刀でその杖の柄に自身の名を刻む。序とばかりにその少女が『タリアへ――でお願いしますっ!?』というリクエストもあったが…ドワブは周囲からニヤニヤと向けられる視線に耐えながら、そのC級冒険者のタリアの純な願いを叶えてやった。



 少女が嬉しそうに手を振りながらむさ苦しい男達が犇めく酒場から出て行った。何となくドワブも顔を引きつらせながら手を振った。



「相変わらず、ドッ坊は節操がないのう。アレか? 若い娘なら種族問わず何でもええんか?」

「おい!誤解を招くようなことを言うんじゃねー!?」

「いやいやそうじゃろ? あんなヒゲも生えておらん(・・・・・・・・・)小娘相手に愛想良くしおってからに…」

「ヒゲ…」



 ドワーフ達の苦言に絶句する本人は気付いていないが意外とモテる男ドワブ。


 だが、ドワブは口に含んだエールを飲み込むのも一瞬忘れて考えてしまう。そう、立派な髭を生やす婦女子の姿を…。



「……そう言われてもなあ。俺は生まれてこの方――ドワーフの女を見た事がねえからなあ」

「む…。すまん。儂が迂闊じゃったな…お主はこの地に来るまでろくにドワーフの言葉すら教わらずに生きてきおったのであったの」

「あー…まあ?」



 ドワーフ三人組の内のひとり。鍛冶ギルドのギルドマスターでもある筋骨隆々のドワーフ、ジークフリントが気まずそうにしてドワブに詫びる。だが、当のドワブは成り行き上でドワーフの父と只人の母を持ち、この城塞都市シオを訪れるまで人里から遠く離れた辺境で暮らしてきた――という設定にしてあったので、そう自身の気を汲んで貰っても正直対応に困っていた。



「いや…ドワーフの女を見たければ、見れるんじゃないんかいの?」

「…どういうこった?」



 その話を横で聞いていたドワーフ三人組の内のもうひとり。長くカラフルなコーン帽子を被る老ドワーフ、ジーソンが割って入る。



「いやのう。その様子だとお主は知らんようじゃが、つい先日…王都の方でドワーフ王国から若いあまっこが出奔してきて冒険者の真似事をしとるという話じゃ。何でもまだヒゲが生えるまで数十年掛かるほど若いらしいという話だぞい」

「へえ…ドワーフの冒険者か。初めて聞いたな」



 ドワブはその話に興味を持ったのか、ジーソンから更に詳しい情報を引き出そうとエールのデキャンタをジーソンのジョッキに近付けたのだが――。



「よさんか! …ジーソン。坊主にはそれ以上余計な事を話すんじゃない」



 それをぶっきら棒に遮ったのはドワーフ三人組の内の残りのひとり。三名共に二百を超えた老境のドワーフであるのにも関わらず、その髪髭が砂鉄のように黒々しいジークフリントの右腕、ジーマーミィである。



「悪い事は言わん。ジーソンの話は忘れることだ」

「…理由くらい聞かせて欲しいとこだな。どうせ依頼を受ければ、いつぞやかは王都にゃ行かなきゃならんこともあるぜ?」



 ジーマーミィはジークフリントの方をチラリと見やってから髭をワシワシ扱きながら口を開いた。



「出奔と聞けば…自身の意思で飛び出していったようにも聞こえるが。――実際は追放されたも同然の娘なんだ。“ドワーフと鍛冶を司る雄神”の寵愛を受けた才女とも謳われるほどの逸材でな? 女だてらに鍛冶場に出入りしていたそうだぞ。だが、いつしか危険思想(・・・・)に染まり始めてしまったと聞く。よって我らのドワーフ王であるドワバルカン様によってドワーフ王国から放り出されたと俺は聞いている。――何せ、その娘はあの大罪人“天空王バロン”の直系の子孫だというからな…」

「ふぅ~む?」



 その話を聞いて顔を顰めて唸るドワブ。だがしかし――!



 そもそもドワブはドワバルカン様も天空王バロンすらも知らなかった。よって事の重大さなぞ知る由もなかったのである。



  ~~~~



 ――所変わって、とある荘厳な一室でグラスが静かに交わされる音が響いた。



「――乾杯…」

「「乾杯!」」



 その言葉と共に難しい表情のエルフ達が一斉にグラスに口を付け、喉に流し込みその余韻を味わう。



「……ふむ。西(大陸)のワインは魔力の味が強く、どうにも下品なイメージが強かったが――存外にコレはイケるな?」

「左様ですか。そのワインは僅か三年と若いですが…東風寺院の果樹園で摘まれた果実を使っておりますので」

「なるほど。それならば納得だ――ルクベルクの手によるものだったか…」



 つい先日、マロニー東大陸のエルフランドから訪問してきた貴位のエルフとその側近である重鎮らが満足気にワインを口にする様子を見て内心ホッと胸を撫で下ろすエルフ大使館の職員――その城塞都市シオに駐在する職員の筆頭。言わばエルフランドの中心国家であるソイソーの特命全権大使である男がそっと手に持っていたボトルを部下に渡して片付けさせる。



「改めて、務め御苦労である。ギーラ・カヴァ・ノイドルノよ。そなたがこの地に遣わされてからおおよそ五十年か…時の流れはいつの世も我らエルフにとっては残酷なほどに早きことよ」

「勿体ない御言葉にございます…」



 名を呼ばれ、務めを労われたエルフ大使館の職員ギーラが恭しく頭を下げる。



「…それにしても、中央の統治は思いの外…上手くやっているようだな。特に――あの寺院だ」



 半ばギーラの存在など無視するかのような態度で場の中心人物が部屋の壁に飾られているとある風景画へと近づく。その絵の中心には果樹園のあるそれなりの立派な寺院があった。やや離れて城塞も描かれている。そう、その絵に描かれ、城塞都市シオ近くに建立されているものこそ東風寺院。


 只人が中心的な種族であるマロニー西大陸。その中央国チャント・ナベルカにおいて西東から唯一認められているのエルフの寺院である。一応、建前としては神の下に中立の場――教会として扱われている施設である。


 また、東風寺院は孤児院としての役割を担う他、単身で各地を巡るエルフの旅人達が立ち寄って疲れを癒す場としても重宝されていた。むしろ、若い世代のエルフにとって西のランドマークとして認知されつつあると言えるだろう。



「だが、ギーラよ。聞けば、あの寺院は十年前までは単なる修道院跡地…この城塞都市が旧王都であった頃の名残りでしかなかったそうだな? ……どのような狙いがあったのかは測りかねるが、あの寺院を建てたのも件の“影の英雄”だというではないか」

「……畏れながら、その件につきましては。公の場の会見では“領内の孤児を救済すべく領主からの善意で資金が提供され、ナベルカ王がそれを認め建立された”という事になっております。城塞都市シオの冒険者、ドワブはあくまでも当時チャント・ナベルカ龍河最寄りの港街でひっそりと救済活動を行っていたルンベルク・マーツを新たな寺院の司祭として交渉・召集したとだけしか申せません…」

「……。フン、確かにあの御仁は名声など寧ろ嫌悪する性質のようにも伺えたな。…その辺りはまるで石人(いしびと)共のようだが。あの愚か者共のように頭が固くはないようではあるな。ところで――いつまでその者(・・・)を部屋の隅に立たせて置くつもりだ?」



 その厳しい表情を向けられた人物がビクリと身を震わせる。



「これは失敬しました。君、前に出て挨拶を…」

「……御前、失礼致します」



 ギーラに呼ばれた人物が部屋の中央まで出て来て膝を突き頭を垂れる。



「いや。紹介に及ばぬ。そなたについては既に存じているのでな。…サーバイン・ヒイラ」

「…………」



 名を呼ばれた者がやや緊張した面持ちで立ち上がる。エルフの男であった。


 このサーバインは歴としたシオのA級冒険者である。シオに若干名在籍するエルフ冒険者のひとりであり、ギルドからの評価はそれなりに高い。背にあるランサー(別名ルンカとも呼ばれる)という長く、細い刃。付け根から別に2本の刃が横に伸びる長柄の武器とエルフかしか使えない精霊術を駆使して戦う。



「そなたもこの地で二十年以上冒険者をやっているのであろう?」

「は、はい…その――」

「……。構わん。ここは公の場という訳ではなく、我らエルフしかおらんのだからな。そう口を噤まれては話が進まんではないか」



 まだ、エルフとしては若い(・・)サーバインの気が重いのも仕方なかった。この場にいるエルフは、サーバインとギーラを除き全て齢六百を超えるエルフなのだ。彼らにとって、二百年も生きていないエルフなぞ、例え百を成人と見なされていても単なる浅慮な若僧でしかなかった。因みにギーラは三百を少し超えたばかりである。



「恐らく皆様はドブ…“金獅子”のドワブについて聞きたいのだと思われますが。先ず、そもそも俺がこの地に来る切っ掛けになったのは――キャロウェル様です…」

「キャロウェル…? ああ。そなたはあの“(あけ)の実”を東に連れ戻す為にこの地へ向けられたのだったか」



 ぞんざいな態度でエルフが側近の顔を見やる。すると側近の幾人が焦ったように口を開く。



「ああ!そうなのです! 二十年ほど前、御国から出奔された里姫――ムーマイア・ヒイラ・キャロウェル様が西大陸を遊学されていた時にその…この地で何と言えばよいのやら。只人の男を見初めてしまい…」

「同郷の…ヒイラの氏族出身であるこの者に説得にあたらせたのですが……」

「失敗したのであろう。今やその御方はこの城塞都市が誇るS級冒険者だ。今回は御会いすること叶わなかったが…どうせ我らの話に耳を傾けることも最早なかろう。何せ、只人との間に子を設け――その息子もまた冒険者として同じパーティを組んでいるのだからな……」

「「…………」」



 S級冒険者、“朱の実”ムーマイアことムーマイア・ヒイラ・キャロウェル。御年四百を超える東でも指折りの精霊術の使い手だったエルフである。


 彼女はいわゆる典型的な外の世界に憧れるエルフであり、他の大氏族からの縁組みを袖にし続け自身のヒイラ氏族の治める森(エルフランドでは小国)から飛び出して西大陸に渡り好き勝手していた。冒険者になろうとしたのも単なる気紛れでしかなかったのだが…そこで運命的な出会いを果たす。


 だが、彼女はあろうことか只人とエルフは住み分けるべしと考える長老衆。その中心人物の実の娘であったので、エルフ側もはい、そうですか。とはいかなかった…。


 因みにサーバインは単なる同じ氏族出身という以外は彼女のような貴位のエルフとは縁も所縁も無かったのだが、当時自由に動けるエルフに限りがあったので、嫌々命令に従ってシオへと赴いたのである。よって、恨むほどではないが、そのような命令をして横柄な態度をとる目の前のエルフ達には好意のひと欠片すらも持ってはおらず、本当は今すぐにでも帰りたかった。



「まあ、その件はもう良い。別段、お前もそんな愚痴を言いたいわけではなかったのだろう。…いい加減、ドワブについてお前の知ってることを教えて欲しいのだが? お前は里姫の説得に失敗してからはこの城塞都市に留まり、そのまま冒険者として勤めたのであろう?」

「……ええ。ドワブについてはこのシオに訪れた当時から知っています」

「ふむ。――では、お前にはあの者の実力はどう見る?」



 サーバインは軽く息を吐いてから口を開く。



「まだ未知数な事も多いのですが――間違いなくS級…もしくは“超級”に達しているのではないかと見ています。まあ、これに限っては他の上位冒険者からも同じ見解が出ているかと」

「さもありなん。今日の試合を見れば大半の者がそう思うだろうな。あのS級、“嵐槍”ボアルハボル・ドリューを危うげなく下しているところを見れば明確。しかも、当の勝者は実力を未だひた隠している…と」



 そもそも実力を隠すも何も、RPG初期装備以下の縛りゲーのドワブに対してゲーム後半レベルの装備でガチのハボックとの試合が異常なのであるのだが、それは誰も突っ込まずに流したのだった。



「試合をご覧になったのであれば御承知でしょうが――ドワブと“嵐槍”の槍の構えは…」

「知っている。アレはかつての大戦後期…北方を制圧して南下した我がエルフの精鋭部隊の隊長だった男が有情でドリュー辺境領で当時の辺境伯達に教授してしまったという報告は既に百年以上前に聞き及んでいる」

「……左様ですか。ではそれとは別に――ドワブの剣術(・・)ですが…」



 サーバインは「失礼」と断ってから予備武器である剣を鞘から抜かずに持ち…構えて見せる。そこから、さらに中段の構えを変えて見せていく。



「…?」

「そ、それは!? エルフの古流剣闘術ではないか!?」



 側近のエルフのひとりが叫ぶ。それは――いわゆる剣道などにある正眼の構えである。


 サーバインが見せたのは剣先を相手の喉元に定める…正眼の構え。剣先を相手の左目に定める…青眼の構え。剣先を相手の眉間、眼と眼、その中心に定める…晴眼の構え。剣先を相手の顔面の中心に定める…星眼の構え。剣先を相手の臍の辺りに定める…臍眼の構えであった。


 どれも剣道を齧っていたドワブが俄か覚えで使用していた構えだった。



「…知っているのか?」

「ま、間違いありません…。私も若かりし頃はかの“静剣”に憧れ修練していた時期がありましたので。それに決まり手に――額・胴・両手と部位を定め、敢えて脚を狙うのを卑とすることといい…先ず、間違いないかと」

「“嵐槍”との試合前にもドワブは弟子の“勇者”と共にやはりその剣術で試合をしていましたね。後、十年前にギルドの訓練場で初めて見掛けた時からあの剣術を使っていました。無論、ギルドの者にあの剣術を知る者はいませんでした」



 それを聞いたこの場で最も位の高いであろうエルフが唸る。



「しかし…我らが聞き及んでいる確かな情報では、あの者はドワーフ王国から出奔ないし追放された石人を父に持ち、只人の母親から生まれたと聞く。それまで他者との交流とはほぼ無い環境で生きて来たのだと……そんな出で立ちの者が何時、誰からエルフの剣術を習うというのだ? しかも、ほぼ外に出ることのない古流剣闘術を…」

「…まさかとは思いますが。ドワブ殿が隠しているだけで、石人と只人の両親の他に――師となるエルフの存在があったのではないのでしょうか?」

「「っ!?」」



 突如として横から飛び出した新たな見解に凍り付くエルフ達。


 それが仮に事実ならば、ドワブという種族的にも歴史的にも希少な存在を世界から、否。同族からすらも隠匿したエルフが存在することになってしまう。



 『あ、やべえ。余計なこと言っちったかも…』と内心汗を掻くギーラであった。



 まあ、勿論こんな考察は全くの無駄であるのだが――そんな大事になるなどとは当の本人も知る術がなかった。



 

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