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# 17 勝者と…その余波 その1

今回から数話、オムニバス?形式でドブとは別視点の人物達の試合後の話が続きます<(_ _)>

また、誤字脱字報告して下さり、ありがとうございます。

全然気づかなかったので助かりますホント…泣(^_^;)



 ――時が少し前後する。


 ドワブがハボックとの試合を終えた直後の事であった。



「ハボック様…本当に治療を受けなくてもよろしかったのですか?」



 慈愛に満ちた精神を持った“聖女”シャクティアポアーズがドワブにこっぴどくやられてしまったハボック……外見上、ボロボロにされているのはむしろドワブの方であるが、それは装備面の差が大き過ぎた為であろう。だが、ことダメージに関しては倒されたハボックの方が数段上であった。いくらこの、“嵐槍”ボアルハボル・ドリューが頑丈なだけが取り柄の脳味噌筋肉で破戒僧ならぬ破戒聖騎士であったとて、だ。



「……。有難い申し出だが、それには及ばない。助祭殿。そのお気持ちだけ有難く頂戴するとしよう! 何せ教会に属す者で、私とマトモに言葉を交わしてくれるのは東風寺院のルクベルク司祭と助祭殿だけだからな! エルフの神と我らが“正義と天誅を司る女神”に感謝の意を捧げねばなっ!! わははははっ!!」

「「…………」」



 それが、事実故に誰しもが哀れむような視線を大笑いする男に向けるか、目を逸らしたのだった…。



「ああ゛ああぁぁ~!?」



 何やらやたら頭部が陽の光を反射する大男の野太い悲鳴が上がる。どうやらギルドの建物の一部を指差し飛び跳ねているようだ。


 ケセランパセランでも見つけたのだろうか?


 だとすれば何とも――幸運な男である。



「…おう、おう。すっかり喉が渇いちまったなあ。早く酒場に行こーぜ?」

「うむっ! そうだなっ!!」



 そんな様子を見ていたドワブと一部の者達(ハボックを除く大半)が嫌な予感を感じて、未だ多く興奮冷めやらぬ人々がの残る訓練場から逃げ出していた。



 ドワブ達が去った後の訓練場から野太い大声で誰か(・・)誰か(・・)を呼ぶ声が響いていたという。



  ~~~~



 ――大いに盛り上がった“震剣”ドワブと“嵐槍”ボアルハボル・ドリューの試合が終わり、ギルドから既に多くの観衆が去っていった頃合いのことであった。



 城塞都市シオの冒険者ギルドと内壁を隔ててほぼ隣上に位置する場所に魔術師ギルドがあった。魔術師ギルドは魔術の研究・開発・規制・教育・販売などといった多岐に渡る魔術師関連のものに加えてマジックアイテムやポーションの鑑定や製作などにも携わる。冒険者ギルドとはまた異なる雑多な業務を抱えている為、その規模も大きく施設も6倍ほどの面積を有している。また、その機密性と希少な資源を保管するギルドでもあるので所在地はその分出入りできる者も限られる上の街に在った。



 そんな魔術ギルドと内壁の間の薄暗い物置のスペースに数名の怪しげなローブを着込んだ魔術師達がこっそりと集まっていた。


 そこへ今しがた内壁の検問を通り抜け、階段を駆け上がり合流した若い青年が息も絶え絶えにその魔術師達に合流する。



「お! 来たぞっ!?」

「…で? どうだった?」

「ハァ…ハァ……――じゅ、10万エンデス…。金のナゲット、10個で譲ってくれと…ハァ…頼んだが…ハァ……断られてしまった」



 青年の言葉にその場の全員が項垂れて悲鳴に近い溜め息を吐き散らかした。



「うぅ~。俺達のなけなしの手持ちを合わせたのにダメだったか…」

「まあ、普通の杖でもそんくらいは余裕で取られるからなあ~」

「安月給にゃあ辛いぜ」



 青年から返され、掌の上でジャラリと鳴らされる黄金片を見つめながら男達が頭を抱える。



「仕方ない…こうなったら研究費の来月分から掻き集めて――それなら20…いや、30は捻出できるだろう。それでもう一度、交渉を…」

「……無理…だと思うなあ」



 だが、そんな上乗せ案は交渉役を任された青年によってやんわりと否定される。



「何でだよ? ルガリア!」

「いやさあ。あの(・・)ドワブさんが試合中で作った()を拾った子…C級冒険者の女の子なんだけどさ? 例え“ミスリル(※約1千万円)を出されても譲らない”って断固拒否されちゃったんだよ…家宝にするってさ。態々、酒場に行ったドワブさんを追っかけてってサインまでして貰ってたよ。流石に…アレはもう無理だよ。俺だって手放さないよ、絶対に」



 因みに、このルガリアと呼ばれた青年は試合が始まる前にドワブが投げ捨てた木剣を回収しようと試みた若者である。



「いや…そりゃっ! 俺だって欲しいけどさっ!?」

「素直かよ」

「だが、こうなれば皆でその子に土下座してまで手に入れねばならないんだ! 何故なら…その杖こそ俺達――生産部門に携わる魔術師の大きな躍進の秘訣が秘められているんだからなっ!」



 そう、この者達は別に悪巧みをしていたわけではない。歴とした魔術師ギルドに属する生産魔術師達である。



 彼らの仕事は主にマジックアイテムの製作である。が、彼らにそこまでの高難易度を誇るアイテム製作技術は無い。彼らが心血を注いで日夜研究しているのは――ズバリ、触媒。しかも、初心者用の魔石などが一切使われていない単純な杖である。だが、最も頻繁に消耗されていく触媒には違いなく、彼らは休む暇なく杖を作っているのだ。


 だが、最低限の触媒の機能を持たせるだけの代物とはいえ――その一本の杖を作るにはそれなりの時間が掛かる。主に製作者の魔力を継続的に流すことで魔化を促す作業だ。これによりどんなに頑張っても一人で日に三本作れるかどうかだった。



 しかし…納期に追われ、長く苦しんだ魔術師達がついぞ光を見出した。それこそがドワブが急遽作ってみせた即席の触媒化である。


 しかも、主に触媒に使われるのは魔樹と呼ばれる魔力に順応し易い特殊な植物を用いるのに対し、ドワブは単なる普通の木材で…更に恐ろしいほどの短時間で簡単に魔化作業をやってのけてみせたのである。



 これに目を付けた魔術師達はルガリアをスパイとして冒険者ギルドへと送り込んでいたのである。


 しかし、彼らがこんな回りくどいやり方をしなけらればならないのにも事情があった。


 それは魔術師ギルドのギルドマスターである魔女。麗しのトラティーが強いた緘口令にある。その内容は、魔術師ギルドの者の方からドワブと接触するのは極力避けるべしというものであった。


 その理由はドワーフという種族にある。ドワーフは古来より呪いや魔術の類を忌み嫌う習慣が根深い。それは遥か昔にドワーフがまだ地上で繁栄していた頃の時代。今は世界的に禁じられている魔法機械の力に染まったドワーフは時の天空王バロンを筆頭に地上に覇を唱えるべくマロニー大陸全土に侵略を開始したのである。


 それに真っ向から抵抗したのがエルフであり、この因縁が今なおエルフとドワーフ間の険悪さとして残っているのだ。


 だが、圧倒的な脅威を誇る魔法機械は――空に城どころか陸までを浮かべ、結果として地上に甚大な量の汚染物質…“エーテル”を撒き散らした。これにより、ダンジョンではなく地上でも魔物が闊歩するようになってしまった要因ともされている。そして、困り果てたエルフの嘆願を聞き届けた“エルフと世界樹を司る神”と他の神々の怒りによって旧魔法機械文明は滅び、それでも激怒が治まらない“ドワーフと鍛冶を司る雄神”によって天空王バロンの子孫であるドワーフ達は長い間、地下世界へと封印されていたという。その地下世界こそが、この城塞都市シオから龍河に向って東南に位置する大山脈に築かれているドワーフ王国の礎となったいうのが通説であった。


 そんな歴史もあってか、魔術嫌いなドワーフ達はこの城塞都市内にも十数名ほどだが居る。彼らは同族意識が強く、その対象には漏れなくドワブも含まれているのだ。


 つまり、その魔化技術を伝授して欲しいと公にドワブに近付けばドワーフ達の反感を買ってしまうのは必至。こと武器防具だけでなくマジックアイテムに関してもドワーフの鍛冶・技工技術は必須。そんな有能なドワーフに仕事でフラれてしまえば…あっという間に生産部門は立ち行かなくなってしまうだろう。



「いや…そりゃあ気持ちは解るよ? まあ、俺は半冒険者の別部門だから、なんとも言えんが」

「な、なら…」

「でもさあ? 交渉粘って酒場までその子を追いかけてったんだけどさ。…睨まれちゃったんだよ。サブマス(・・・・)に…」

「あ。あぁ~…」

「そりゃあ…もうダメだろ?」



 その話を聞き、魔術師達が遂に諦めたのか尻もちを付き始めてしまった。


 サブマスとは…冒険者ギルドのギルドマスターであるディッグマックスの補佐――というよりは、事実上その男に変わってギルドの内務を仕切る有能な男。ベネットを指していた。


 ベネットは元S級冒険者だったディッグマックスと同じパーティだった男だったが、A級冒険者に昇格したと同時に冒険者としての限界を悟り、ギルド職員へと転向していた。その働きぶりは非常に有能で何度も領主から引き抜きの声が掛けられるほどであった。


 何故、そんな男から警戒された時点で御破算になるのか。


 それはベネットは過去、冒険者ではなく魔術師ギルドにこそ所属したいと願っていた。しかし、その当時の魔術師ギルドの監査は古典的な考えの持ち主ばかりで、ベネットの頭脳明晰さよりも魔術師としての適性や出自にばかり拘る傾向が強かった。結果、恐らくは魔術師ギルドでも有能な働きができたであろうベネットを追いやったのだ。


 無論、ベネットは未だにそれを根に持ち、魔術師ギルドの者を毛嫌いしている…という話は余りにも有名だった。



「流石に…もう購入は無理だな。しかたない…こうなったら…」

「こうなったら?」



 流石に切羽詰まった生産魔術師達が強行手段に出るのではないかと、ルガリアは冷や汗を流した。



「――謝りにいこう。その杖の持ち主に」

「え」



 いっそ諦めて清々したのか、落ち着いた表情でそう言葉にしたのを聞いて拍子抜けする。



「さて、明日の準備もある。その子がまだ冒険者ギルドに居る内に済ませてしまおう。案内してくれるか?」

「ああ、わかったよ。交渉に失敗して悪かったよ…」

「いいや。それはもう済んだことだ。仕方ないだろう?」



 安堵したルガリアが腰を上げ、ズボンの埃を払った。



「謝ったら…そうだな。その子を我が研究室に招くのはどうかな…?」

「……んん?」

「それで程良く気を許してくれた段階で――家宝の杖をお借りすればいい! 何、別に壊したりするわけじゃないんだ。ちょっと魔力分離装置に掛けて解析させて貰うだけだっ!」

「お!それイケるんじゃね!?」

「…………」



 どうやらまだ生産魔術師達は諦めてはいなかったようだ。



 因みに後日談だが、結局ルガリアは生産魔術師を酒場でベロベロにし――件のドワブの杖を大切にする少女を見つけ出し、杖が狙われていることを告げたことで魔術師ギルドの一部による凶行の危機は回避された。


 さらに後日。ルガリアはサブマスであるベネットに直接相談し、検討を重ねた結果。晴れて正式な冒険者ギルドの正規冒険者となり、その少女とパーティを組むことになった。


 それを終始見ていたベネットは、それはとても良い笑顔だったという…。



 

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