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# 13 震剣



 ――震剣。


 どこぞの秘剣か必殺剣。または凄腕の剣士に与えられる称号みたいで、俺はそう呼ばれるのが嫌だ。



 まあ、俺の数少ない隠しダネであることは間違いないんだがなあ。


 だが、そのタネは非常に低級な魔技の組み合わせでしかないんだなあ~コレが…。


 それなのに…。



「ほら見たかあっ!坊主共ぉ~! アレが泣く子も気がおかしくなって笑っちまう“震剣”の超剣技だ!! ――相対して、初めてその剣技の冴えと恐ろしさに…あらゆる剛の者が身を震わせる(・・・・・・)! いつ見ても痺れるぜ…!」

「「おお~…!」」

「お前。準S級狙ってけど…アレ。受け切れるか?」

「…冗談だろ? 剣でドワブの相手ができるヤツなんてギルドのS級でも片手の指で空きができちまうぞ。……そりゃ、同じ剣士としちゃ憧れっけどな」

「…………」



 マジで止めてくれ。本当に肩書きが独り歩きしてるだけだってそれ!


 まあ、初見殺し上等の代物だが…一端以上の使い手じゃねえと、まるで“トリダンゴの木剣の先が溶けて消えちまったみたいに見える”だろうなあ。


 ――違う。正解は削った(・・・)んだ。



 魔術については…本当に長くなるからかなり割愛するが、初歩で魔力の流れを確認する作業で…いわゆる、魔術ギルドで“手遊び”と呼ばれるレベル0の魔術群がある。只人は無属性しかいない。正確には無という属性を持っている唯一の種族とも言えるが…各属性の魔術を扱うには先ず、火・水・雷・地・風・氷の適性が必須だ。それと各属性毎の触媒――例えば魔石が嵌っている杖や指輪とかが必要になるんだ。適性ってのは無属性の只人だけが気にすることで、他の種族…例えば、ドワーフなら火と地で固定。エルフは火以外のランダムな属性を生まれながら持っているから、触媒を使用せずとも直接自分の魔力で魔術を発動できる。それらの魔術の基礎を学ぶ段階で習うものがレベル0の魔術だ。こりゃ触媒も必要ない。というか大半が属性に適性がなくても使える。そりゃ適性が有る無しじゃその差はダンチだがな?


 先程から俺達が打ち合いで使ってる魔技――“コーティング”や“ブースト”もぶっちゃけそのレベル0魔術の応用でしかない。


 その実戦では使えないお遊び魔術の中に地属性の<シェイク>と風属性の<スピード>がある。


 <シェイク>は対物に振動運動起こさせるだけの魔術だ。だが、地属性に適性のある者がレベル4以上で使えば<アースシェイカー>という高範囲対地魔術になる。


 <スピード>は文字通り対物を加速させる魔術。まあ、レベル0じゃ触れている物の動きしか僅かに加速させることしかできない。だが、ちゃんとした風属性魔術師が使えば自身の肉体の動きを飛躍的に加速させたり、投擲物を一瞬で遠方の標的目掛けて飛ばすこともできる応用が利く便利な補助魔術になる。



 俺は単にこの4つを手にした木剣に同時(・・)に使用しているだけなんだよ。簡単だろ?


 それに、他のレベル1以上の魔術と違ってこれらは単発じゃあ微々たる魔力量しか消費しない。


 ただまあ…強いて言えば、流石に俺がやってんのは周囲に魔力が漏れ出さないほど圧縮(・・)する必要はあるんだがな?



 何せ“コーティング”・“ブースト”・<シェイク>・<スピード>を――30(・・)重ね掛けしてっからな。



 そうしないと単にちょっと丈夫なだけの電マでしかないからな。……割とアムリタ辺りには好評なんだが。


 ……。…そんな話は別にどうでも良いな。


 こんな風に多重併用することで、木剣の強度を上げつつ…刀身を超高速振動させている。それで、我が弟子の剣先を削り飛ばしたわけだ。


 だが、普通の使い手程度なら既にさっきの一瞬で決着がついたろう。魔力が途切れたと…油断した相手の大概がそのまま受けようとした得物が分断されたことも気付かずに胸から上と下が別れることになるからなあ。


 う~ん。だが木剣じゃあ大した時間継続して使えない。幾ら強化したって元が単なる普通の木だからなあ。せめて鋼なら50は平気で重ね掛けできるんだが…。



 ――だが、トリダンゴはそうはならなかったわけだ。俺は思わずニヤリとしてしまう。



「…よく凌いだじゃあねえか?」

「はっ! はっ! は――フゥー…っ! まだ…やれますっ!」



 おうおう。まだ俄然やる気があると。いいぞ…その調子だぜ!


 俺は容赦なく愛弟子に打ち込む。


 否、容赦なぞできようものか――コイツには俺の培ったもの全てをくれてやるつもりなんだからなあっ!



「ぐぅううううっ…!!」

「…っ!? なるほどねえ」



 今度はマトモに俺の剣を防ぎやがった。正確には削る前に逸らした、か。呆れた奴だ…。



「トリダンゴ。さてはお前が使ってんの――<オイル>だな?」

「……っ――…流石は先生です。もうお気づきになりましたか。…僕が何年も掛けて貴方に追い付きたくて編み出したものだったんですが」



 やっとトリダンゴがニヤリと笑みを返した。


 <オイル>は水属性の魔術。無論、触媒も無く使えるレベル0の形骸魔術だ。この魔術もまた歴とした水魔術のひとつ、<オイル化>の初歩だ。流動体や性質変化を得意とする水属性魔術に属するこの魔術は単なる水、もしくは水以外の物質すら可燃性の粘体へと変える魔術だ。まあ、手遊びレベルだと単に水をヌルヌルさせる程度でしかない。だが、俺の震剣の正体は単なる振動による局所摩擦だ。それによるダメージを軽減し、滑らせることで焦点を逸らすこともできたわけか…。


 が。コイツは水じゃなくて木剣に“コーティング”で纏わせるだけの僅かな魔力でそれをやってのけた。これは俺でも出来ない芸当だ。それだけの研鑽と想像を絶する集中力が必要だろう。


 ――変なとこで不器用なコイツのことだ。恐らくこの隠し芸に常時の10倍か20倍を超す魔力を使ってやがったんだな。顔色が悪かったのはそのせいだろう。



 なら、根競べといくかっ!



 俺は更に追撃する。すかさずトリダンゴが対応する。打ち合う度にそれでも手にした木剣が俺の震剣によって消散して不格好なオブジェとなっていく。



「いいぞぉ! その調子だトリダンゴっ! 気を抜くなっ!」

「はいっ!」

「お前は天才だ! 俺のチンケな魔技モドキなぞ簡単に追い抜けるに決まってるっ! 集中しろっ!!」

「はいっ! 先生っ!!」



 基本は褒め、ガチな時は鞭強めでアメパッパ――これが俺の教育方針だ。


 訓練なんて辛いだけだったらやりたくなくなる(俺の体験談)だろう? だからできるだけ伸びそうな長所を兎に角伸ばすべく褒め倒すが第一段階。仕上げの段階になったら厳しめにやる。それこそガチでぶん殴るよ? 女でも。この厳しい世界にフェミニストなんざ要らん。けど、結果が伴おうともそうでなくても評価すべきとこは評価する。じゃないと報われないし、壁を越えられんからなあ~。だって、剣やら魔術に基本終わりだとか極めた的なヤツの境地なんぞ俺が知るわけがない。



 体感で10分くらいだろうか――流石に力尽きたトリダンゴが膝を突いた。


 手放した木剣の刀身はもう15センチほどしか残っていなかった。



「ハァハァ…!」



 あられもない姿で仰向けになる俺の弟子。


 …………。


 ぶっちゃけるとな? 後はもう経験を積むしかないっつーか。俺が教えられることなんてねーんだよ。だって、コイツ――天才だもん。勝手に俺の必殺技の対処法とか編み出しちゃうくらいに…。



「やればできるじゃねえか。…流石は――俺の一番(・・)弟子だな」

「…っ!? うっ…うくっ…せ、せんせぇ」



 腕を掴んで引き起こしたトリダンゴは土に塗れた顔をクシャクシャにして泣きじゃくる。


 おーおー。俺のシャツまでこの分じゃビショビショになっちまうやね。


 ――ったく、相変わらず泣き虫は治らないようだなあ。こんなんで大丈夫か? まあ、パーティには他にも優秀な弟子が3人……いや、ひとりは補欠にしとくが居るんだ。俺がいつ抜けたって何とかやってけるさ。



 俺はズボンで拭った手でトリダンゴの頭を昔のように(無駄に背が伸びやがったが…)ポンポンと軽く叩いてやる。早よ泣き止め。周囲からの目線が居たたまれねえんだよっ!



「実に良い試合だった!! ――では、次は…待ちに待った私の番であるっ!!」



 大声と共に俺の背中が馬鹿力でバチコンッ!――と叩かれた。


 痛チチ…っ!? 踏ん張りが効かんかったらトリダンゴごと前に転がってくとこだったぞ?



 というか最悪だ。最近、見掛けないから油断していた。


 そうだ――訓練場に来ると高確率で()と遭遇する。だから基本、俺は頼まれない限りは自主的に訓練場には来ないんだよ…。



 俺の背中を引っ叩いといてまだ笑ってやがるこの豪快な男こそ…トリダンゴ達と同じ、S級(・・)冒険者――“嵐槍”ボアルハボル・ドリュー。



 この城塞都市シオで冒険者を始めたばかりの頃の俺を――最初に自身のパーティへと勧誘してきた男だ。



 

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